健康知識:健脾利水・清熱除湿の良薬 はと麦

梅雨季節に入り蒸し暑い日々が続き、頭が重くて体がだるい、汗がベタベタしてすっきりしない、食欲が出ないなどの症状は湿邪が体内に溜まっている特徴である。そのため、この時期の健康維持で最も重要な原則は清熱除湿である。

中医学的に五臓の中の脾は、気血を化生し運輸するほか、水湿を運化する生理機能がある。脾が健常であれば、気血が充足するし、体内に停滞している湿邪も変化し排除されていく。逆に湿邪が盛んになると、脾の機能も影響されて低下してしまう。

健脾除湿と言うと、真っ先にはと麦が思い出される。はと麦は薬食両用の材料の一種として知られ、その清熱利湿の薬効効果が最も重視されている。はと麦は涼・甘淡の性味で、脾・胃・肺・腎に帰経し、健脾止瀉・利水燥湿・舒筋除痹・清熱排膿などの効能を持ち、主に脾虚湿盛による泄瀉、浮腫、湿温病、脚気、婦人帯下、小便不利;風湿痹痛、筋脈拘攣;肺癕、腸瘍などに用いられる。現代研究によると、はと麦は血圧低下、糖質脂質代謝の改善、腸内菌の調節、抗癌、美白など様々な作用を持っている。また栄養価が高く、適応範囲が広く、安価などのこともあり、日常飲食生活における健康増進に非常に適している。はと麦の作用が平和で、微寒で清熱しながら胃を傷めず、益脾しながら補い過ぎない特徴があり、特に久病体虚や病後回復、そして老人・小児に多く適応している。なお、健脾益胃の場合ははと麦を炒り、利水滲湿・清熱排膿・舒筋除痹の場合は生の物を用いる。

但し普段の食生活では、はと麦の調理に慣れていない方が多いようで、ここで、はと麦の応用方法を紹介するので炎熱と湿気の強い梅雨季節に活用して欲しい。

はと麦小豆粥

[材料]はと麦30g、小豆20g、米50g。

[方法]はと麦と小豆を綺麗に洗ってからお鍋に入れ、お水を加えて強火で煮立ってから弱火に変えて30分間ほど煮込み、更に米を加えて30分間煮込む。

[効用]健脾祛湿。脾虚湿盛による身体困憊、食少腹脹、大便が粘っこくてスッキリしない、舌苔厚膩に適する。

はと麦八宝粥

[材料]はと麦30g、白扁豆、蓮実、胡桃、小豆、竜眼肉各10g、棗6個、糯米100g。

[方法]上記食材を綺麗に洗ってお水と一緒にお鍋に入れ、弱火で柔らかくなるまで煮込んでから、適量の氷砂糖または黒砂糖で調味する。

[効用]健脾開胃祛湿・益気養血。脾虚血少による倦怠無力、食欲不振、慢性泄瀉、心煩不眠などに適する。

はと麦山薬の燕麦粥

[材料]はと麦200g、山薬(皮を剥いて角切り)150g、オートミール30g。

[方法]はと麦を綺麗に洗ってお水で30分間煮込み、そこに山薬を入れて柔らかくなるまで煮込み、オートミールを加えて均等に混ぜる。

[効用]健脾燥湿・開胃消食。脾胃気虚湿滞による面色萎黄、全身無力、食欲不振、消化不良、舌苔厚膩などに適する。

はと麦黄耆棗の粟粥

[材料]はと麦100~200g、生黄耆30~50g、棗10個、粟50g。

[方法]上記食材を綺麗に洗ってお水を加え、弱火で柔らかくなるまで煮込む。

[効用]健脾益気・清熱補血。脾胃虚弱による身体羸痩、面色晄白、倦怠無力、気短自汗などに適する。またはと麦にCoixol(6-methoxybenzoxazolon)、コイクノライド(Coixenolide )という成分が含まれ、また豊かなセレン元素(Selenium)を含有するため、癌細胞の増殖を抑制することができ、癌患者の補助食として用いられる。

はと麦小豆冬瓜皮の鮒スープ

[材料]鮒1匹(約400~500g)、はと麦50g、小豆30g、冬瓜皮50g、陳皮5g、生姜3スライス。

[方法]鮒の鱗と内臓を取り除いて綺麗に洗い、鉄鍋にサラダ油を少々塗して弱火で鮒を炒っておく。はと麦をお水で30分間煮てから小豆、冬瓜皮、陳皮、生姜、鮒を加えて30分間煮込み、料理酒を少々入れて沸騰したら出来上がり。

