健康知識:林檎の薬用効果を高める食用方法

秋の深まりに伴い、気候が乾燥して来ている。炎熱の夏季とは異なり、寒冷時期は飲料水などが体内で気化され難いため、身体を潤わせるために果物は最も相応しいと言える。寒い季節の果物と言えば、蜜柑と並び、林檎のイメージが強い。

林檎は人類が食する最古の果物とされ、約八千年前から栽培されていたと見られる。欧米では「一日一個の林檎は医者を遠ざける」と言われるように、栄養価が高くて食べ易いため、世界中に好まれている。

中医学的には、林檎は甘・酸・涼の性味で、肺・脾・胃・心に帰経する。開胃生津・止渇除煩・潤肺養膚・酒毒解消などの効能を持ち、脾胃虚弱、消化不良、食少、食後腹脹、便秘、泄瀉(慢性結腸炎);気喘(気管支喘息)、津液不足、煩熱口渇、飲酒過度などに用いられる。現代研究によると、林檎にはリンゴ酸やクエン酸など疲労回復を促進する有機酸、整腸排毒とコレステロール吸収抑制の効果を持つ水溶性食物繊維のペクチン、更に脂肪低減や抗酸化・老化防止効果の期待できるポリフェノールが豊富であり、また効果的にコレステロール・血糖・血脂を降下させ、美容養顔・減肥瘦身も注目されている。

これらの薬用効果を最大限に発揮させるため、食用方法が重要である。通常、林檎は生食されるほか、加工してジュース、酒、ジャム、菓子などにも広く利用されている。実際、生食より煮る方法が最も栄養素を吸収し易く、また加熱した林檎は様々な病症の改善に役立つ。

① 酸化防止:加熱した林檎に含まれるポリフェノール類の天然抗酸化物質が大幅に増加し、血脂降下・血糖降下の効能を持つほか、抗菌消炎・フリーラジカルを抑制する抗酸化の作用があり、老化防止に繋がる。

② 血圧降下:加熱した林檎はカリウム塩に富み、人体に摂取後ナトリウム塩に置き換えられて体外に排出させ、血圧降下の効能を持ち、心血管疾患の保護に繋がる。

③ 泄瀉治療:加熱した林檎に含まれるペクチンとタンニン酸などは共に収斂止瀉の効能を果たし、同時に腸内有益細菌叢の生長を刺激して腸管炎症を解消する。

④ 胃腸保護:林檎を多食すると腹脹や下痢を起こし易い。煮てから食すると、胃腸への刺激を軽減させ、胃腸機能が低下する方、身体が虚弱する方、そして冷え性の方に対しては胃腸への一種の保護とし、同時に林檎の栄養素の吸収促進にも有益である。

⑤ 内熱解消:気候が乾燥する時に、身体も乾燥して逆上せ易い内熱症状が現れ易い。この場合は林檎を皮付きで細かく切ってお水で煮て食すると、口唇の熱瘡、歯肉炎症、舌炎など内熱症状の予防治療に効果的である。

また水腫患者は利尿薬物による治療後、林檎の食用でカリウムの補充ができるし、またナトリウムの含量が少ないため水腫の増悪にもならない。

なお、食物繊維は主に皮にあるので、一般に皮ごと食するのをお勧めする。

ここでは、冬季における林檎を用いた止咳処方「枸杞林檎水」を紹介する。

[材料]林檎1個、枸杞の実15g、氷砂糖30g。

[方法]林檎の皮と種を除いてスライスに切り、お椀3杯ほどのお水を加えて弱火で2~3分間煮る;沸かしたら枸杞の実を入れて更に弱火で5分間ほど煮る;林檎が半透明の状態まで煮て氷砂糖を加えて更に2~3分間煮て火を止める。

冬季の最も効果的な止咳処方として健康維持のために活用しよう。

健康知識:健康増進と免疫強化について

新型コロナウイルス感染が三年ほど延び、疫病情勢が緩和したり、また緊張したりし、収束の目途が中々見えない。ワクチン接種は元々重症化防止のためで、直接感染予防に役立たないし、ワクチン自身の生体に起こした免疫反応の安全性が未だに確認されていない。明確な効果を持つ特効治療薬の無い現段階では、感染されない、或いは感染されても発症せずに済むことは非常に重要で、それは恐らく自力に頼るしかない。そのため、健康増進に関連して免疫強化の話題も注目されてきた。

日常生活で何を食べれば免疫力が高められるのか?患者さんや学生さんに多く質問されるが、回答として、日常生活で免疫力を高める食物は無い。確かに普段、何らかのキノコ類の食べ物や菌類の飲み物の商品には免疫力アップや免疫力ケアの効果があると宣伝されているが、実際あくまでも人体の免疫力に関わる栄養物質を増やす効果に限られ、正確な意味では直接免疫力強化の効能とは言えない。

そもそも免疫とは病疫から免れることを指す。現代医学における免疫力は、人体が本来備える生理機能として、外界または体内の病邪(疾病を起こす素因)に対する自己防御機能である。具体的に血液中の白血球がこれを担っており、小食細胞と呼ばれる好中球(顆粒球)、大食細胞と呼ばれるマクロファージ(単球)、特定の抗体を作って病原体の侵襲を抵抗するB細胞(リンパ球)、病原体に感染された細胞を攻撃してその繁殖を抑えるT細胞(リンパ球)、そして主に癌細胞を見付け出して攻撃するNK細胞など、五つの免疫細胞が常に働いている。

こう見ると、日頃より何かの飲食物を多く摂取するだけで簡単にこれらの免疫細胞を増やしたり、活性化させたりすることは先ず無理であろう。また免疫力は増強され難いだけでなく、逆に減弱され易い。精神的なストレス、体力低下、栄養失調、睡眠障害、理化学的な不良刺激など、生活における様々な不良素因の影響により免疫低下が容易に起こされる。

一方、免疫力は人体の生命力の一方面として、治癒力や修復力(回復力)などと同じく、生体全体の健康状態の総合改善に従って増強できる。そのうち、体力と気力(精神力)は健康の基本となっているため、先ずは重要な影響素因となる睡眠と飲食を確保し、心身両面の消耗による免疫力減弱を避けなければならない。このうえに、東洋的な観点から医学的な手段を用いて免疫強化が可能である。

