健康知識:冬至時節における艾灸養生技法

天候が一気に冷え込み、小雪・大雪も過ぎて冬至になろうとしている。冬至は一年中で最も陽気が少なく陰気が多い時節であり、人体も自然界に従って陰盛陽衰の状態になっている。この時期は陽気保養が最も重要な養生原則である。そのため、飲食調節や日光浴など様々な方法が挙げられるが、最も効果的な方法として艾灸法をお勧めしている。

艾灸法はヨモギなどを体表の経穴に据えて焼灼することで、灸火の温熱刺激及び艾草の薬理性能を以て、経絡の伝導によって体内の臓腑まで到達し、臓腑機能を高めて陰陽気血を調節し、扶正祛邪・防病治病の作用を果たす。艾草は温経散寒・祛風燥湿・行气活血などの効能を持つため、陰盛陽衰の冬至時節において保健養生の温灸が最も相応しく、特に痩弱虚損や陰寒凝滞などに対し、艾灸法は独特な効果をもたらす。

当会会員専用ページにて2017年12月に公開した「保命之法、艾灸第一」の健康知識で、艾灸法の効果を解説して保健養生の温灸に常用される経穴を紹介している。また昨年出版した《針灸臨床実用参考書 経穴の定位と技法》の教科書に経穴の灸法を詳細に記述してあるが、ここでは艾灸法の操作技法及び注意事項について説明する。

一、灸法の操作

艾灸法の材料は古来艾を主としており、臨床では艾を用いて多く艾炷や艾棒を製作して使用する。常用する艾灸法には艾炷灸、艾棒灸、温針灸、温灸器灸などがあり、操作方法は種類によって異なるが、ここでは最も応用し易い艾炷灸、艾棒灸、そして温灸器灸を紹介する。

1、艾炷灸

艾炷灸は純粋な艾を利用し、手指または器具を使用して上が尖って下が大きい円錐形の艾炷を作る。経穴または病痛局所に据え、点火して施灸する方法である。

艾炷の大きさは様々である。米粒大を小炷、箸後端の大きさを中炷と言い、いずれも直接灸に用いられる;オリーブ半分の大きさを大炷と言い、主に間接灸に用いられる。艾炷の数え方は1個を1壮と言う。

艾炷灸の操作方法は主に直接灸と間接灸の二種類に分けられる。

① 直接灸:艾炷を直接施術部位の皮膚表面に据え、点火して施灸する方法である。施灸後の火傷の化膿の有無によって更に化膿灸(打膿灸)と非化膿灸(透熱灸と知熱灸)に分けられる。化膿灸は施灸時に灼熱痛を伴い、施灸後にも火傷の水疱や化膿の処置が繁雑で、また灸瘡(瘢痕)が半永久的に残るため、通常の保健養生には非化膿灸が安全で便宜である。

② 間接灸:漢方薬物を用いて艾炷を施術部位の皮膚表面と隔て、点火して施灸する方法であり、隔物灸とも言う。応用する薬物は数十種類が数えられるが、常用されるのは生姜、大蒜、そして塩がある。

新鮮な生姜や大蒜を厚さ0.2~0.3㎝の薄切りにし、中央を針で刺して数個の穴を開け、施灸する経穴または病痛局所の皮膚表面に置き、その上に艾炷を据えて点火して施灸する。艾炷が燃え尽くしたら取り外し、新たに艾炷を据えて施灸し、必要な壮数に達したら終了する。皮膚が発赤するが水膨れを起こさない適度とする。隔生姜灸は多く寒邪感受による嘔吐、腹痛、泄瀉、及び風寒痹痛などの病証に、隔大蒜灸は多く頸部リンパ節結核、肺結核、腫瘍の初期などの病証に用いられる。

その他に隔塩灸もあり、一撮みの純粋な食塩で臍窩を平らに埋め、その上に大炷を据え、点火して施灸する。艾炷が燃え尽くしてから取り外し、新しい艾炷を据えて施灸する。多く陰寒病証、急性腹痛、嘔吐泄瀉、中風脱証、四肢厥冷、虚脱などに用いられる。なお、回陽固脱の場合は壮数に拘らず、脈象回復・四肢温暖・証候改善になるまで連続して施灸する。

2、艾棒灸

艾棒灸は純粋な艾で作られた直径約1.5㎝、長さ約20㎝の艾棒を用いて経穴または病痛局所に施灸する方法である。具体的な操作方法は温和灸、雀琢灸、そして回旋灸などに分けられる。

温和灸は艾棒の一端に点火し、施灸部位の皮膚表面から2~3㎝ほど離して燻(いぶ)し焼いて施灸し、局所に温熱感があって灼熱痛を感じない。

雀琢灸は艾棒の一端に点火し、施灸部位の皮膚表面と一定の距離に固定せず、雀が啄ばむように艾棒を上下に動かして施灸する。

回旋灸は艾棒の一端に点火し、施灸部位の皮膚表面と一定の距離を保持しながら、前後または左右に動かすか、円を描くように繰り返して均等に回旋して施灸する。

通常、艾棒灸では一部位に5~7分間施灸し、皮膚が発赤するのを適度とする。施灸時に施灸手を施灸部位の付近に当てて安定させ、補助手の示指・中指を開いて施灸部位付近に置き、手指の感覚を通して患者の局所温度を感知し、これにより随時に施灸距離を調整し、施灸時間を把握して火傷を防ぐ。