[効用]健脾利水。脾虚による水腫、脘腹脹満、食少、大便溏泄、四肢倦怠などに適する。

はと麦杏仁冬瓜仁葦茎スープ

[材料]はと麦50g、杏仁10g、冬瓜仁30g、芦の茎30g。

[方法]上記の食材を綺麗に洗ってお水に入れ、強火で沸騰してから弱火に変えて1時間煮込む。

[効用]健脾祛湿・止咳化痰。脾虚湿滞で、肺熱による咳嗽、粘っこい白色または黄色の痰を吐くなどに適する。

はと麦玫瑰花月季花茶

[材料]はと麦30g、玫瑰花5g、月季花3g。

[方法]はと麦を綺麗に洗ってお水に入れ、強火で煮立ってから弱火に変えて1時間ほど煮込み、火を止めて玫瑰花と月季花を加え、蓋を閉めて15分間蒸し、冷めてから飲用する。

[効用]美白潤膚・活血消斑。長期飲用により皮膚が滑々で、褐色斑や面皰を解消する。

 

健康知識:夏季における生姜の応用

中国では「冬に大根、夏に生姜を食べれば、医者の薬方をいらず」との言い方がある。夏季に向けて生姜を活用することで、健康維持に役立つ。

生姜は辛・温の性味で、脾・胃・肺経に帰経し、散寒解表・温肺化痰止咳・温中降逆止嘔・解毒の効能を持ち、主に風寒感冒による悪寒発熱、頭痛鼻閉、肺寒による咳嗽多痰、痰飲喘咳、胸脇脹満;脾胃虚寒による脘腹冷痛、泄瀉、胃寒または胃気不和による悪心嘔吐、食少;婦人月経不順、崩漏、産後血暈、瘀血腹痛、吐血、鼻衄、喀血、便血;魚蟹や半夏の中毒などに用いられる。また、姜には生姜と乾姜の違いがあるが、生姜は温性で発汗解表の作用が強く、乾姜は熱性で温中散寒の作用が強い。

ここで夏季における生姜の応用を紹介する。

1、生姜黒糖汁

夏の朝起きてから先ず、生姜と黒糖の煮汁を飲むことで、消化液の分泌を促進して健脾開胃・消化促進の作用を果たし、同時に祛風散寒の効能を持ち、風寒感冒の症状がある場合は緩解する。

2、生姜棗汁

生姜と棗の煮汁は和胃降逆止嘔の作用を果たし、寒冷による胃痛、吐気、嘔吐、腹痛、下痢などに対して緩和効果がある。

3、生姜紅茶

紅茶1~3g、生姜3スライスをコップに入れてお湯を加えて茶代わりに飲むことで、夏季における寒冷飲食による消化機能低下、胃腸機能失調などの諸症状を緩和する。

4、生姜汁外用

夏冷房の室内に長時間いると、肩背部や背腰部の強張りや痛みが屡々見られる。この場合、温かい生姜の煮汁に少々食塩とお酢を加えてそこにタオルを入れて濡らし、患部に当てることで、舒筋活血の効果を持ち、局所筋組織の強張りを緩め、痛みを解消する。

注意して欲しいのは、陰虚内熱及び実熱証のものには生姜の長期食用が適さず、肝疾患、目疾患、痔瘡のものは慎重に食する。また、生姜黒糖汁は風寒感冒の軽症に適するが、風熱感冒や暑湿感冒には適しない。

会員通信:NPO法人伝統医学教育会事業活動報告書(2022年度)

1、講習会

2022年度の講習会は、4月から12月にかけて「飲食薬膳療法の基礎と応用」講習を行い、4月から11月にかけて前年度実施した「常見病証の針灸治療実技」のⅡ期講習を行いました。

「中医飲食薬膳療法」はテーマが非常に大きくて講習内容がとても広範囲ではありますが、これまでに二度ほど講習を行いました。昨年は10年ぶりの講習に備え、テキストを修正したほか、疫病蔓延の時期における健康増進のため新たな解説方法を加え、これまでと同様に理論と実用の知識に重点を置いて講習しました。最後に薬膳一品の作成実演と試食、薬酒の試飲も行いました。

一方、「常見病証の針灸治療実技」講習は前年度から開催していましたが、今年はⅡ期として継続し、計4名が参加されました。今回も伝統医学教育の実用性に重点を置き、針灸臨床に常見される6病証を新たに取り上げ、その基本概念、病因病機、そして辨証分型を明確にしたうえ、治療原則と選穴処方を解説し、具体的な刺針実技を指導しながら、技能練習を行いました。参加者の皆さんは実技も積極的に練習し臨床での即戦力が高まったようです。

 

2、健康支援

教育事業活動のほか、会員の健康支援活動も引き続き行っています。伝統医学教育会ホームページの会員専用ページにて健康知識を定期的に更新していますので、皆様の健康増進の参考にして頂きたいです。