中医学的には、人体の正気が免疫力に当たる。具体的に体内の陰陽から言うと、身体の滋潤・栄養作用を持つ陰気に対して生体の推動・温煦・防御機能を持つ陽気が免疫力となり、また脈に流れている営衛之気から言うと、脈内に流れて栄養作用を持つ営気(営陰)に対して脈外に流れて防御機能を持つ衛気(衛陽)が免疫力となる。普段、背中に日光浴し、自然界の陽気を以て生体の陽気を保養する効果があるが、更に様々な中医療法の活用により免疫力を高める事が出来る。

1、長期的な養生法:医療気功

調身、調息、そして調神の三調節を長期的に持続することにより、生体全体の生理機能を高めるに伴い、人体の自然抵抗力と治癒力を高める。

2、即効性を持つ治療法:針灸推拿

体外から理学的な刺激を与えることで、体内に良性反応を起こして生体の免疫力を増強させる。実験針灸学の研究によると、ある特定の経穴に温灸または刺針を行うことにより、血液中の白血球数が顕著に増加する。お勧めできる経穴として、大椎、肝兪、脾兪、腎兪、足三里などがある。

また全身推拿を行うことで、全身の循環・呼吸・消化・泌尿・運動・神経・内分泌などの機能を調節するほか、免疫機能に明らかな良性調節作用を果たしている。実験研究によると、推拿施術は血液中の白血球総数を増加させ、リンパ球の比例も高め、白血球の呑食能力を増強させる。動物実験の結果で、推拿療法は免疫系への調節作用によりNK細胞を増加させることを示している。

3、総合的な健康法:薬剤薬膳

罹病患者には病証に基づく中薬処方の服用、また本来体質虚弱の者には薬効食物と食用薬物の相応しい応用により、それぞれの免疫力を改善させられる。基本的には補気養血の効能を持つ薬食両用のものを主としており、中には最も効能が優れてお勧めできるのは植物性の大棗と動物性の阿膠であり、両者は共に赤血球と白血球を明らかに増加させ、特に後者の阿膠は骨髄の造血機能を保護し、血球の外に血小板も増加させる。

陽気保養のための背中に日光を浴びる方法、温灸を行う方法、そして大棗を食用する方法などは、伝統医学教育会ホームページの会員専用ページの健康知識に紹介されているので、参考にして実施し、免疫力を高めて欲しい。

健康知識:三伏天における生姜の特別な応用

中国では「寒は三九にあり、熱は三伏にあり」の諺がある。夏の三伏天になると、生体の陽気が体表に浮いてくるが、その時冷たい飲食を好んで過食すれば、体内の脾胃は虚寒状態に陥ってしまう。そこで、一年中で最も熱い時期では、一切寒冷を求めてはいけず、正確な養生方法として「熱を以て熱を制す」という原則を活用しなければならない。このことから、最も相応しい食べ物として生姜が挙げられる。

生姜は性味が辛温で脾・胃・肺に帰経し、散寒除湿・発汗解表・化痰止咳・温中止嘔・活血止血・解毒など様々な効能を持ち、風寒感冒、悪寒発熱、頭痛鼻閉、肺寒咳痰、痰飲喘咳、胸脇脹満;脾胃虚寒、脘腹冷痛、泄瀉;胃寒または胃気不和、悪心嘔吐、食少;婦人月経不順、崩漏、産後血暈、瘀血腹痛、吐血、鼻衄、喀血、便血;魚蟹や半夏(漢方生薬)の中毒など広く用いられる。三伏天では脾胃の虚寒を駆除するほか、冬病夏治の作用が大いに期待できる。

上記の病証のみならず、夏に多く見られる小さい問題も生姜を使って効果的に解消できる。

1、食欲不振

生姜にあるギンゲロールは舌の味覚神経及び胃粘膜の受容体を刺激し、神経反射によって胃腸の充血を催し、同時に消化液の分泌を促進する。これによって健脾開胃・消化促進・食欲増進の効果を果たす。

方法:生姜を綺麗に洗ってから水気を取り、薄くスライスし、少々塩を塗して12時間ほど漬けておく。出来上がった生姜のスライスを綺麗な密封容器に移し、充分浸すほど酢を入れ、ラップしてから蓋を閉め、4日以上放置してから食用できる。毎朝1~3スライスお勧めする。

2、胃腸不調

生姜は外へ発散するという特別な特徴があり寒邪を排除することができる。脾胃虚寒の方や、冷やされた後に吐気・腹痛・泄瀉などが現れる方は生姜棗茶或いは生姜米茶が役立つ。

生姜棗茶:皮付きの生姜3スライスと棗6個(千切って種を除く)を一緒にお鍋に入れ、水を加えて20分間ほど煮込む。煮込むのが難しい場合は直接コップに入れてお湯を加え、暫く蓋を閉めて浸しても良い。

生姜米茶:生姜と米を1:2の比例にし、生姜を千切りして2分間ほど炒って水気を取り、米を加えて約20分間混ぜ合わせながら炒り、黄色い焦げになったら密封容器に保存しておく。毎度50gほどを取り出して500mlの水で10分間ほど煮る。

3、肩腰疼痛

冷房に吹かれた頸肩や背腰は特に風寒湿などの病邪に侵襲され易い。また設定温度が低いと、肩や腰の持病も再燃することが多い。この場合は、生姜の煮汁を使えば効果的である。

方法:生姜を煮込んだ汁の中に少々塩と酢を加え、タオルを浸して絞り、患部に置いて温める。数回ほど繰り返すと疼痛を緩和させる。

4、傷風感冒

長期に渡って空調環境に身を置くことが続くと、室内外の温度差が多いため、体内の調節システムが乱れて免疫力も下がり、風寒を感受して感冒に罹患し易い。傷風感冒の場合は直ちに数スライスの生姜を食べるか、生姜黒糖スープを飲むと、寒邪の駆除に大きく役立つ。

方法:皮付きの生姜を5スライス切り、沸騰するお湯に入れて3分間経て黒糖を加え、均等に混ぜて飲用できる。

生姜は非常に良い食べ物であるが、実際に使用する際に注意しなければならない事がある。

先ず生姜の食用時間に気を付けて欲しい。一般に朝や午前中に食すと、陽気の昇発を助長できるが、夕方や夜に食すと、心神が収斂できない恐れがある。故に「朝に食す生姜は人参(漢方生薬)の如き、晩に食す生姜は砒素の如き」との説がある。