艾棒灸は一般的な灸法適応の病証全般に応用できるが、温和灸は多く慢性病証の治療、雀琢灸と回旋灸は多く急性疾病の治療に用いられる。

3、温灸器灸

温灸器灸は身体部位に応じて様々な形状の温灸器具を選択し、1~2㎝ほど短い棒灸や切り艾を入れて点火して経穴または病痛局所に施灸する方法である。

温灸器灸は安全で便宜な特徴を持ち、操作方法が簡単なため、普段の保健養生には広く応用できる。

二、灸法の注意

① 実熱証及び陰虚発熱の者、妊婦の腹部と腰部には艾灸法を行わない。

② 顔面五官、関節部、そして大血管のある部位には化膿灸(打膿灸)を行わない。

③ 灸法の操作はなるべく順序に従って行う。一般的には、身体の上部を先に、下部を後に操作し、身体の陽部を先に、陰部を後に操作する;壮数は先に少なめ、後に多めに施灸し、艾炷は先に小さく、後は大きく施灸する。

④ 施灸時は安全を確保する。施灸時に艾火が脱落して皮膚や衣服を焼かないように注意し、また施灸後に艾棒を完全に消火して再燃しないことを確認する。

⑤ 施灸時に室内の排煙換気及び温度調節に注意し、特に厳冬と酷暑の時期は快適な環境を保つ。施灸後も患者は温かくして風に当たらないようにする。

また、施灸後に皮膚が微かに発赤して灼熱感が出現することは正常で特に処置の必要は無い。万が一、施灸の熱過ぎや時間の長過ぎにより局所に小さな水膨れが現れる場合は、破れないように注意して自然に吸収させる。水膨れが比較的大きい場合は消毒済みの毫針で水膨れを破り、液体を流し出すか、注射針で液体を吸い出し、ヨードチンキを塗り、ガーゼなどで覆い、汚染を避けて自然癒合を待つ。

なお、健康増進のための温灸経穴として、「保命之法、艾灸第一」の健康知識で紹介した足三里、関元、大椎、命門、神闕、中脘、太溪のほか、百会、湧泉なども必要に応じて応用できる。厳冬季節において艾灸法を上手く活用して健康増進に役立てて欲しい。

健康知識:秋季における菊花の応用

今年の天候は特に異常で、夏の暑熱と湿気が厳しく長引き、立冬になってようやく涼しくなり、急に深秋らしくなっている。少し雨が降ったとしても気候の特徴はやはり乾燥を主としている。「天神一合」と言われるように、人体も自然界の影響を受け、口舌が乾燥したり、眼精がゴロゴロしたり、皮膚もカサカサしたりすることが多く、いわゆる秋燥のことである。こんな時は菊花をお勧めする。

菊花は微寒・甘苦の性味で、肺・肝に帰経し、疏風清熱・平肝明目・解毒消腫の効能を持ち、主に外感風熱、または風温初起、または熱毒上攻、または肝陽上亢、発熱、頭痛、目眩、目赤腫痛、視物不清、心胸煩熱、疔瘡腫毒などに用いられる。

菊花は、その清熱降火の性能及び他の食材との組合せにより秋季の乾燥から我々を守ってくれる。

1、菊花の主要作用

① 平肝明目:強い風に伴う乾燥は最も目に影響を及ぼし易い。菊花は肝に帰経して平肝熄風・明目養眼の効果を果たし、日頃目の使い過ぎで眼精疲労、眼精乾燥、視力低下の方にとっては守護神だと言える。

② 清熱解毒:秋の乾燥により体内に熱を生じ易い。菊花は清熱解毒の効能を持ち、体内の「火気」を排出させて生体の陰陽平衡を取り戻す。

③ 抗菌消炎:菊花には様々な抗菌成分が含有され、生体の外的な細菌病毒(ウイルス)の侵襲を防御する助力となり、堅実な防御線を築いてくれる。

④ 美容養顔:菊花にはビタミンとミネラルが豊富であり、新陳代謝を促進して体内の毒素を排出させる。長期の服用で皮膚が潤い艶々し、若々しい弾力をもたらす。

2、菊花の配合応用

菊花は普段主に茶代わりに服用する。多くは他の薬効食材と組み合わせることで、清熱除燥・養肝明目の性能を高めるほか、風味があり美味しい。

① 菊花と枸杞 養肝明目:枸杞も養肝明目の効能を持つ良い薬効食材であり、菊花と最適な配合となり、一緒に茶代わりに服用すると、清肝明目の効果を高めるほか、滋補肝腎の作用を果たして特に疲れ目や夜更かしの方に相応しい。

② 菊花と金銀花 清熱解毒:金銀花が持つ清熱解毒の作用は周知されているが、菊花と合わせて茶代わりに服用すると、身体のために二重保険を掛けるように、咽喉腫痛や口内炎のほか、風熱感冒や皮膚掻痒など全て緩解させる。

③ 菊花と蜂蜜 潤肺美顔:蜂蜜は潤肺止咳・潤腸通便の効能を持ち、菊花と組み合わせると護膚美顔の作用を高め、同時に降火除燥の効果も果たせて一石二鳥の目的に達する。また菊花の微苦味を蜂蜜が調和して服用する時の口当たりが一層美味しくなる。

④ 菊花と紅棗 補気養血:紅棗は補気養血の第一選択であり、菊花と一緒に茶代わりに服用すると、補気養血のほか、菊花の寒性を調和することができ、寒涼体質や気血虚弱の方には温補の良い方法だと言える。

⑤ 菊花と緑茶 醒神清脳:緑茶はフェノール性化合物(Tea polyphenols)を豊富に含み、清脳醒神と抗酸化作用を持っている。両者を合わせて健康効果のほか、菊花と緑茶の風味を感じることができ、心身両面の寛解と愉悦を感じて疲労解消のためとなる。

健康知識:秋季第一の補養食 お粥

秋季は補養を最も重要な養生原則としている。しかし夏季の炎熱酷暑による消耗を経て、脾胃機能の低下が多く見られるため、滋陰補益の効果を発揮すると同時に、脾胃に負担を掛けてはならない。このような時、お粥は最も相応しい。