また、長くご支援下さった会員の皆様に感謝の気持ちを込めて、健康支援のために伝統医学的な薬茶をお送りしました。今回は主に新型コロナウイルス感染の急増状態、及び盛夏の暑熱湿聚の特徴に従って5種類の薬茶を考案して処方と見本を送付しました。会員の皆様にお送りした薬茶の主要材料は比較的容易に入手できる身近なものを使って作成しましたが、作成方法は教育会の会員専用ページに公開しています。

 

健康知識:葱姜蒜による春季の疫病予防

春が近付くと自然界は陽気昇発という特徴になり、万物生成の光景が現れている。同時に春は風を主り、風を特徴とする病証が流行り易い。そこで、今の季節には新型コロナウイルス感染症に加え、様々な感染症が多発している。感染症の予防には感染源遮断と免疫力増強が重要な方針である。マスク着装・対人距離保持・随時の手洗いなどは感染源遮断のため効果的な方法であるが、人体生命力の一面である免疫力は医療気功、針灸推拿、薬剤薬膳など東洋的な医療方法により強化できる。

古来、伝統医学では薬食同源を提唱して食物の特性を以て疾病の予防と治療に用いている。これによって陰陽のバランスを取り戻して生体の免疫力を高める。「厨房三宝」と呼ばれる長葱・生姜・大蒜は薬食両用の重要な食材である。辛熱発散の薬性を持っているため、春の特徴と共通し、人体の陽気を助長して風寒湿の邪気を取り除き、疫病の予防効果を果たす。《傷寒論》、《千金方》、《本草綱目》など薬物経典に収録してある疫病の予防治療の食療処方に長葱・生姜・大蒜を含むものが数多くあり、また熱く炒って臍や合谷などの経穴に付けて熱罨法を行う外治療法をも記載している。

ここでは長葱・生姜・大蒜の薬性効果と応用方法について紹介する。疫病蔓延の時期に当たって多めに食用することにより、予防治療の作用を果たして欲しい。

1、長葱

葱は辛味・温性で、肺・胃に帰経し、発汗解表・通達陽気・殺虫解毒の薬効を持つ。風寒感冒の良薬であり、医聖張仲景はその通陽作用を熟用して君薬(処方の主薬)として推奨し、《本草綱目》には「生辛散,熟甘温,外実中空,肺之菜也,肺病宜食之。」と記載している。

長葱には発揮油が含まれ、その成分はアリシンAllicinで、強い殺菌作用がある。調理上、長く茹で過ぎたり煮過ぎたりすべきではない

[応用]葱白粥。

[作り方]お米50g、長葱の白い根、砂糖適量。先ずお米を煮込み、柔らかくなりそうな時に葱白を段冊切りして入れ、一度沸騰してから、砂糖で調味して温かく飲む。1日に1回。

[効能]解表散寒、和胃補中。主に風寒感冒に適応する。

また、咳嗽咽喉疼痛を伴う場合は、長葱を丸ごとフライパンで柔らかくなるまで炒るかグリルで焼いてガーゼやハンカチに巻いて喉に巻き付けることも効果的である。

2、生姜

姜は辛味・温性で、脾・胃・肺に帰経し、発散風寒・発汗解表・活血除湿・化痰止咳・温中止嘔・解毒などの薬効を持つ。これによって血液循環を促進し、毛穴を広げて汗を排出させ体内の余分の熱や邪気を払い出し、また人体の新陳代謝を速めるほか、血栓の形成を予防する。

[応用]生姜紅棗水

[作り方]生姜5スライス、棗5個、黒砂糖適量。たっぷりのお水を入れたお鍋に生姜と棗を入れて強火で沸かしてから、弱火に変えて15分間ほど煮込む。黒砂糖で調味して飲用する。

[加減]好みによって黒砂糖を食塩に変えても良い。寒性体質の場合は生姜を増量する;薄い鼻水、鼻詰まりの場合は長葱の白い根を4~5個加え、根の鬚が更に良い;熱性体質で逆上せ易い場合は生姜を減量し、杭白菊を数個加える。

3、大蒜

大蒜は辛味・温性で、脾・胃・肺・大腸に帰経し、温中健胃・消食止痢・解毒殺虫・理気止咳・抗癌消瘤・宣竅通閉・健脳益知・老衰遅延などの薬効を持つ。「天然の広域スペクトル抗生物質」と呼ばれるように、インフルエンザウイルスや寄生虫などに対して優れている抑制や殺傷の作用を果たす。