次に生姜は辛温の性味で、熱性疾患には適しない。陰虚内熱(面色潮紅、心煩盗汗、手足心熱、口渇咽乾、皮膚乾燥、舌痩紅、苔少など)や、体内実熱(風熱感冒、肺熱の咳嗽で黄粘痰、胃熱の嘔吐口臭、膀胱湿熱の尿黄赤で渋痛、肝火の煩躁易怒、心火の神志不安、瘡瘍潰爛、痔瘡出血など)の方には少なめに食すか、食用しない。

また肝病証(肝気は昇発主動)、目疾患(肝の竅)、そして小児(純陽の体質特性)にも慎重に食用しなければならない。

健康知識:馬歯莧の性能と応用

馬歯莧はスベリヒユ科の植物でスベリヒユの全草である。初夏から晩秋までに畑、道端、庭園、廃墟など日当たりの良い場所に自生している。葉が丸くて小さく、茎が赤く、肉質が肥えて厚みがあり、夏には黄色の花が咲いて綺麗に見せている。

薬食両用の植物として、夏季に食用するほか、全草が薬用できるし、また種子も生薬として応用される。歴代の薬草専門書では馬歯莧について「馬歯莧,又名五行草,以其葉青,粳赤,花黄,根白,子黒也。」(馬歯莧、又の名は五色草で、其の葉が青く、茎が赤く、鼻が黄色く、根が白く、種が黒いためである)と描いており、小さな草でありながら、五行色の全部を占めて決してその価値も軽視してはいけない。民間では「長寿草」や「長命草」などと呼ばれている。

新鮮な馬歯莧は口当たりが柔らかいが、シャキシャキし、ツルツルする感じで、やや酸味がある。野菜として味は普通であるが、薬用価値が大きい。

薬用効果

中医学的に、馬歯莧は酸味で寒涼の性質であり、心・肝・肺・大腸経に帰経する。主に清熱利湿・涼血止痢・解毒消腫・止咳止渇などの効能があり、様々な病状の治療に用いられる。

① 消化管伝染病の予防と治療:馬歯莧は赤痢菌、腸チフス菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌などに対して強い抑制作用を持ち、熱毒による赤痢、テネスムス(裏急後重ともいい、頻回に便意を催すが便は出ない症状)、細菌性下痢(湿熱泄瀉)、大腸炎などの治療を補助するほか、実熱による大便秘結、痔瘡出血、腸ポリーブなどにも著しい効果がある;

② 皮膚疾患の治療:「諸痛痒瘡,皆属于心」(《黄帝内経》)、また肺は皮毛を主る。馬歯莧は清心火・散肺熱の作用を持ち、口内炎、舌炎、癕腫疔毒、湿疹乾癬、丹毒など血熱による皮膚疾患のほか、蛇虫咬傷や蜂刺傷にも効果的である;

③ 眼目赤腫の改善:肝は目に開竅するため、肝熱が経脈に沿って目に上がると、目の発赤や腫脹、目脂などが見られる。馬歯莧は酸味が肝に入り、清肝涼血明目の効果が期待でき、特に夜更かしによる肝の陰血を損なった後の赤目に役立つ。種子の明目作用が最も顕著である。また若者の白髪も肝熱が盛んで頭頂に上がって発症したもので、治効がある。

④ 出血疾患の改善:心は血脈を主り、肝は蔵血を主る。馬歯莧は清熱涼血止血の効能を持ち、性器不正出血、産後・流産による出血などに適応する。

ほかに、止咳の効能を百日咳に用いたり、利尿の効能を浮腫に用いたり、止渴の効能を消渇(糖尿病)の口渇に用いたりすることができる。近年、馬歯莧の抗がん作用も研究されている。

食用方法

馬歯莧の茎と葉が茂っている時期に、その若い部分を取って根を除き、綺麗に洗っておく。温惣菜の場合は、少し油で炒め、柔らかくなったら潰した大蒜を加えて塩で調味してできる。冷惣菜の場合は、熱湯に2分間ほど通し、取り出して水で冷やして軽く水気を取り、潰した大蒜や生姜を入れて塩、醤油、お酢、胡麻油などで調味する。また新鮮な馬歯莧を湯がいてから天日干しして乾燥させ、使用する時にお湯で戻し、炒めても餃子などの具としても活用できる。

なお、お湯を通した煮汁は捨てず砂糖(黒砂糖を使用しない)を加えて飲むと治療効果が得られる。特に前立腺炎の治療処方として紹介すると、

[材料]新鮮な馬歯莧500g。

[作り方]綺麗に洗って潰し、ガーゼで包んで汁を絞り出す。

[飲み方]毎日朝晩空腹時に砂糖少々を加えて白湯で薄めて飲む。

[効果]一週間で治癒。

皮膚疾患の治療においては、食用に伴って新鮮な馬歯莧を潰して患部に直接塗るか、更に乾燥した馬歯莧の煎じ汁をお風呂に入れて入浴すると、治療効果が高められる。

注意事項

注意しなければならないのは、馬歯莧は寒滑性質のため、寒邪による泄瀉や脾虚便溏の者はお勧めしない。また滑利の特性を持っているため、妊婦、特に習慣性流産の妊婦は食用しない。ほかに、鼈甲を含んだ漢方処方を服用する際に食用しない。

 

健康知識:静座健康法

生理学の研究によると、生体は「静養」の状態において神経の緊張度が緩め、呼吸・心拍・血圧・体温はいずれも適度に低下している。この低代謝の蓄積反応によって生命も延長していくため、「静養」は一種の精神的な健康運動だと言える。静養の最も相応しい方法として静座が挙げられる。

中医学的には、養生の第一要旨は養神にあるとされているが、静座こそ養神の具体的な方法であり、気功養生で最も重視されている。また歴史上の各種気功養生法は共に心神の修練を大切な目的とし、心身の静寂を取り戻すために、儒学気功の静坐や坐忘、仏教気功の禅定(坐禅)、道教気功の内丹や存想など様々な方法が行われ、その基本が全て静座にある。現代でも瞑想なども同じように静座が多く用いられている。