お粥は「糜」とも言い、米、粟、玉蜀黍、豆類などの食糧を煮込んでできた粘液状の流動食物を指す。東洋飲食文化の精粋の一つとして4,000年以上の歴史を持っており、お粥の起源は先秦時期(秦の統一以前の春秋戦国時代)の黄帝時代まで遡り、黄帝が「烹穀為粥」(穀を烹して粥と為る)との伝説があり、3,000年前の商代では調理器具の改良に伴って羹や湯液などと並べて調理技術として形成し進化された。2,500年前から、養生や治療において薬用として使われ始め、中国最初の紀伝体通史書《史記・扁鵲倉公列伝》には前漢名医・淳于意が「火斉粥」を用いて斉王に疾病を治療する記載がある。後漢医聖・張仲景は《傷寒論》に、桂枝湯の服用後に熱いお粥を食すことで薬効の発揮を助けると書いている。また清代経学家・黄雲鵠が中国最古の薬粥専門書《粥譜》を著作し、237個の薬粥処方を収録している。

中国最古の礼儀制度に関する儒学経典《礼記》には「仲秋之月養衰老,授幾杖行,糜粥飲食」と記載してあるように、お粥は秋季補養の逸品である。清代名医・王士雄もお粥を「世間第一補人之物」と讃えている。秋季においてお粥を食すと、下記の作用が期待できる。

① 補水潤燥:お粥は90%以上の含水量を持ち、気候乾燥の秋冬季節に適している。更にお粥に含む水分は澱粉と混じり合っているため、消化管を通過するのが遅くて体内に留置時間が長く、普段の飲水より滋潤効果が優れている。

② 胃腸扶助:お粥は水を媒質として穀物などを柔らかく煮込んでいるため、消化吸収に有益で病弱の時に多く応用されている。脾胃機能が低下する時、或いは胃腸感染や消化不良で下痢などが発生する時に、お粥は最適である。譬え病弱では無くても食欲不振の時にお粥を食すことで、胃腸を一時的に休憩させられる。

③ 栄養補給:従来、お粥には栄養が少ないと多くの方に誤認識されているが、それは材料の単一という原因である。一般的に、粳米だけのお粥は消化され易いが、栄養価値が比較的低く、特にカロリーが高くて血糖が高い方や肥満の方に対して血糖値や体重のコントロールに不利であるため、余りお勧めしない。可能であれば雑穀や豆類を用いてお粥を作ると、栄養価値が高いし、食感も良くて美味しい。

通常の作り方としては、穀物を綺麗に研いでおき、お鍋に適量の水を沸かしてから入れて強火で再度沸かしたら、中火か弱火に変えて全てのものが柔らかくなってとろみが出るまで煮込む。なお、お粥を煮込む途中に冷たい水を加えると、とろみが出難くなるため、最初から多めに水を入れて出来上がる前に火加減で水分調整を勧める。

ここでは、秋冬季節に相応しい保健養生のお粥を幾つか紹介する。

1、蓮実の粥

蓮の実20g、粳米100g。蓮の実を水に浸して緑の芯を取り除いてお鍋に入れ、水を加えて強火で煮込み、蓮の実が柔らかくなったらお米を加え、再度煮立ってから弱火に変えてお米が柔らかくなってとろみが出るまで煮込む。氷砂糖で調味しても良い。

蓮実は健脾利湿・養心安神・益腎固精の効能を持ち、脾虚久瀉、食少羸痩、不眠多夢、心神不安、動悸健忘、腎虚遺精、遺尿、小便不利、月経多量などに用いられる。

2、山薬の粥

山芋100g、粳米100g。山芋を小さく切っておく。通常通りにお米でお粥を作り、お米に火が通ったら山芋を加えて柔らかくなってとろみが出るまで煮込む。

山薬は健脾止瀉・益肺補気・補腎固精の効能を持ち、先天不足や後天失養の体質虚弱の方に適し、脾虚食少、食思不振、下痢、浮腫、肺虚労咳、気喘、消渇多飲、腎虚頻尿、遺精、帯下などに用いられる。また長期に山薬の粥を食用することで先天後天(肺脾腎)を共に滋養して延年益寿の効果を果たす。

3、南瓜の粥

南瓜750g、粳米300g。南瓜を2㎝ほど角切りしておく。お米を研いでから更に30分間ほど水に浸して米粒に水分を充分吸収させておく。お鍋にたっぷりとお水を入れて沸騰したら南瓜とお米を一緒に加え、再度沸騰したら中火に変え、焦げないように頻繁に混ぜ、具が柔らかくなってとろみが出るまで煮込む。

南瓜は補脾益気・温胃調腸・養肺潤燥・化痰平喘・解毒消腫の効能を持ち、脾胃虚弱、胃寒食少、消渇羸痩、栄養不良、咳嗽痰濃、冬季喘息、浮腫などに用いられる。南瓜の粥は温性に偏って秋冬季節における養生の絶品であると言っても過ぎない。

4、大根の粥

秋に大根が豊作される、その中でも皮が赤く辛味のある紅芯大根が良いとされるが、普通の大根でも利用できる。

大根150g、粳米100g。大根は皮を剥かずに薄いスライスに切っておく。通常通りにお米でお粥を作り、お米が半熟になったら大根を加え、とろみが出るまで煮込む。氷砂糖で調味できる。

大根は健胃消食・利肺化痰・理気寛中・涼血生津・利尿通淋の効能を持ち、消化不良、食欲不振、腹満呑酸、泄瀉赤痢、便秘、肺熱咳嗽、痰多粘稠、咽喉不利、喀血、吐血、鼻血、熱病口渇、消渇口乾、小便不利などに用いられる。また大根の粥を服用することは、寒冷気候に多発する急性慢性気管支炎の緩和、更に高血圧や心疾患の予防にも一定の役割を果たす。