大蒜にはアリシンAllicinが含有され、広範の抗菌・殺菌・抗原虫の作用を持っているが、有効成分は加熱すると失ってしまうため、生で食用するのが適宜である。

[応用1]大蒜水

[作り方]生の大蒜を数欠片スライスに切るか潰し、朝昼晩に分けて温湯に浸して飲用する。或いは醤油、お酢、胡麻油で食用する。

[応用2]大蒜泥吸入

[作り方]生の大蒜を泥状に磨り潰し、匙一杯を口に入れ、深呼吸を行う。1回15分間繰り返して1日に3回行う。鼻水、痰、涙などが出る場合は直ぐに鼻をかんだり、痰を出したりして呼吸を続ける。

[効能]清肺健脾、抗ウイルス。

 

健康知識:冬季における感冒咳嗽の食療方法

冬の季節は、感冒(風邪)に罹り易くなり、悪寒発熱や鼻水頭痛などの症状が伴うほか、咳が多く見られる。しかも諸症状が治まっても咳だけが中々治らず、飲食や睡眠など日常生活に支障を来たし、更に慢性化すると咽喉炎や気管支拡張なども起こし易い。

中医学の飲食薬膳療法を活用することで、早急に咳の症状を改善させることができる。具体的に応用する際には、感冒の臨床辨証を行う必要があり、これにより咳嗽の治効を高める。

中医学的に、感冒は外界の邪気を感受して発病する外感病(外感表証)に属する。感冒による咳嗽は主に風寒か風熱の邪気から起こされるが、ほかに風燥によるものもある。臨床では、主に寒熱の辨証に従って相応しい薬膳献立を選択して対応することができる。

1、風寒咳嗽:咳の音は重く濁る、咽喉が痒い、喀痰が薄くて白い、また悪寒発熱、無汗、頭痛、全身痠痛、嚏、鼻詰まり、薄い鼻水など風寒束表の症状を伴う。

寒性咳嗽の場合は、大根葱白生姜湯を勧める。宣肺解表・止咳化痰・理気消食の作用を以て風寒咳嗽に多く用いられる。作り方は、大根と長葱の白い部分と生姜をそれぞれ15g薄切りにしておき、先ず大根をお椀3杯ほどの水に入れて柔らかくなるまで煮て、葱と生姜を加えて再度沸騰させ、汁を飲んで具も食する。

また、大根のスライスを紫蘇の実(或いは棗)と蜜柑の皮と一緒に煮て黒糖を加えて温かく飲む事も風寒疏散・宣肺止咳・消食化痰の効果を果たす。

ほかに、風寒感冒で悪寒無汗、全身痠痛などで苦しい場合は、生姜と黒糖の煮汁を大量に飲用して発汗することで対策するが、駆寒暖胃の効能に加えて潤肺止咳の効果も強化するため、生姜黒糖大蒜の煮汁をお勧めする。人体の免疫力強化に繋がって風寒感冒の予防策としても用いられる。作り方は、大蒜を15gスライスして10~15分ほど放置し、生姜も15gスライスし、お椀1杯ほどの水に入れて煮立てて大蒜のスライスと黒糖を加え、再度沸騰したら弱火にして10分間煮込む。

2、肺熱咳嗽:咳、咽喉が乾いて腫れて痛い、喀痰が黄色く粘っこい、また発熱頭痛、汗出悪風、黄色い鼻水などの風熱襲肺の症状、或いは空咳で痰が少なくて吐き出し難い、咳が甚だしい時に血痰、胸痛など燥熱傷肺の症状を伴う。

熱性咳嗽の場合は、オレンジの塩蒸しをお勧めする。オレンジの実には理気化痰・潤肺止咳の効能があるが、オレンジの皮にも化痰止咳の重要な成分のノスカピンと橙皮油が含まれ、皮つきで蒸してはじめて有効成分が取り出される。作り方は、食塩でオレンジの外皮を綺麗に洗い、オレンジの上端を水平に切って蓋として残しておく。オレンジを茶碗に入れ、お箸でオレンジの果肉に数個の穴を刺し、適量の食塩を塗してから切り落とした蓋を閉める。鍋に入れて10分間ほど蒸し煮し、オレンジの果肉を取り出して汁と一緒に温かく飲む。通常一日に一個を食す。

老年性慢性気管支炎による咳嗽で痰が多い場合は、大根蜂蜜水をお勧めする。大根には生津止咳・理気化痰の効能があり、蜂蜜には潤肺止咳・潤腸通便・潤膚美顔の効能がある。作り方は、大根を綺麗に洗って千切りするか小さい塊に切り、適量の蜂蜜を掛けて均等に混ぜ、水も油もない容器に2時間ほど放置すると汁が染み出る。汁を飲んで大根も食す。

肺燥による空咳が長らく止らない場合は、鶏卵の胡麻油炒めをお勧めする。胡麻油は通気理肺の効能を持って咳嗽を軽減させるほか、様々な異物による肺臓への損傷を軽減させ、鶏卵は補肺養血・清熱解毒・潤利咽喉の効能を持っている。作り方は、胡麻油を鍋に入れて熱し、生姜の微塵切りを少々加えて香りが出たら、溶いた鶏卵を入れて熱が通るまで炒め、調味料は入れない。

