天候が一気に冷え込み、小雪・大雪も過ぎて冬至になろうとしている。冬至は一年中で最も陽気が少なく陰気が多い時節であり、人体も自然界に従って陰盛陽衰の状態になっている。この時期は陽気保養が最も重要な養生原則である。そのため、飲食調節や日光浴など様々な方法が挙げられるが、最も効果的な方法として艾灸法をお勧めしている。
艾灸法はヨモギなどを体表の経穴に据えて焼灼することで、灸火の温熱刺激及び艾草の薬理性能を以て、経絡の伝導によって体内の臓腑まで到達し、臓腑機能を高めて陰陽気血を調節し、扶正祛邪・防病治病の作用を果たす。艾草は温経散寒・祛風燥湿・行气活血などの効能を持つため、陰盛陽衰の冬至時節において保健養生の温灸が最も相応しく、特に痩弱虚損や陰寒凝滞などに対し、艾灸法は独特な効果をもたらす。
当会会員専用ページにて2017年12月に公開した「保命之法、艾灸第一」の健康知識で、艾灸法の効果を解説して保健養生の温灸に常用される経穴を紹介している。また昨年出版した《針灸臨床実用参考書 経穴の定位と技法》の教科書に経穴の灸法を詳細に記述してあるが、ここでは艾灸法の操作技法及び注意事項について説明する。
一、灸法の操作
艾灸法の材料は古来艾を主としており、臨床では艾を用いて多く艾炷や艾棒を製作して使用する。常用する艾灸法には艾炷灸、艾棒灸、温針灸、温灸器灸などがあり、操作方法は種類によって異なるが、ここでは最も応用し易い艾炷灸、艾棒灸、そして温灸器灸を紹介する。
1、艾炷灸
艾炷灸は純粋な艾を利用し、手指または器具を使用して上が尖って下が大きい円錐形の艾炷を作る。経穴または病痛局所に据え、点火して施灸する方法である。
艾炷の大きさは様々である。米粒大を小炷、箸後端の大きさを中炷と言い、いずれも直接灸に用いられる;オリーブ半分の大きさを大炷と言い、主に間接灸に用いられる。艾炷の数え方は1個を1壮と言う。
艾炷灸の操作方法は主に直接灸と間接灸の二種類に分けられる。
① 直接灸:艾炷を直接施術部位の皮膚表面に据え、点火して施灸する方法である。施灸後の火傷の化膿の有無によって更に化膿灸(打膿灸)と非化膿灸(透熱灸と知熱灸)に分けられる。化膿灸は施灸時に灼熱痛を伴い、施灸後にも火傷の水疱や化膿の処置が繁雑で、また灸瘡(瘢痕)が半永久的に残るため、通常の保健養生には非化膿灸が安全で便宜である。
② 間接灸:漢方薬物を用いて艾炷を施術部位の皮膚表面と隔て、点火して施灸する方法であり、隔物灸とも言う。応用する薬物は数十種類が数えられるが、常用されるのは生姜、大蒜、そして塩がある。
新鮮な生姜や大蒜を厚さ0.2~0.3㎝の薄切りにし、中央を針で刺して数個の穴を開け、施灸する経穴または病痛局所の皮膚表面に置き、その上に艾炷を据えて点火して施灸する。艾炷が燃え尽くしたら取り外し、新たに艾炷を据えて施灸し、必要な壮数に達したら終了する。皮膚が発赤するが水膨れを起こさない適度とする。隔生姜灸は多く寒邪感受による嘔吐、腹痛、泄瀉、及び風寒痹痛などの病証に、隔大蒜灸は多く頸部リンパ節結核、肺結核、腫瘍の初期などの病証に用いられる。
その他に隔塩灸もあり、一撮みの純粋な食塩で臍窩を平らに埋め、その上に大炷を据え、点火して施灸する。艾炷が燃え尽くしてから取り外し、新しい艾炷を据えて施灸する。多く陰寒病証、急性腹痛、嘔吐泄瀉、中風脱証、四肢厥冷、虚脱などに用いられる。なお、回陽固脱の場合は壮数に拘らず、脈象回復・四肢温暖・証候改善になるまで連続して施灸する。
2、艾棒灸
艾棒灸は純粋な艾で作られた直径約1.5㎝、長さ約20㎝の艾棒を用いて経穴または病痛局所に施灸する方法である。具体的な操作方法は温和灸、雀琢灸、そして回旋灸などに分けられる。
温和灸は艾棒の一端に点火し、施灸部位の皮膚表面から2~3㎝ほど離して燻(いぶ)し焼いて施灸し、局所に温熱感があって灼熱痛を感じない。
雀琢灸は艾棒の一端に点火し、施灸部位の皮膚表面と一定の距離に固定せず、雀が啄ばむように艾棒を上下に動かして施灸する。
回旋灸は艾棒の一端に点火し、施灸部位の皮膚表面と一定の距離を保持しながら、前後または左右に動かすか、円を描くように繰り返して均等に回旋して施灸する。
通常、艾棒灸では一部位に5~7分間施灸し、皮膚が発赤するのを適度とする。施灸時に施灸手を施灸部位の付近に当てて安定させ、補助手の示指・中指を開いて施灸部位付近に置き、手指の感覚を通して患者の局所温度を感知し、これにより随時に施灸距離を調整し、施灸時間を把握して火傷を防ぐ。
艾棒灸は一般的な灸法適応の病証全般に応用できるが、温和灸は多く慢性病証の治療、雀琢灸と回旋灸は多く急性疾病の治療に用いられる。
3、温灸器灸
温灸器灸は身体部位に応じて様々な形状の温灸器具を選択し、1~2㎝ほど短い棒灸や切り艾を入れて点火して経穴または病痛局所に施灸する方法である。
温灸器灸は安全で便宜な特徴を持ち、操作方法が簡単なため、普段の保健養生には広く応用できる。
二、灸法の注意
① 実熱証及び陰虚発熱の者、妊婦の腹部と腰部には艾灸法を行わない。
② 顔面五官、関節部、そして大血管のある部位には化膿灸(打膿灸)を行わない。
③ 灸法の操作はなるべく順序に従って行う。一般的には、身体の上部を先に、下部を後に操作し、身体の陽部を先に、陰部を後に操作する;壮数は先に少なめ、後に多めに施灸し、艾炷は先に小さく、後は大きく施灸する。
④ 施灸時は安全を確保する。施灸時に艾火が脱落して皮膚や衣服を焼かないように注意し、また施灸後に艾棒を完全に消火して再燃しないことを確認する。
⑤ 施灸時に室内の排煙換気及び温度調節に注意し、特に厳冬と酷暑の時期は快適な環境を保つ。施灸後も患者は温かくして風に当たらないようにする。
また、施灸後に皮膚が微かに発赤して灼熱感が出現することは正常で特に処置の必要は無い。万が一、施灸の熱過ぎや時間の長過ぎにより局所に小さな水膨れが現れる場合は、破れないように注意して自然に吸収させる。水膨れが比較的大きい場合は消毒済みの毫針で水膨れを破り、液体を流し出すか、注射針で液体を吸い出し、ヨードチンキを塗り、ガーゼなどで覆い、汚染を避けて自然癒合を待つ。
なお、健康増進のための温灸経穴として、「保命之法、艾灸第一」の健康知識で紹介した足三里、関元、大椎、命門、神闕、中脘、太溪のほか、百会、湧泉なども必要に応じて応用できる。厳冬季節において艾灸法を上手く活用して健康増進に役立てて欲しい。