5、黒胡麻の粥

黒胡麻20g、粳米100g。黒胡麻を磨り潰しておく。通常通りにお米でお粥を作り、お米が半熟になったら擦り胡麻を加え、とろみが出るまで煮込む。

黒胡麻は補益肝腎・養血益精・滋養五臓・潤腸通便・烏髪養髪の効能を持ち、老年の身体虚弱の方に適し、肝腎不足・精血虚損による早期老衰、髪白脱毛、頭暈耳鳴、視物昏花、腰膝酸痛、四肢無力、五臓虚損、皮膚乾燥、腸燥便秘、乳汁不足などに用いられる。

6、松実の粥

松の種50g、粳米100g。松の種を炒って皮を剥き、細かく砕くか磨り潰しておく。通常通りお米でお粥を作り、お米に火が通ったら松の実を加え、とろみが出るまで煮込む。氷砂糖か蜂蜜で調味できる。

松実は補気養血・潤燥止咳・益精健脳・祛風通便の効能を持ち、体質虚弱や老年便秘などの方に適し、肺燥空咳、皮膚・毛髪の乾燥不華、大便虚秘、風の邪気による目眩動風、骨節腫痛、中風痹証などに用いられる。

上記のお粥は粳米に限らず、玉蜀黍渣(玉蜀黍の潰した細かい粒)や玉蜀黍粉、粟、オートミールなどの雑穀に変えると、更に香ばしく栄養価値が高い。但し玉蜀黍の場合は分量を粳米や粟より多めにする必要があり、また柔らかくとろみが出るまで長く煮込む必要があるため、事前にお水に浸したり、お水を多めに入れたりした方が良い。

健康知識:秋季における潤肺止咳の宝 梨

ようやく秋らしくなり、自然界では「燥」が主気となっている。人体も燥邪に影響されて口咽乾燥、鼻孔乾燥、皮膚乾燥、咳嗽などが現れ易い。この様な症状は旬の果物である梨を用いて緩解することができる。「一梨潤三秋」と言われるように、梨は甘酸っぱくて果汁が豊富で、乾燥する秋季において水分と栄養素の補充に適している。

現代研究によると、梨は栄養豊富であり、水分の含有量が高く、生体の水分摂取量を増加させて健康維持に有利である。ほかに、糖質、食物繊維、多種のビタミンやミネラルなども含有する。そのうち、炭水化物は主成分として最も多く100gの梨に9gほど含まれ、生体の重要なエネルギー源となっている。大量の繊維質は胃腸蠕動を促進して消化機能と腸管健康の助けになる。多種のビタミンにはビタミンC、ビタミンB2、そして葉酸が最も多く、特にビタミンCは生体に重要な抗酸化作用を与えて免疫機能を増強させて感染リスクを減少させる。豊富のミネラルには主にカリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガンなどがあり、中のカリウムは血圧調節や心疾患予防などに役立つ。また、抗酸化剤として、フラボノイド化合物やアントシアニジンなども明らかな抗酸化作用を以て細胞の老化を抑制し、癌腫の発生を予防することができる。

中医学的には、梨は甘・微酸・涼の性味で、肺・胃・心に帰経する。生津潤燥・化痰止咳・清熱解毒などの効能を持ち、主に熱病津傷または温熱病後期、陰虚煩渇、消渇口乾、肺熱または痰熱による咳嗽痰多、肺燥による空咳、嗄声、噎膈反胃、大便秘結、飲酒過度などに用いられる。

また、梨は食用方法により効能が変わってくる。生の食用は六腑の熱を清利する作用に長じ、生食により清熱作用を以て咽喉腫痛、手足の熱がり、舌紅苔黄などの場合に適する。一方、加熱食用は五臓の陰を滋養する作用に長じ、加熱により梨の寒涼性質を緩和して滋陰潤燥の効能を高めるほか、胃腸虚寒の方にも優しくなる。

秋季における潤肺止咳のために、通常蒸しや煮込みの食用法をお勧めする。梨1個を真ん中から縦半分に切り、種を取り除いで氷砂糖を適量加えて茶碗に入れ、蒸し器で30分ほど蒸し、冷ましてから蜂蜜で調味して梨を食して汁を飲用する。煮込みの場合は、梨を六等分や八等分に切り、梨が柔らかくなるまで煮込み、白木耳や百合根などを入れると養肺気・益肺陰の効能を高める。

但し注意することがある。梨は寒冷性質であり、多食すると脾胃を傷めて陰湿を助長するため、脾胃虚寒、溏便、腹部冷痛、風寒咳嗽の者や産婦は食用すべきではない。なお、梨皮は滋陰潤燥・止咳化痰の効果が梨肉より優れており、中薬処方の桑杏湯には梨皮を入れて燥咳の治療に用いるのである。咳嗽や痰多の者は梨皮を煎じて煮汁を飲用するか、或いは皮付きのまま直接食用しても良い。

健康知識:夏季における生姜の応用 続編

生姜は台所の必需品として常備されているが、臨床における常用薬としても重要である。その性味は微温・辛で、肺・脾・胃経に帰経し、発汗解表・温肺化痰・温中降逆・解毒の効能を持っている。《本草綱目》には「姜,辛而不葷,祛邪避悪,生啖熟食,酢、醤、糟、塩、蜜煎調和,無不宜之。可蔬可和,可果可薬,其利博矣。」とあり、生姜の性能特徴と薬食価値を説明している。夏季の炎熱蒸騰の自然特徴に応じて人体の陽気も体表に昇発して体内に陽熱が逆に少なくなって寒冷内生を起こし易い。そのため、夏季には温熱性質の生姜を食用することで、健康維持に役立ち、更に一部病症の治療または緩解に繋がる。

昨年初夏に「夏季における生姜の応用」を紹介したことがあるが、ここで他の生姜の応用方法を紹介する。

1、姜撞奶(生姜と牛乳のお菓子)

材料:生姜(とうを通ったのが良い)50g、牛乳250ml、砂糖30g。

作法:生姜の皮を剥いてミキサーで砕き、灰汁を除いて汁をお椀に入れる;牛乳に砂糖を加えて弱火で煮立て、しゃもじで温度が70~80℃まで冷めるまで混ぜ、高く持ち上げて速やかに生姜汁が入ったお椀の中に注ぎ落とす;お椀に蓋をして15分間ほど蒸し、自然に固まったら出来上がり。