健康知識:冬至に冬季養生を再び語る

二十四節気の冬至が到来し、これから本格的な厳冬時期を迎える。今年は陰陽消長の変化が激しく、夏は余りにも酷暑であったため、冬は例年より酷寒になりそうで、冬季の養生についてもっと意識を強化する必要がある。

* 2020年送付した《中国伝統医学 健康養生知識》の112頁における「冬季における補腎養生(2014年12日公開)」も参照できる。

陰盛陽衰の冬季では冬至が一年中の陰陽転化の転換点であり、自然界の陰気が極めて盛んになると同時に陽気が生み始める。この陰陽変化に従い、生体も陽気が生み始めて弱いため、外界の寒邪に損なわれ易い。そのため、健康養生のため陽気の封蔵と養護はこの時期、最も重要な原則とされている。また中医学では、腎気は冬気に繋がっており、冬季は腎陽腎気を大切に補う時期でもある。

この養生原則の下で、具体的な方法を紹介する。

1、保暖避寒・少動多蔵:陽気は最も陰寒に傷められ易いため、常に暖めなければならない。普段の服装や室温でも充分に保温に気を付け、また身体に持病のある方や体調不良の場合にホカロンなども活用して良い。また封蔵を特徴とする季節なので、陽気の損耗や漏洩などを避けて活動運動も少なめにし、特に激しい運動を控える。最もお勧めするのは八段錦や太極拳など優しい動きの医療気功である。

2、早寝遅起・必待日光:この時期ではある程度の「懶惰」が必要である。日が未だ短いため、早く寝て遅く起き、日が出てから動き出して陽気の消耗を避ける。また自然界の陽気を以て生体の陽気を補充する方法として、背中に日を浴びるか、晴天の夕方に日差しで温まった椅子やベンチに座るなどがある。

3、艾灸腧穴・袪寒壮陽:艾を燃やして身体の腧穴に据えて温まる艾灸法はこの時期に最適である。艾灸法には温陽益気・袪散寒湿の効能があり、陽気を温めて補うことで抵抗力・免疫力・修復力など人体生命力を高めるほか、寒湿邪気や疫病邪気を追い払う作用を以て、この疫病蔓延の冬季に一石二鳥の効果が期待できる。実際、中国の大学病院では新型コロナウイルス肺炎の治療に対して、温灸の応用で確実な効果が臨床治験に実証され、現在艾灸も防疫物資の一種に数えられている。

4、飲食調養・加食牛羊:飲食薬膳療法は健康養生の重要な手段とされている。秋の収穫に恵まれ、冬は補うための充実した季節だと言える。食べる事で一番身体を補養でき、翌年春夏の生長に堅実な土台を築く。また腎陽が生体の元陽となり、冬季は補腎に相応しい。腎陽を補うため、羊肉、牛肉、海老、韮、山芋などが多く用いられる。

ほかに、基礎保健気功には、「鳴天鼓」(手掌で外耳道開口を覆い、示指で後頭部を軽く叩く)を行ったり、臍下丹田を揉んだり、耳介・腰・足裏を擦ったりすることも補腎の役割を果たして冬季養生の一環として重要である。

健康知識:重曹の薬用効果

重曹は重炭酸曹達(ソーダ)の略称で、重炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムとも呼ばれる白い粉末であり、生活用品や食品、医療、農業、工業、土木など、様々な分野で活用され、重要な役割を果たしている。

重曹は天然の原料を使用して精製されている。現在、製法は原料から大きく二つに分け、岩塩を水に溶かして電気分解するか、重曹成分を含有する鉱石などを水に溶かし、炭酸ガスを添加して結晶化する方法である。

重曹は日常生活において料理や清掃など幅広く応用価値があるが、薬用効果を以て下記の活用もできる。

1、リウマチ関節痛の緩解

重曹を膏薬状(糊状)に調合し、関節疼痛の局部に塗り付け、自然に乾燥してから綺麗に洗い落とす。

またタオルに重曹の溶液を浸けて患部に熱布することができる。

2、痛風の予防治療

300~400gの重曹をお湯で希釈し、タオルで巻いた脚(患部)にかけて20分間ほど温める。お湯の温度は熱過ぎないように注意しよう。一日に二回行い、慢性痛風の場合は更に多く行うことをお薦め。