生理実験では、僅か5~10分間の高質静座を行うだけで、脳の酸素消費量が17%ほど低下すると証明され、この数値は7時間の深い睡眠の後の変化に当たる。静座中の呼吸が体内の気体交換を速め、神経の緊張を解消し、筋肉も緩和されて疼痛の現象を緩解させ、更に体内温度、血液のpH、血圧、血糖、血脂、及びカリウム、ナトリウム、燐などの化合物を一定の範囲に安定させる。これは正しく気功養生における調身・調息・調神という三要領の目的と一致している。

臨床医学でも、静座によって疲労を解消させるに伴い、ある慢性疾患に効果的な補助治療の作用を果たし、例えば胃腸炎、肩関節周囲炎、腰腿痛、慢性腎炎、高血圧などはいずれも顕著な効果が見られる。静座は頭暈や卒倒などの発生を効果的に減少させ、特に朝起きの時は心脳血管疾患の多発時間帯に当たり、起床を急いで動きが速過ぎたり激しかったりすると、これらの病症が誘発され易い。

静座の具体的な操作

主に平坐式と盤式(胡坐式)がある。平坐式は初心者に最も多く用いられるが、盤式は静功練習に最も適宜な姿勢であり、更に双盤、単盤、自然盤に分けられる。

① 平坐式:下腿と同じ高さの椅子やベンチの座面の前方1/3に坐って深く座らない。両膝を90度に屈曲させ、両脚は肩と同じ幅に開いて平らたく地面に置くか、左脚を右脚の足背に乗せる。

② 自然盤:両側下腿を交差させ、両脚を反対側の大腿の下に置く。比較的に簡単な姿勢であるが、両膝が座面につかず浮いているため、身体が不安定で歪み易い。

③ 単盤:左脚を右側大腿の上にかけ、右脚を左側大腿の下に置く。左膝が座面に着かないため、時間が長くなると身体が左側に歪み易い。

④ 双盤:筋骨が比較的に柔らかい方に適している。左脚を右側大腿の上に乗せ、右脚を左側大腿の上に乗せる。この際、両側の足裏が上に向く、両側の下腿が交差して三角形を呈している。両膝が座面にしっかり着いているため、身体の姿勢が自然に端正で、前後や左右に歪まない。

上記の諸姿勢から自分に相応しい座り方を取ってから、全身各部を整えていく。上半身は真っ直ぐに伸ばして腰を伸展させ、臀をやや後方へ突き出してもよい;頭頸を端正に直立させて顔を前に向け、両目はやや閉じ、口を閉じて舌先を上顎に当て、下顎をやや引き締める。両腕は充分に緩めておく。両手は手掌を上に向けて重ねて下腹付近の下腿の上に軽く置くか、両肘を外へ開いて手掌を下に向けてそれぞれ大腿の付け根の上に置くか、或いは両腕を自然に下ろして手掌を上に向けて膝の上に自然に置く。他に、立式気功の抱球式または托球式を取ることもできる。

姿勢を揃ってから全身をリラックスさせ、呼吸を自然に整えて心を静めて深く静かに思いを巡らす状態に入る。

静座の操作時間帯

静座は一日中にいつでも行えるが、最もお勧めの時間帯は朝の起床後、昼の食事後、夜の就寝前である。

朝の起床後は心に雑念が入っていない時間帯で、覚めてから急いでベッドから降りず、先ず静座を行った方が良い。目を閉じて意念を集中させ、36~50回ほど深呼吸を行い、瞑想などで心神を安定させる。その後、ゆっくりと降りて一日の予定に動き出す。

昼の食事後は目を閉じて静座を行うと心神を補える。中医学的には、一日の午前は気血の運化が全て陽気の運動に属し、午後から陰気が生み養心の時間となる。昼食後の11~13時の間に静座を10~30分間ほど行う事で、心神を補うのに大いに役立ち、午後から晩までの精力を充足させ、気血運行の助力となる。

夜の就寝前は静座を行う事で、一部の神経系や消化系の慢性疾患に明らかな治療効果がある。洗顔後、椅子で平坐式か、またはベッドで盤式を取って座り、全身の筋肉を緩め、呼吸を自然に落ち着き、徐々に静かな状態に入り、意念を臍下の丹田に集中させて興奮状態の思惟活動を平静状態に転化させると次第に一種のほろ酔いの様な、有るや無しや(無心?)の境界に入っている。1回で20分間以上をお勧めするが、初心者は短い時間から始めて少しずつ延長していけば良い。

静座養生法は簡単且つ実用で、特別な器具や場所が必要としないし、また老人、身体虚弱者、或いは心脳血管疾患や呼吸疾患の罹病で激しい運動ができない方に対して健康養生の効果が大きい。

健康知識:常に擦ると長寿に繋がる身体の九か所(後編)

5、手掌を擦って強心健脳

両肘を下げて両手の十本指を伸ばして交差し擦る。一度に1分間或いは200回ほど続けて速やかに行うか、毎日の起床後と就寝前に20~30分間ほどゆっくりと行う。

手には生体の臓腑器官と緊密に連係している腧穴が沢山位置しており、表裏関係にある陰陽経脈が手指において交接している。特に手少陰心経と手太陰肺経が循行しているため、手を擦ることで、手掌に循行する経脈を疏通して腧穴に刺激を与えて全身の臓腑を調節し、とりわけ心肺に有益である。研究によると、手を擦る動作は走行より激しくないが、1分間だけ速く擦ることで、明らかに心拍を増加させて汗(心の液であるが、肺が皮毛を調節する)をかく反応が見られ、心肺機能を高める。また人類の手は非常に進化して巧緻運動に適し、手の筋肉と関節の運動は脳の調節に従っているため、手を擦ることは手指の敏捷度を高めるほか、手と脳の反射を強化して健脳作用も果たす。

6、胸郭を擦って理気活血

両手を重ねて手根部を胸骨中央の膻中穴(両側乳頭の中点)に軽く当て、円を描くように擦る。その後、両側の手掌をそれぞれ脇肋に軽く当て、同じく円を描くように擦る。各部位にそれぞれ54回ほど擦り、1日に何度も行う。

伝統医学的には「肺は気を主る」、「心は血脈を主る」とされ、胸は心肺二臓を納め、気血との関係が特に密接である。普段、精神不安で情緒が激動する時に、無意識で胸を擦ったり叩いたりして気分をスッキリし落ち着くことが多いが、実際この胸に対する動作は怒りによる逆気や鬱気を治まるためだけではなく、同時に心肺機能を高めて寛胸理気・調暢気血の効果が得、これによって情緒を調節して精神を安定させる。更に長期に続けていくことにより、胸に循行する任脈、肝・脾・腎の足三陰経、そして足陽明胃経など経絡に刺激を与え、養心益肺・活血通脈・老衰対抗などの作用があり、健康増進で疾病予防の役割を果たす。