効能:本方は民間処方である。生姜は健胃除湿祛寒の作用、牛乳は補気血・強筋骨の作用を持ち、合わせて駆寒暖身・滋補保健・延年益寿の効能を果たす。

2、当帰生姜羊肉湯(当帰と生姜と羊肉の煮込み)

材料:羊肉500g、当帰50g、生姜60g、長葱30g、塩少々。

作法:羊肉を塊に切り、お湯を通して灰汁を除き、取り出して綺麗に洗って置く;生姜を綺麗に洗ってから塊に切って包丁で叩き潰す;お鍋に水を入れて煮立てておく;羊肉を土鍋に入れて軽く炒め、生姜を加えて強火で生姜の香りが出るまで炒め、沸かしたお湯を加え、当帰を入れて一緒に煮立ててから弱火に変えて2時間ほど煮込み、肉と皮が柔らかくなったら塩で調味して出来上がり。

効能:本方は《金匱要略》から出典した。当帰は補血活血・潤腸通便の作用、生姜は発汗解表・止嘔解毒の作用を持ち、合わせて益気補血・温中祛寒・調経止痛の効果を果たす。

3、陳皮姜棗湯(陳皮と生姜と大棗の煮汁)

材料:陳皮10g、生姜50g、大棗数個、黒糖適量。

作法:生姜を微塵切りにして陳皮、大棗と一緒にお鍋に入れ、水を500ml加え、煮立てから弱火に変えて3~5分間煮込み、黒糖で調味して熱い内に飲む。

効果:本方は民間処方である。陳皮は理気降逆の作用、大棗は補益脾胃の作用、生姜は暖胃駆寒の作用を持ち、合わせて健脾和胃・理気寛中の効果を果たす。

4、紅薯生姜湯(薩摩芋と生姜の煮汁)

材料:薩摩芋250g、生姜3スライス、氷砂糖適量。

作法:薩摩芋を綺麗に洗ってから皮を剥いて塊に切り、生姜をスライスに切る;一緒にお鍋に入れて適量の水を加え、強火で煮立ててから弱火に変えて30分ほど煮込み、氷砂糖を加えて飲む。

効能:本方は民間処方である。薩摩芋は健脾養胃・潤腸通便の作用、生姜は温中散寒の作用を持ち、合わせて益気潤腸の効果を果たす。

5、生姜葱白湯(生姜長葱茶)

材料:生姜30g、長葱の白根10g、黒糖適量。

作法:生姜と長葱を細切りにし、黒糖を加えてお湯に浸すか、沸騰するまで煮る;熱いうちに飲んで布団をかけて休む。

効用:生姜は発散風寒・温胃止嘔の作用、長葱は発汗解表・通陽散寒の作用を持ち、合わせて散寒解表・温中止痛の効果を果たす。特に夏季の冷房による風寒外感、頸肩背腰の冷痛、腹痛泄瀉などに効果的である。

6、生姜橘皮水(生姜と蜜柑皮の煮汁)

材料:生姜12g、蜜柑の皮12g。

作法:生姜と蜜柑の皮を一緒にお鍋に入れ、水を加えて15~20分ほど煎じる。1日に2~3回に分けて温かく服用する。

効用:生姜は散寒発汗・温胃止嘔・解毒鎮痛の作用、橘皮は理気化痰・健胃除湿・止嘔降圧の作用を持ち、合わせて散寒止痛・温中止嘔の効果を果たす。特に夏季に冷飲や寒冷性質の果物などの過剰飲食により寒邪が胃腑を侵襲して嘔吐、腹痛などが現れる時に効果的である。

上記のほか、陽気不足で手足が冷える方には生姜の煮汁で足を浸すか、生姜の煮汁を飲用することで、陽気温補の効果が発揮できる。ほかの季節より陽長陰消の夏季に最も相応しい。具体的に、生姜をスライスに切り、強火で煮立ってから深い容器に移して足三里穴の高さまでの下腿全体を浸すほど水を加えて足を浸すか、1~2スライスの生姜を20~30分間煮込んで飲用する(好みにより黒糖で調味できる)。

生姜は夏季の健康養生にメリット沢山の薬食両用物であるが、食用に関して注意しなければならないことがある。腐った生姜を服用してはならない;生姜は辛熱燥烈の物で、陰虚火旺で内熱目赤、燥熱便秘、舌苔乾黄、或いは癕腫瘡癤の方は慎重に生姜を服用すべきである;体質平和の一般人も大量で長期に生姜を食用してはならず、一般には3~10gを適宜とする。また生姜の皮について生姜肉と同じく辛味でありながら、涼性を持って利水消腫の効果が優れている。普段の調理などの場合は、皮を剥かずに食用すると、薬性の平衡を保って逆上せを防ぐが、苦瓜やセロリや蟹など寒冷食材の食用時、或いは脾胃虚寒や風寒感冒の生姜黒糖水の飲用時に皮を剥いた方が寒冷を助長させないように役立つ。

健康知識:三伏天養生の五大要点

本日より三伏天に入った。今年も閏中伏で、7月15日から24日までの初伏、7月25日から8月13日までの中伏、そして8月14日から23日までの末伏からなって計40日間にわたる。

三伏天は一年中で最も気温も湿度も高い時期であり、人体もこの自然界の陰陽変化に従って大きく変動している。日頃は防暑降温に注意を払い、飲食と起居を合理的に配置して酷暑から生体を守らなければならない。

三伏天の時期において下記の五大要点から養生に手を入れて欲しい。

1、温陽補気

暑熱は人体の気を傷め易い特徴があり、これによって体力元気が不足して生体の機能低下を来す。そのため三伏天において補気は大切である。《黄帝内経》における「春夏養陽」の養生原則に従い、三伏天において特に陽気を保養すれば、秋冬時期の陽気不足を防ぐ。