3、身体疲労の解消

適量の重曹と食塩を浴槽のお湯に入れて30分間ほど入浴すると、鎮静作用を果たし、また筋緊張を緩和させ、同時に皮膚のタコ消除できる。

因みに、長期の家事などで両手の皮膚が粗くなる場合があるが、重曹とココナツオイルでスクラブを作って両手で擦ることで、手の皮膚がきめ細かく柔らかくなる。

重曹の安全性について、元々生体の中にもあるし、天然成分なので、身体に大きな危害は無いと考えられる。しかし弱アルカリ性(pH約8.2~8.6)のため、肌に長時間付着したり、目に入ったりすると沁みる刺激性がある。また重曹には薬用、食品用、工業用、飼料用など様々な種類があり、服用の際は塩化物基準や純度、衛生面などを考慮して薬用か、食品用の物を使用し、1日目安は概ね3gくらいにした方がよい。長期間の服用は身体の健康に適せず、口腔異臭や食欲不振などが現れ、更に筋肉痛、引き攣り、持続性頭痛などが見られる。

健康知識:林檎の薬用効果を高める食用方法

秋の深まりに伴い、気候が乾燥して来ている。炎熱の夏季とは異なり、寒冷時期は飲料水などが体内で気化され難いため、身体を潤わせるために果物は最も相応しいと言える。寒い季節の果物と言えば、蜜柑と並び、林檎のイメージが強い。

林檎は人類が食する最古の果物とされ、約八千年前から栽培されていたと見られる。欧米では「一日一個の林檎は医者を遠ざける」と言われるように、栄養価が高くて食べ易いため、世界中に好まれている。

中医学的には、林檎は甘・酸・涼の性味で、肺・脾・胃・心に帰経する。開胃生津・止渇除煩・潤肺養膚・酒毒解消などの効能を持ち、脾胃虚弱、消化不良、食少、食後腹脹、便秘、泄瀉(慢性結腸炎);気喘(気管支喘息)、津液不足、煩熱口渇、飲酒過度などに用いられる。現代研究によると、林檎にはリンゴ酸やクエン酸など疲労回復を促進する有機酸、整腸排毒とコレステロール吸収抑制の効果を持つ水溶性食物繊維のペクチン、更に脂肪低減や抗酸化・老化防止効果の期待できるポリフェノールが豊富であり、また効果的にコレステロール・血糖・血脂を降下させ、美容養顔・減肥瘦身も注目されている。

これらの薬用効果を最大限に発揮させるため、食用方法が重要である。通常、林檎は生食されるほか、加工してジュース、酒、ジャム、菓子などにも広く利用されている。実際、生食より煮る方法が最も栄養素を吸収し易く、また加熱した林檎は様々な病症の改善に役立つ。

① 酸化防止:加熱した林檎に含まれるポリフェノール類の天然抗酸化物質が大幅に増加し、血脂降下・血糖降下の効能を持つほか、抗菌消炎・フリーラジカルを抑制する抗酸化の作用があり、老化防止に繋がる。

② 血圧降下:加熱した林檎はカリウム塩に富み、人体に摂取後ナトリウム塩に置き換えられて体外に排出させ、血圧降下の効能を持ち、心血管疾患の保護に繋がる。

③ 泄瀉治療:加熱した林檎に含まれるペクチンとタンニン酸などは共に収斂止瀉の効能を果たし、同時に腸内有益細菌叢の生長を刺激して腸管炎症を解消する。

④ 胃腸保護:林檎を多食すると腹脹や下痢を起こし易い。煮てから食すると、胃腸への刺激を軽減させ、胃腸機能が低下する方、身体が虚弱する方、そして冷え性の方に対しては胃腸への一種の保護とし、同時に林檎の栄養素の吸収促進にも有益である。

⑤ 内熱解消:気候が乾燥する時に、身体も乾燥して逆上せ易い内熱症状が現れ易い。この場合は林檎を皮付きで細かく切ってお水で煮て食すると、口唇の熱瘡、歯肉炎症、舌炎など内熱症状の予防治療に効果的である。

また水腫患者は利尿薬物による治療後、林檎の食用でカリウムの補充ができるし、またナトリウムの含量が少ないため水腫の増悪にもならない。

なお、食物繊維は主に皮にあるので、一般に皮ごと食するのをお勧めする。

ここでは、冬季における林檎を用いた止咳処方「枸杞林檎水」を紹介する。

[材料]林檎1個、枸杞の実15g、氷砂糖30g。

[方法]林檎の皮と種を除いてスライスに切り、お椀3杯ほどのお水を加えて弱火で2~3分間煮る;沸かしたら枸杞の実を入れて更に弱火で5分間ほど煮る;林檎が半透明の状態まで煮て氷砂糖を加えて更に2~3分間煮て火を止める。