7、臍腹を擦って健脾和胃

両側の手掌を交互に用いて臍を中心にして円を描くように腹壁を擦り、それぞれ時計回り方向と反時計回り方向に36回か54回ほど行う。その後、両手を温かくなるまで擦ってから重ねて臍中央に当て(男性には左手を下に、女性には右手を下に置く)円を描くように腹壁を揉み、それぞれ時計回り方向と反時計回り方向に36回か54回ほど行う。

伝統医学的には、「脾は運化を主る」、「脾胃は気血生化の源と為り」とされ、腹は脾に属し、「気機の枢」中焦に当たり、生命の後天根本である脾胃の所在である。脾胃不調で脾が健運を失って胃が和降を失うと、気血が不足して身体虚弱になるか、鬱滞させて肥満になる。また臍を人間の先天的な供養通路とし、生体を補養する任脈・衝脈・帯脈などが近くに順行している。腹を擦ることは、健脾和胃の効能を持ち、飲食物の消化吸収と気血の運化などを促進し、生体は充足な栄養を得られ、気血積滞による肥満も解消させ、健康強壮・養生長寿に繋がる。また毎晩の就寝前に行うと、腹筋への刺激により腹部の自律神経節及び血液循環及び・リンパ循環を調節することもでき精神状態を整えて睡眠を改善する。

8、腰骶を擦って補腎壮腰

両手を温かくなるまで擦ってから、腰両側の腰眼穴(第4腰椎棘突起両側3~4寸陥凹部)に当て、暫く温めてから下方へ尾骨端の長強穴(尾骨端と肛門との中点)まで、上下方向に54回か81回ほど擦る。1日に朝晩2回行う。

また風寒や寒湿や過労による腰痛の場合は特に腰眼穴の按揉をお勧めする。両手の拇指と四指を開き、四指を前方に、拇指を後方に両側から腰に当て、拇指がほぼ腰眼穴に当たり、ゆっくりと50~100回按揉する。拇指の代わりに両拳を用いても良い。

伝統医学的には「腰は腎の府なり」とされ、腎は「先天の本」として精を蔵している。過労や加齢に伴って腎気が消耗されて虚弱になり、腰脊冷痛・筋骨変形などの病症が多く見られる。腰骶を擦ることで、局所の毛細血管を拡張させて腰筋を強化すると同時に、腎陽を温煦させて腎精を固摂させ、養生長寿の役割を果たす。腰眼穴は、腰を環状に巡って縦行する帯脈に位置しており、帯脈は諸経脈を制約してそれらの連係を強化する作用を持ち、腰脊疼痛・腹部脹満などの病候を主るため、腰眼穴の按揉は帯脈を疏通させて気血を調暢させ、補腎固精・強壮腰脊の効果がある。

9、足底を擦って強身長寿

毎日の就寝前と起床後に、両手を温かくなるまで擦ってから、一側の手で同側の足背を支え、反対側の手を用いて足裏を前後に36回か72回ほど擦り、この時、気持ちよく感じる中等度の力で行うと足が温かくなる。夜には40℃くらいのお湯で足浴し、脚が赤く手が温かくなってから行うと、もっと効果的である。

老人の足底が乾燥する場合はオイルを数滴垂らしてから擦る。また足が怠く痛い場合は、焼酎などの蒸留酒を少し濡らしてから行うと活血止痛の効果が高まる。足底を擦った後、直ぐに床を踏むや歩くことをしないように、15分ほど休んでから動く。

人体を樹木に喩えると、足は木の根に当たる。木の根が枯れると、枝も葉も枯れて落ちてしまう。伝統医学的には、足は肝・脾・腎の三経脈が循行し始まる所として、生体の根本とされ、特に足心と足根は「先天の本」である腎に属する。また足は「第二の心臓」と言われるように、足の末梢循環は全身の循環に大きく関連している。足底を擦ることで、局所に活血通絡の効果を果たすほか、補腎固精の作用を持つ上、養心安神・健脾益気の効能もある。長期に続けていくと血圧安定・不眠改善、そして人体の免疫強化にも繋がる。

健康知識:常に擦ると長寿に繋がる身体の九か所(前篇)

現代社会では日常の生活や仕事で心身疲労が溜まり易い。特に、ここ二年間はコロナ禍に影響されて精神的にストレスが大いに溜まっているほか、普段必要な運動も取り入れられず、ディスクワークなどで体内の気血循行が余計に弱まってくるため、様々な不快感や遅鈍化が現れる。

日頃より両手で身体の各部位を擦ることで、調気活血・通利官竅・舒筋通絡の効能を果たすほか、先天と後天の本として養生長寿に密接に関連する肺・脾・腎の機能を高めて疾病予防と延年益寿の目的を果たす。ここでは効果的な九か所を紹介し、常に擦って健康の維持と増進に役立てて欲しい。

1、頭髪を擦って益腎黒髪

毎日の就寝前と起床後に、櫛の代わりに十本指を用いて髪の毛を梳かす。前頭と側頭の髪際から上方へ頭頂の中央まで、繰り返して数十回から数百回ほど行い、最後に頭髪を整える。

この方法は古代から「引鬢髪」や「流通」と伝えられて重要な健康養生法とされている。伝統医学的には「髪は血の余と為り」、「腎は骨を主り、髄を生じ、其の華は髪に在り」とされ、気血が旺盛で腎気が充足すれば、髪の毛も濃密で黒い。現代では若者にも年齢に相応しくなく脱毛や白髪が多く現れるが、いずれも気血が不足して腎気が虚弱する病理変化である。頭髪を擦ることで、清陽上昇と気血調和を促し、これによって腎気も強くなり、骨が強健で髄が充満され、脳髄充足で健脳作用を果たし、髪の毛もしっかりと丈夫になって白髪を無くす。

2、顔面を擦って醒神栄顔

両手を温かくなるまで擦ってから、目を閉じて顔を洗うような動作で擦る。顔面下方の下顎から上方へ前頭まで、3~5分間ほど顔が熱く感じるまで繰り返し、力は軽くから徐々に強くする。1日に2回ほど行う。皮膚乾燥の方は擦傷になる恐れがあるため、動作の力度と速度に気を付ける。