補益陽気の対策が様々あり、冷房回避、温熱飲食、温灸施術など、今までの健康知識に紹介したことがあり、再度参考にしてもらいたい。ここでは陽気保養のための新たな飲食調節を紹介する。

① 西洋人参:夏季の暑熱において西洋人参は最もお勧めの補気薬であり、気陰両補の性能を持つため、気を補い、陰を傷めて逆上せることはなく、陰虚や口乾口渇の場合も適用する。特に汗をかき過ぎて疲労や心悸が現れた場合は西洋人参を持って茶代わりに飲用すると、効果的に補気できるし、夏バテにも有益である。

② 蝦:養陽のためには肉類の効率が比較的に良く、特に羊肉に陽気を補う力が強い。しかし夏季では脂っこい温熱性質の肉類は適しない。その代わりに海鮮類があっさりした口当たりでこの季節に適し、蝦は最もお勧めである。代表的な蝦韮炒めのほか、蝦と胡瓜の炒めも柔らかくてさっぱりしている。

2、清熱解暑

三伏天は気温が高くて暑熱が強いため、清熱解暑は不可欠な養生要点である。

養生対策としては、下記の飲食調節で工夫して欲しい。

① 緑豆:緑豆は清熱消暑・利水解毒などの効能を持ち、軽度の中暑による頭暈頭痛、胸悶気短、無汗煩熱、汗疹や皮疹などの症状に対してより良い治療作用がある。中国北京の町のレストランではこの酷暑の時期になると、食事前に緑豆スープを無料で提供していることが多い。通常30分~1時間ほど豆粒が柔らかくなるまで煮込み、スープも濁ってザラザラとした口当たりで良い。ほかに、山査子と一緒に煮込んで適量の氷砂糖で調味し、冷まして清涼飲料水としても相応しい。

② 西瓜翠衣:西瓜は美味で清熱解暑・除煩止渇の効能があると一般に知られているが、その効能が最も強い部分は西瓜の緑色の皮である。新鮮な翠皮をお水で30分ほど煮込み、適量の氷砂糖を加えて飲用するか、千切りした翠皮を乾燥させてから他の相乗効果を持つ材料と一緒に茶代わりに飲用して良い。

3、健脾祛湿

夏季では食欲不振が多く見られるが、飲食栄養が上手く取れないと、健全な体力が失われる。脾胃は「後天の本」であり、脾胃の運化機能が健常であれば、飲食物の消化吸収及び水穀精微の運送を増進させる。また、三伏天では暑熱に伴って湿気が高く、生体に侵襲すると往々にして頭身困重、倦怠胸悶、飲食無味、口中粘々、更に抑鬱などの症状が現れる。脾は水湿を運化するため、脾気を強化することにより、諸症状の解消に役立つ。

養生対策としては、下記の飲食調節をお勧めする。

① 橘皮(陳皮):蜜柑の皮を陰干しするか、陳皮を購入し、10gほどを取って適量の氷砂糖と一緒にお湯に浸してから茶代わりに飲用すると、健脾燥湿・理気開胃の効能を持ち、暑熱による腹脹、消化不良、食思不振の時に適する。

② 赤小豆・はと麦:赤小豆には清熱、はと麦には利湿の効能があり、両者は清熱利湿の理想的な組合せである。それぞれを50g取って2時間ほど水に浸し、お米100gと一緒に柔らかくなるまで煮込んだお粥は清熱利湿の常用献立である。

③ 冬瓜:冬瓜は清熱化痰・利水消腫・生津除煩の効能を持ち、三伏天養生に重要な食物である。浅利と一緒にスープを作り、解暑利水に伴って補水潤燥の作用も果たす。また蓮の実と一緒にお粥を作ることで、更に健脾効果も高められる。

4、調心降火

五行学説によると、夏気は火に属して心気に通じるため、盛夏は最も心に関係が深い。炎熱は生体の熱毒を盛んにさせ、心火(逆上せ)になって口瘡(口内炎)、心煩、不眠、心悸などの症状が見られる。また、汗は心の液とされ、夏季では汗が多く流れて心陰を消耗するため、心を養うことが重要である。

養生対策としては、夏季養心のために紅棗、サクランボ、紅花など、赤色の食物が相応しく、心の陰陽を補って安神助眠の効果も期待できる。

一方、心火降下のためには、蓮実芯を常備薬とすべきである。蓮実の中にある緑の蓮実芯は清心祛火の効能を持ち、心煩、不眠、舌炎などの場合は約20粒を茶代わりに飲用すると良い。また緑茶を加えると更に美味しく効果的である。

5、養神安眠

《黄帝内経》では「夏三月,此為蕃秀。天地気交,万物華実,夜臥早起,無厭于日」とある。夏季では昼が長くて夜が短いし、天気が炎熱のため、夜間睡眠が上手く取れず、睡眠時間が少なくなり、睡眠の質も優れなく、不眠になり易い。また暑熱多汗による水分流失が随時に補充できないと、脱水傷津で元気損耗を起こして生体の免疫機能低下に至り易い。

自然の生長規律に従い、比較的涼しくなった夜間に入眠し、早朝に起床することで、気機が宣暢に疏泄し、できるだけ炎熱による津液損耗を減少させる。また不足した睡眠は短い昼寝で補給することもできる。

ほかに飲食調節として、蓮根が持つ清熱養血・安神除煩の効能で治療して安神助眠の作用を来たす。新鮮な蓮根を弱火で柔らかくなるまで煮込み、スライスして適量の蜂蜜で調味して食用できる。