冬季の最も効果的な止咳処方として健康維持のために活用しよう。

健康知識:健康増進と免疫強化について

新型コロナウイルス感染が三年ほど延び、疫病情勢が緩和したり、また緊張したりし、収束の目途が中々見えない。ワクチン接種は元々重症化防止のためで、直接感染予防に役立たないし、ワクチン自身の生体に起こした免疫反応の安全性が未だに確認されていない。明確な効果を持つ特効治療薬の無い現段階では、感染されない、或いは感染されても発症せずに済むことは非常に重要で、それは恐らく自力に頼るしかない。そのため、健康増進に関連して免疫強化の話題も注目されてきた。

日常生活で何を食べれば免疫力が高められるのか?患者さんや学生さんに多く質問されるが、回答として、日常生活で免疫力を高める食物は無い。確かに普段、何らかのキノコ類の食べ物や菌類の飲み物の商品には免疫力アップや免疫力ケアの効果があると宣伝されているが、実際あくまでも人体の免疫力に関わる栄養物質を増やす効果に限られ、正確な意味では直接免疫力強化の効能とは言えない。

そもそも免疫とは病疫から免れることを指す。現代医学における免疫力は、人体が本来備える生理機能として、外界または体内の病邪(疾病を起こす素因)に対する自己防御機能である。具体的に血液中の白血球がこれを担っており、小食細胞と呼ばれる好中球(顆粒球)、大食細胞と呼ばれるマクロファージ(単球)、特定の抗体を作って病原体の侵襲を抵抗するB細胞(リンパ球)、病原体に感染された細胞を攻撃してその繁殖を抑えるT細胞(リンパ球)、そして主に癌細胞を見付け出して攻撃するNK細胞など、五つの免疫細胞が常に働いている。

こう見ると、日頃より何かの飲食物を多く摂取するだけで簡単にこれらの免疫細胞を増やしたり、活性化させたりすることは先ず無理であろう。また免疫力は増強され難いだけでなく、逆に減弱され易い。精神的なストレス、体力低下、栄養失調、睡眠障害、理化学的な不良刺激など、生活における様々な不良素因の影響により免疫低下が容易に起こされる。

一方、免疫力は人体の生命力の一方面として、治癒力や修復力(回復力)などと同じく、生体全体の健康状態の総合改善に従って増強できる。そのうち、体力と気力(精神力)は健康の基本となっているため、先ずは重要な影響素因となる睡眠と飲食を確保し、心身両面の消耗による免疫力減弱を避けなければならない。このうえに、東洋的な観点から医学的な手段を用いて免疫強化が可能である。

中医学的には、人体の正気が免疫力に当たる。具体的に体内の陰陽から言うと、身体の滋潤・栄養作用を持つ陰気に対して生体の推動・温煦・防御機能を持つ陽気が免疫力となり、また脈に流れている営衛之気から言うと、脈内に流れて栄養作用を持つ営気(営陰)に対して脈外に流れて防御機能を持つ衛気(衛陽)が免疫力となる。普段、背中に日光浴し、自然界の陽気を以て生体の陽気を保養する効果があるが、更に様々な中医療法の活用により免疫力を高める事が出来る。

1、長期的な養生法:医療気功

調身、調息、そして調神の三調節を長期的に持続することにより、生体全体の生理機能を高めるに伴い、人体の自然抵抗力と治癒力を高める。

2、即効性を持つ治療法:針灸推拿

体外から理学的な刺激を与えることで、体内に良性反応を起こして生体の免疫力を増強させる。実験針灸学の研究によると、ある特定の経穴に温灸または刺針を行うことにより、血液中の白血球数が顕著に増加する。お勧めできる経穴として、大椎、肝兪、脾兪、腎兪、足三里などがある。

また全身推拿を行うことで、全身の循環・呼吸・消化・泌尿・運動・神経・内分泌などの機能を調節するほか、免疫機能に明らかな良性調節作用を果たしている。実験研究によると、推拿施術は血液中の白血球総数を増加させ、リンパ球の比例も高め、白血球の呑食能力を増強させる。動物実験の結果で、推拿療法は免疫系への調節作用によりNK細胞を増加させることを示している。

3、総合的な健康法:薬剤薬膳

罹病患者には病証に基づく中薬処方の服用、また本来体質虚弱の者には薬効食物と食用薬物の相応しい応用により、それぞれの免疫力を改善させられる。基本的には補気養血の効能を持つ薬食両用のものを主としており、中には最も効能が優れてお勧めできるのは植物性の大棗と動物性の阿膠であり、両者は共に赤血球と白血球を明らかに増加させ、特に後者の阿膠は骨髄の造血機能を保護し、血球の外に血小板も増加させる。

陽気保養のための背中に日光を浴びる方法、温灸を行う方法、そして大棗を食用する方法などは、伝統医学教育会ホームページの会員専用ページの健康知識に紹介されているので、参考にして実施し、免疫力を高めて欲しい。