また疲労時は特に前頭を擦ることをお勧めする。両手の四指を合わせて手指の手掌面を前頭の正中から左右両側へ側頭にかけて、一方方向に36回か54回ほど擦る。これによって清醒神志の効能をもたらし、また皺取りの効果もある。顔面が気持よくなり目も明るく感じ、気分が爽やかになるため、毎朝醒めてから行うのが良い。

喜怒哀楽の神志活動は先ず顔面に表し、また身体の健康状態も顔面から現れている。伝統医学的には「心は神志と血脈を主り、其の華は面に在り」、「心は五臓六腑の大主と為り」とされており、精神と肉体の健康状態はいずれも心の制御に頼り、顔面は心と密接に連係している。顔面を擦ることで、気血の循行を促進させ、情緒の緊張も緩和させ、これによって心気を調整して精神が優れると共に、顔面の張りを高めて皺を取って若返りの効果も期待できる。

3、鼻翼を擦って利肺通鼻

鼻の両側にクリームを塗り付け、次指または中指の指腹を用いて鼻翼から鼻根にかけて上下方向に100~200回ほど擦る。その後、鼻翼中点外方で鼻唇溝にある迎香穴、及びその上方で鼻唇溝上端にある鼻通穴(上迎香穴)をそれぞれ60回ほど揉む。力は中等度にして皮膚の擦傷を避け、また行ってから少し多めに水分を取ることも助力となる。

伝統医学的には「肺は気を主り、呼吸を司る」、「鼻に開竅する」とされ、肺は一身の気を主リ、鼻は肺の開竅で自然界からの清気を取り込む重要な玄関口であり、同時に邪気が体内に侵入する入口でもある。鼻に充足な気血が巡ると、呼吸機能も健全に働くし、外邪の侵襲も防御できる。気血循行の不調により、嚏や鼻閉(鼻詰まり)や鼻汁(鼻水)が止まらず、更に鼻炎などが現れ、呼吸に支障を来たす。鼻翼を擦ることで、気血運行を促進し、効果的に諸症状を緩解でき、鼻炎や蓄膿症も改善させる。毎日1~2回で長期に続けていくと、肺気を通利することによって呼吸系の免疫機能を強化する予防と養生の作用を果たす。

 4、耳介を擦って補腎聡耳

両手を温かくなるまで擦ってから、手掌を用いて耳介全体を揉みながら擦る。その後、拇指を耳介の後面に当てて、次指中指を用いて耳輪(耳介の外周でまくれた軟骨部分)を上方から下方へ耳垂(耳たぶ)まで揉み下ろし、最後に耳垂を引っ張る。それぞれ36回か81回ほど行うと耳介全体が温かく感じる。

また静養気功法の「鳴天鼓」動作をお勧めする。両側の手掌を用いて耳介全体に当てて外耳道開口をしっかり塞ぎ、次指中指環指の指先で後頭を18回か36回ほど軽く叩く、音は太鼓を敲くようである。耳介を深く按えたまま暫く経ってから、手掌を耳介から速やかに離す。この鳴天鼓の動作を数回ほど繰り返す。

耳介には生体の各部に繋がる腧穴が密布しており、体内に病理変化が発生すると、往々にして耳介に現れてくる。伝統医学的には「腎は耳に開竅する」とされ、耳は先天の本である腎気に密接に関連している。耳介を擦ることで、腎気を補って養生長寿の効果が果たせる。また耳輪の刺激により毛細血管を充満させて末梢循環を改善させるし、耳輪にある耳穴は清熱の効能を以て逆上せや発熱にも効果的である。「鳴天鼓」の動作を長期に続けていくと、醒脳清竅・記憶増進の効果を果たし、また高血圧の方には血管拡張で血圧安定の作用がある。

(つづき)

健康知識:大根の皮の特別な応用価値

秋から冬にかけて旬の野菜である大根はとても美味しく食卓で不可欠な存在だと言える。また健康食材としても数えられ、理気解鬱・消食化痰の薬効を以て鬱気を解消して消化を促進し、消化不良、腹部脹満、咳嗽痰多などの病症に用いられる。

しかし日頃調理する際に、殆ど大根の皮を剥いて捨てることが多い。昔から大根の皮を漬物にして食べることがあるが、更に薄切りして塩、お酢、胡麻油で調味して和え物の一品としてあっさりと美味しいし、酒酔いにも効果的である。実際、この大根の皮は沢山特別な応用効果が期待できる。

ここでは幾つの応用方法を紹介する。

1、腹脹解消

長い在宅で、つい食べ過ぎてしまい、腹部脹満の不快感が現れることがあるが、一枚の大根皮さえあれば、簡単に解消できる。

方法:大根の皮をコインの厚さ、クラッカーの大きさに切り、沸かしたお湯の中に1分間ほど通し、大根の皮の裏面を臍に貼り付け、更に絆創膏で固定しておく。食後に1時間ほど貼り付け、1日三回で、一週間で消化不良による腹脹を解消する。

2、皮膚潤滑

大根にはビタミンAとCが豊かに含まれ、黒色素の生長を効果的に抑制して美白の効果を持つほか、皮膚のかさつきや面皰などを改善させる。洗顔するとさっぱりとした感じになり、滑々して柔らかくなる。

方法:大根の皮を磨り潰し、汁に適量のぬるま湯を加えて洗顔する。

3、偏頭痛緩解

大根には芳香族アミノ酸が含まれ、頭部の血液循環を改善して血管抵抗を減少させ、これによって頭暈や偏頭痛などを緩解する。

方法:大根の皮を盃口の大きさのスライスに切り、両側の顳顬(こめかみ)にある太陽穴に20分間ほど付ける。病状に従って回数を決める。

4、足根痛緩解

大根の皮は含有する芳香族アミノ酸の血液循環を改善する作用により、偏頭痛と同じように足跟痛も緩解する。

方法:大根の皮を鍋で煮込んでからできればガーゼ布で包み踵に貼り付ける。冷めたら鍋に入れて温めて再度踵に付ける。30分間ほど繰り返していくと、足根の疼痛が大分緩解できる。