健康知識:夏季に最も重要な睡眠時刻二つ

立夏を過ぎて気温が少しずつ上がり、万物が栄えて茂っている。この時節から自然界の陽気が徐々に生長して陰気が徐々に減弱する。生体も自然に従って陰陽の盛衰消長が変化しており、心気が強くなって肝気が弱くなる。この頃から逆上せ易くなり、これによって体力も消耗されて疲れを多く感じるる。特に夜間の睡眠が不安定になって朝も早く醒め易い。全て体内の陽気が盛んになってきた現れである。また夏は暑熱から津液を消耗するに伴って気の漏洩も考えられ、常に疲労倦怠、眠く感じる。体力保養・疲労解消のためには睡眠が非常に重要である。

《黄帝内経》には「夏三月,此謂蕃秀,天地気交,万物華実,夜臥早起,無厭于日,使志無怒,使華英成秀,使気得泄,若所愛在外,此夏気之応,養長之道也。逆之則傷心,秋為痎瘧,奉収者少,冬至重病。」という養生原則が記されてあるが、夏季は陽気が盛んになって暑熱の擾乱で心神が安定し難いため、遅寝早起きをお勧めしている。当然、睡眠不足の状態にしてはならず、不足の睡眠は昼寝で補足できる。一日の中で、下記の二つの時刻は睡眠に最も重要であるため、効率的に応用して欲しい。

一つ、子の時刻:深夜11時から早朝1時までの時間帯に当たる。

この時間帯は肝経の主時(対応する時刻)であり、肝臓が全身の気機を疏通させて調達させる時刻で、人体の陽気が生発(生成発展)の時刻である。子の時刻に深い睡眠状態に入ると、陽気昇騰や気血通調のためになり、生体における各臓器の機能回復と機能強化に役立つ。反対に子の時刻に睡眠状態を入らないと、肝の疏泄効能に影響を来たし、頭暈目眩、頭痛で怒り易い、耳聾耳鳴、胸脇脹痛、恐々動悸、睡眠不安、腰膝痠軟などの症状が現れる。

もし、横になっても中々寝つきが良くない場合は、下記幾つかの経穴を揉むことで不眠解消のために効果的である。

  1. 神門穴:手少陰心経の原穴で、益気養心・鎮静安神・通脈止痛の効能を持ち、心病証の重要な経穴であり、主に心気不足や心陰虚損による不眠に適応する。現代では多く狭心症、脈無病、不眠症、神経衰弱、認知症、ヒステリー、統合失調症などに用いられる。拇指の指尖で反対側の経穴を2~3分間ほど点揉し、軽く痠脹感を催す。
  2. 内関穴:手厥陰心包経の絡穴で、寧心安神・理気降逆・寛胸和胃・活血止痛の効能を持ち、心・胸・胃病証の重要な経穴である。現代では多くリウマチ性心疾患、冠状動脈性心疾患、狭心症、心筋炎、心膜症、不整脈、胃腸炎、嘔吐、気管支喘息、不眠、自律神経失調症、鬱病、ヒステリーなどに用いられる。通常、拇指の指腹で反対側の経穴を5~10分間ほど按揉し、局所に軽く痠脹感を催す。
  3. 湧泉穴:足少陰腎経の井穴で、蘇厥開竅・鎮静安神・瀉熱滋陰・発汗利尿・降逆止嘔の効能を持ち、腎病証や失神の重要な経穴であり、主に心腎不交や腎陰不足による不眠に適応する。現代では多く意識障害、ショック、高血圧、低血圧、不眠、神経衰弱、神経性頭痛、三叉神経痛、ヒステリー、癲癇、統合失調症、精神障害、夜尿症、尿貯留などに用いられる。拇指の指腹で按圧するか揉擦し、或いは足湯の後に軽く叩いたり、按摩器具で刺激したりする。就寝前に3~5分間ほど行う。
  4. 太溪穴:足少陰腎経の原穴で、滋陰液腎・壮陽強腰・清熱安神・止咳平喘・調経理血の効能を持ち、腎病証の重要な経穴であり、主に腎虚による不眠や早く醒めるなどに適応する。現代では腎炎、膀胱炎、尿路感染、夜尿症、気管支炎、気管支喘息、肺気主、関節リウマチ、下肢麻痺、不眠症、神経衰弱、耳聾耳鳴、月経疾患、性機能障害、糖尿病などに用いられる。拇指の指腹で同側の経穴を2~3分間ほど按揉し、徐々に力を強くする。
  5. 三陰交穴:足太陰脾経の経穴で、足三陰(肝・脾・腎)経脈の交会穴として健脾益気・調補肝腎・通経活血・理気止痛・祛風利湿の効能を持ち、主に脾気虚弱や陰血虚弱による不眠や入眠障害などに適応する。現代では高血圧症、血管性頭痛、不眠、神経症、統合失調症、胃腸炎、肝炎、すい臓炎、腎炎、尿路感染、排尿障害、糖尿病、月経疾患、更年期障害、性器疾患、性機能障害、下肢麻痺、皮膚炎、湿疹、蕁麻疹などに用いられる。拇指の指腹で同側の経穴を3~5分間ほど按揉し、徐々に力を強くする。

二つ、午の時刻:午前11時から午後1時までの時間帯に当たる。

この時間帯は心経の主時(対応する時刻)であり、心臓が全身の血脈を統合させて調節する時刻で、また心神を緩和し整理する時刻でもある。

午前中の仕事や学習などを経て、体力労働や脳力労働に関わらず生体は高度の集中状態により疲労が現れる。この時間帯に昼寝を取ると、全身への調節機能が更新され、午後の心身状態を充溢させて仕事や学習の効率を高めることができる。譬え15分ほどの短い昼寝でも、生体に対して高速充電のような価値があり、疲労を解消して圧力を緩解し、精神状態の回復で集中力を高められ、更に生体の免疫力・抵抗力の増強に繋がる。