健康知識:三伏天における生姜の特別な応用

中国では「寒は三九にあり、熱は三伏にあり」の諺がある。夏の三伏天になると、生体の陽気が体表に浮いてくるが、その時冷たい飲食を好んで過食すれば、体内の脾胃は虚寒状態に陥ってしまう。そこで、一年中で最も熱い時期では、一切寒冷を求めてはいけず、正確な養生方法として「熱を以て熱を制す」という原則を活用しなければならない。このことから、最も相応しい食べ物として生姜が挙げられる。

生姜は性味が辛温で脾・胃・肺に帰経し、散寒除湿・発汗解表・化痰止咳・温中止嘔・活血止血・解毒など様々な効能を持ち、風寒感冒、悪寒発熱、頭痛鼻閉、肺寒咳痰、痰飲喘咳、胸脇脹満;脾胃虚寒、脘腹冷痛、泄瀉;胃寒または胃気不和、悪心嘔吐、食少;婦人月経不順、崩漏、産後血暈、瘀血腹痛、吐血、鼻衄、喀血、便血;魚蟹や半夏(漢方生薬)の中毒など広く用いられる。三伏天では脾胃の虚寒を駆除するほか、冬病夏治の作用が大いに期待できる。

上記の病証のみならず、夏に多く見られる小さい問題も生姜を使って効果的に解消できる。

1、食欲不振

生姜にあるギンゲロールは舌の味覚神経及び胃粘膜の受容体を刺激し、神経反射によって胃腸の充血を催し、同時に消化液の分泌を促進する。これによって健脾開胃・消化促進・食欲増進の効果を果たす。

方法:生姜を綺麗に洗ってから水気を取り、薄くスライスし、少々塩を塗して12時間ほど漬けておく。出来上がった生姜のスライスを綺麗な密封容器に移し、充分浸すほど酢を入れ、ラップしてから蓋を閉め、4日以上放置してから食用できる。毎朝1~3スライスお勧めする。

2、胃腸不調

生姜は外へ発散するという特別な特徴があり寒邪を排除することができる。脾胃虚寒の方や、冷やされた後に吐気・腹痛・泄瀉などが現れる方は生姜棗茶或いは生姜米茶が役立つ。

生姜棗茶:皮付きの生姜3スライスと棗6個(千切って種を除く)を一緒にお鍋に入れ、水を加えて20分間ほど煮込む。煮込むのが難しい場合は直接コップに入れてお湯を加え、暫く蓋を閉めて浸しても良い。

生姜米茶:生姜と米を1:2の比例にし、生姜を千切りして2分間ほど炒って水気を取り、米を加えて約20分間混ぜ合わせながら炒り、黄色い焦げになったら密封容器に保存しておく。毎度50gほどを取り出して500mlの水で10分間ほど煮る。

3、肩腰疼痛

冷房に吹かれた頸肩や背腰は特に風寒湿などの病邪に侵襲され易い。また設定温度が低いと、肩や腰の持病も再燃することが多い。この場合は、生姜の煮汁を使えば効果的である。

方法:生姜を煮込んだ汁の中に少々塩と酢を加え、タオルを浸して絞り、患部に置いて温める。数回ほど繰り返すと疼痛を緩和させる。

4、傷風感冒

長期に渡って空調環境に身を置くことが続くと、室内外の温度差が多いため、体内の調節システムが乱れて免疫力も下がり、風寒を感受して感冒に罹患し易い。傷風感冒の場合は直ちに数スライスの生姜を食べるか、生姜黒糖スープを飲むと、寒邪の駆除に大きく役立つ。

方法:皮付きの生姜を5スライス切り、沸騰するお湯に入れて3分間経て黒糖を加え、均等に混ぜて飲用できる。

生姜は非常に良い食べ物であるが、実際に使用する際に注意しなければならない事がある。

先ず生姜の食用時間に気を付けて欲しい。一般に朝や午前中に食すと、陽気の昇発を助長できるが、夕方や夜に食すと、心神が収斂できない恐れがある。故に「朝に食す生姜は人参(漢方生薬)の如き、晩に食す生姜は砒素の如き」との説がある。

次に生姜は辛温の性味で、熱性疾患には適しない。陰虚内熱(面色潮紅、心煩盗汗、手足心熱、口渇咽乾、皮膚乾燥、舌痩紅、苔少など)や、体内実熱(風熱感冒、肺熱の咳嗽で黄粘痰、胃熱の嘔吐口臭、膀胱湿熱の尿黄赤で渋痛、肝火の煩躁易怒、心火の神志不安、瘡瘍潰爛、痔瘡出血など)の方には少なめに食すか、食用しない。

また肝病証(肝気は昇発主動)、目疾患(肝の竅)、そして小児(純陽の体質特性)にも慎重に食用しなければならない。