5、足消臭

大根には食物繊維のほか、カルシウム、燐、鉄、カリウム、ビタミンC、葉酸などが豊富であり、免疫力を効果的に強化して病気抵抗力を高める。

方法:大根の皮を水で煮込んでから、両脚を洗う。毎晩1ヶ月ほど続けていくと、足の臭みが解消できる。

健康知識:冬季に必要な九つのお粥献立

お粥は人間の最も原始的な調理法による食物と言われており、煮込むことにより食物の栄養成分を効率よく吸収し易いため、滋養作用の高い食物調理法だと言える。王孟英の《随息居飲食譜》には「粥飯為世間第一補人之物」と記載されているように、お粥は生体を補う最も効果的な食物である。冬季は一年の中で万物が休養する重要な季節で、補益が養生要旨とされているため、お粥を食するのに適切な時期である。

今年の真冬は例年より寒いので、普段の食卓にお粥を多めに取り入れると、益肺潤燥・健脾補腎の養生価値が期待できる。ここでは冬季に相応しい九種のお粥を紹介し、身体温補の目的を図って健康的に極寒を乗り越えて欲しい。

1、羊肉粥

羊肉200g、綺麗に洗って角切りにし、大根と一緒に煮込んで生臭みを取り除く。大根を取り出してから、羊肉汁にお米を150g加えて柔らかくとろみが出るまで煮込み、適量の青葱や醤油または塩胡椒などで調味して食する。

羊肉は温熱の性質で脾・胃・腎に帰経し、健脾温腎・補益気血の効能を持ち、特に温養脾腎の効果が高い。また高蛋白で低コレステロールの食物の一つと数えられる。冬至の時から多く食することにより、益気補虚・温中暖下の作用を果たし、脾胃虚寒による肢冷不温・神疲無力、腎陽不足による腰膝酸軟・畏寒頻尿など脾腎虚弱の者に適している。

2、高麗人参粥

高麗人参3gをお水と一緒に土鍋に入れてとろ火で20分間煎じ、更に100gのお米を加えて柔らかくとろみが出るまで煮込み、適量の蜂蜜または氷砂糖で調味してから食する。

高麗人参は甘・温・微苦の性質で肺・腎に帰経し、大補元気・固脱生津・安神益智の効能を持ち、労傷虚損で元気虚衰の重篤証候及び気血津液不足の全ての病証に第一選択の温補薬材とされている。高麗人参粥の食用は、大病久病や年老腎虚による体調虚弱、脾胃虚弱による食少便溏・倦怠無力、肺気虚損による咳嗽喘息、気血虚損による自汗眩暈・不眠健忘などに適しているが、また心脳血管疾患の患者に対して効果的である。

3、竜眼粟の粥

竜眼肉15gを綺麗に洗って粟100~200gと一緒に煮込み、強火で沸かしてから弱火で柔らかくとろみが出るまで煮込む。

竜眼は甘温の性質で心・脾に帰経し、補益心脾・養血安神の効能を持ち、特に養心安神の効果が高い。粟は甘・咸・涼の性質で脾・胃・腎に帰経し、健脾和胃・益腎利尿・除煩止渇の効能を持ち、補益脾腎作用と同時に竜眼の清心安神作用を強化する。竜眼粟粥の食用は、心脾両虚による精神不安・思慮過度・不眠健忘、気血両虚による顔色無華・頭暈目眩・自汗盗汗、脾胃虚弱による下痢食少・倦怠無力などの者に適している。

4、胡桃粥

胡桃仁20gを綺麗に洗ってから細かく磨り潰し、お米100~200gと一緒に柔らかくとろみが出るまで煮込む。

胡桃は甘・温の性質で腎・肝・肺に帰経し、補腎固精・温肺定喘・潤腸通便の効能を持ち、特に滋補腎精の効果が高い。胡桃粥の服用は、腎虚による腰腿冷痛・耳鳴髪白・多尿遺精、肺虚または肺腎不足による咳喘気短・腸燥便秘などの者に適している。但し、脾胃湿熱または下痢の者は食しない。

5、山薬栗粥

栗50gの殻を剥いて山薬15~30g、棗3~5個、お米100gを一緒に柔らかくとろみが出るまで煮込む。

山薬は甘・平の性質で脾・肺・腎に帰経し、健脾補肺・固腎益精の効能を持ち、先天・後天を共に補益する。栗は甘・温の性質で脾・腎に帰経し、健脾益気・補腎強筋の効能を持ち、山薬の脾腎補益効果を助長する。山薬栗粥の食用は、脾虚による下痢溏便・食少嘔吐・倦怠無力、腎虚による腰膝疼痛無力・多尿浮腫・遺精帯下、肺虚による気喘咳嗽など、特に脾腎両虚の者に適している。但し一度に多食すると、飲食停滞で消化不良の恐れがある。

6、生姜大棗粥

新鮮な生姜または乾燥の生姜6~9gを綺麗に洗って微塵切りにし、お米または糯米100~150g、棗2~4個と一緒に柔らかくとろみが出るまで煮込む。

生姜は辛・温の性質で脾・胃・肺に帰経し、散寒解表(乾燥の者は散寒暖胃)・化痰止咳・止嘔解毒の効能を持ち、主に脾胃虚寒の治療に用いられる。大棗は同じく甘・温の性質で脾・胃に帰経し、健脾和胃・益気養血・生津止渇の効能を持ち、生姜の温補脾胃効果を強化させる。生姜大棗粥を多く食することにより、暖胃散寒・温肺化痰の作用を果たし、脾胃虚寒による腹部冷痛・食少嘔吐・下痢脱肛、風寒感冒による悪寒発熱・頭痛鼻閉、肺気虚寒による寒痰咳嗽・痰飲気喘などの者に適している。但し陰虚体質や妊婦は内熱旺盛の恐れがあるため慎重に食用する。

7、韮粥

お米を柔らかくとろみが出るまで煮込んだ後、適量の韮を微塵切りにして入れ、更に暫く煮込んで食する。

韮は甘・辛・温の性質で肝・胃・腎に帰経し、補腎助陽・温中開胃・行気散瘀の効能を持ち、特に温補腎陽の効果が高い。またビタミンA、B、Cとカルシウム、燐、鉄などのミネラルが豊富である。韮粥を多く食することにより、助陽通絡・補中緩下の作用を果たし、肩背寒冷、腰膝痠冷などの者に適している。

8、人参粥

新鮮な人参50gを小さなスライスに切り、お米200gと一緒に煮込み、強火で沸かしてから、弱火で柔らかくとろみが出るまで煮込む。

人参は甘・平(生の物は甘・涼)の性質で脾・肝・肺に帰経、健脾化滞・滋肝明目・化痰止咳の効能を持ち、特に健脾養肝の効果が高い。人参粥を多く食することにより、健脾胃・助運化・益肝明目の作用を果たし、脾胃虚弱による食少腹脹・食積不化・下痢便秘、肝虚による目乾夜盲・視物不清などに適している。

9、鶏肉ピータン粥

鶏肉200gを小さい角切りしてお水と一緒に土鍋に入れ、スープが濃厚になるまで煮込んでから、鶏肉を取り出してスープにお米200~300gを加えて柔らかくとろみが出るまでとろ火で煮込む。お粥が出来上がりそうな時に、小さく切っておいたピータン2個と鶏肉を一緒に加え、更に生姜、葱、塩などを適量掛けて調味して食する。

鶏肉は甘・温の性質で脾・胃に帰経し、温中益気・補精添隨の効能を持ち、主に気血の補益に用いられる。鶏肉ピータン粥を多く食することにより、補益気血・開胃生津・滋養五臓の作用を果たし、虚弱損耗、大病久病、気血不足、身体羸痩、心悸頭暈、脾虚による食少下痢、腎虚による頻尿水腫・耳鳴耳聾・遺精帯下などに適している。

ほかに、お粥の栄養価値を高めるため、雑穀米の併用が重要である。例えば蕎麦、燕麦(オーツ麦)、玉蜀黍の粉、粟、黒米、はと麦、更に豆類や芋類などが挙げられ、これらの雑穀類食物の摂取により飲食のバランスが取れ易い。但し食物繊維が豊富なため、消化され難くて消化不良を招く恐れがあるため、事前にお水で浸しておいてから調理するか、長く煮込むことをお勧めする。

健康知識:秋冬季節における膝関節の養護

秋冬季節に向けて天気が陰寒性質に変わり、生体の経脈気血の循行が遅くなる。この時期に膝関節の症状が発作し易い。

膝関節の症状として、下記が挙げられる。

① 疼痛:膝関節の症状に最も多く見られる。「不通則痛」と記されている通り、経絡気血の停滞で痛みが生じる。痛みは動くと増悪し、休むと緩和するが、捻挫や寒冷や過労などを伴う場合は痛みが激しく、更に自由に動けなくなる。

② 発赤腫脹:膝関節内における滑膜の過形成と積液の蓄積で関節の腫脹と発赤が起こされる。初期では寒冷や外傷によって来されるが、進行していくと慢性的な腫脹が続くこともある。

③ クリック音:運動中に音の出る現象が多く現れ、関節軟骨が磨り減って関節面が滑々ではなくなったと考えられる。歩く時や立ち上がる時に、関節が引っ掛かって動けず、屈曲など関節を緩める運動を何度も試し、クリック音が出てからはじめて自由に動ける。

④ 無力感:歩行中、特に階段を降りる時に膝が弱くて力が入らず、激しい時に転倒する現象も見られ、多くは疼痛を伴う。また長時間座ると関節「癒着」の現象もあり、即時に運動ができなくなる。

⑤ その他:軟骨の破壊や滑膜の過形成などにより膝関節は完全に伸展・屈曲ができず、しゃがむ動作や重い荷物も持てなくなる。更に膝関節の炎症進展に従って関節変形や奇形(X脚やO脚など)も現れる。

膝関節の症状を改善させるためには気血調和が重要な前提となっている。ここでは効果的な薬膳料理と養生動作を紹介する。

1、生姜炖鶏肉(若鶏の生姜煮込み)

鶏肉は温中益気・補虚填精の効能を持ち、また生姜は辛温発散の性能で活血祛寒の効能がある。両者の併用により、血脈疏通・筋骨増強の作用を発揮して膝関節の寒湿瘀滞を取り除く。

[材料]雄の若鶏(初めて鳴き声を出した雄の若鶏→童子鶏がベスト)1羽、生姜100~200g、サラダ油、食塩、料理酒(紹興酒がベスト)。

[方法]鶏肉と生姜を小さく角切りしておく。お鍋にサラダ油を入れ、熱くなったら鶏肉と生姜を入れて強火で炒め、料理酒を加えて火が通るまで10分間ほど蒸し、食塩を振ってお皿に盛り付ける。1日以内に食し、1~2週間おきに1回。

2、膝養護三動作

膝関節の壮健を作るために、適宜な運動の必要があり、適宜な運動を行う事で膝関節の退化性病変を防ぎ、骨密度の増加を図る。但し運動方式が重要であり、散歩や水泳などの優しい運動をお勧めするが、階段上りやランニングや山登りなど過剰な運動は膝関節の負担を増やし、諸症状が増悪する恐れがある。下記の三動作は経絡疏通・気血調和の作用があり、下肢の血液循環を促進して膝関節の養護に大いに役立つ。

(1) 下肢摩擦:椅子に座り、両側の手掌を用いて大腿の付け根から足首まで擦る。個人状況にもよるが、1日に20~30回行う。これにより、盛んな気血を大腿下腿の筋肉に注がせ、筋力を増強させて骨格も強壮になる。

(2) 下腿挙上:椅子に座り、両側の下肢を交互に上げ、水平位置で十数秒間止める。1日20~30回行う。下肢を真っ直ぐに進展させると、大腿四頭筋が十分に収縮でき、筋力強化に伴って骨格も強くなる。

(3) 膝蓋按揉:膝を軽く曲げ、両側の手指を用いて経穴を按える。それぞれ示指を内膝眼穴(膝関節の内下方にある陥凹部)に、中指を外膝眼穴(膝関節の外下方にある陥凹部)に、拇指を血海穴(膝蓋骨内側縁の上方3横指)に、環指または小指を梁丘穴(膝蓋骨外側縁の上方3横指)に当て、膝蓋骨を掴むように直接経穴を揉んで按える。更に動作を強化するために、両側の拇指を用いて内膝眼穴と外膝眼穴を再度刺激することもできる。1日に朝晩2回で、1回に5~6分間行う。少し力を強く揉むことで、膝蓋骨軟化に効果的である。

膝養護三動作は一度で直ぐに病状を治すことは無く、長期に続けてはじめて効果が現れてくる。これを参考に適宜な養生動作を行うことで、丈夫な膝関節を作ろう。