但し、昼寝の習慣にも良し悪しがある。例えば食後直ぐに寝るとか、机に伏せて寝るなどは、いずれも良くない癖であり、避けるように注意しなければならない。

健康知識:気力不足の認識と対策

中国の古書には「一年の計は春に在り、一日の計は朝に在る」という言葉があり、春は一年の計画、朝は一日の計画を行う時機である。春と朝は陽気が増長する時で、万物は生気溢れ、一年や一日のためにしっかり計画して基礎を築かなければならない。しかし、こんな時期になっても、どうしてもやる気が出ない、何となく気力不足などを感じている方が多い。普段でも動きたがらず、少し動いただけで直ぐに疲れる、話したがらず、話しても声が低い、更にいつも倦怠無力感、物事に無関心で、まるで怠けているように見えて自分でも情けない感じで悩んでいる。実際、このような方の大半は怠け者ではなく、身体が弱いからである。

中医学では、この気力不足の状態を気虚と言う。身体の気が足らないため、疲れて怠け、やる気が出ないわけである。

気は人体を構成して生命活動を維持する最も重要な物質であり、また臓腑経絡の基本機能でもある。気は臓腑の機能活動から生成され、また臓腑の機能活動に基本的な栄養と動力を与えている。先天的の素因もあるが、往々にして長期にわたる不良な生活習慣から生体の気を損耗して気虚を来たし、臓腑の機能活動も低下する。

気虚は発生部位により主に心気虚、肺気虚、脾気虚、腎気虚に分けられる。ここでそれぞれ異なる発病原因と病状特徴を解説し、治療方針と対策方法を紹介する。

1、気虚の原因と特徴

心気虚:平素の生活や仕事からのストレス蓄積、思考過度などにより心を傷めることから起こされる。主に心悸、気短、自汗、無力などの特徴がある。

肺気虚:幼い頃の肺病罹患による消耗のほか、運動不足、寒冷乾燥などにより肺を傷めることから起こされる。主に息切れ、話し声が低くて弱い、自汗、易感冒などの特徴がある。

脾気虚:多くは寒冷飲食や脂っこく甘い食物の過食など飲食失当、或いは長期に持続する体力労働により脾を傷めることから起こされる。主に四肢無力、消化不良、腹痛泄瀉などの特徴がある。

腎気虚:天賦不足のほか、長期に持続する過労、夜更かし、性生活過度などにより腎を傷めることから起こされる。主に腰腿痠軟、全身無力、手足不温などの特徴がある。

上記のほか、一臓の気虚で五臓間の機能協調が失われて全身に影響し、倦怠無力、精神不振、意欲不足など全体的な総合症状も伴ってくる。また、気虚者の6割以上は舌体の胖大・歯痕が認められる。

このように、日常の生活と仕事から蓄積された単なる疲労が長期化すると、病的な気虚に至る。また生体は有機的な生命体であり、五臓間は相互に緊密な関係を持っているため、一臓の気虚が発生すると、必ず他臓まで影響していき、心肺・心脾・肺脾・肺腎・脾腎・肺脾腎など多臓同病の気虚病証も現れる。更に、「気は血の帥なり」とされており、全身の血液や津液は全て気の推動作用によって循環運行されている。気が不足すると、原動力が弱くなり、血脈の運行や津液の代謝も停滞して瘀血や痰湿など様々な続発病証を来たす。

2、気虚の対策

気虚は生体の気が損耗され、臓腑機能が低下する病理状態に属する。これに対して先ずは病状の進行を止めるため、疲労解消と休養が大事である。この上、補気の治療原則を立て、中薬製剤や飲食調節、或いは針灸推拿や気功養生など伝統医学的な助力を用いて虚弱の気を補益し、臓腑機能を強化することが重要な対策である。

心気虚証:心は神志と血脈を主るため、心気虚が発生すると、精神不振、不眠健忘、面色無華、心悸不安、過労により増悪するなどが現れる。心気補益を治療原則にして生脈飲(人参、麦門冬、五味子)、または柏子养心丸(柏子仁、党参、川芎、遠志、五味子)の漢方薬が服用できる。

肺気虚証:肺は気を主り呼吸を司るため、肺気虚が発生すると、咳嗽気喘、痰を吐く、胸悶気短、話し声が低くて弱い、汗が出易い、風邪を引き易いなどが現れる。肺気補益を治療原則にして四君子湯(党参または人参、炒白朮、茯苓、甘草)の漢方薬が服用できる。

脾気虚証:脾は運化(飲食物の消化吸収と水穀精微の運送)を主リ、肌肉を主るため、脾気虚が発生すると、食欲不振、口淡無味、食後倦怠、脘腹不快、大便稀薄、四肢倦怠などが現れる。脾胃補益を治療原則にして補中益気湯(炙黄耆、党参、炙甘草、炒白朮、当帰、昇麻、柴胡、陳皮、生姜、大棗)、または六君子湯(党参、白朮、茯苓、半夏、陳皮、甘草)の漢方薬が服用できる。

腎気虚証:腎は精を蔵し髄(骨髄、脳髄)を生じ、生殖を主り、納気を主るため、腎気虚が発生すると、腰膝痠軟、四肢不温、呼吸困難(呼気が多くて吸気が少ない)、小便頻数、月経少量、遺精陽痿などが現れる。腎気補益を治療原則にして金匱地黄丸(日本では八味地黄丸:熟地黄、山薬、山茱萸、沢瀉、茯苓、牡丹皮、肉桂、附子)、或いは済生地黄丸(日本では牛車腎気丸:八味地黄丸に牛膝、車前子を加える)の漢方薬が服用できる。

飲食調節の場合は、食物の基本的な性能から温性・甘味を持つものは気を補う効能があり、更に食物の帰経性質(特定の臓腑に対して重点的に作用する)に応じて関連臓腑の虚損補益に用いられる。このほか、五行学説に基づき、五臓間の相生関係に応じて「虚なら其の母を補う」と言う治療原則から肺気虚証には脾気を補うことで対応することができるし、五色と五臓の相関性に応じて百合根や銀杏や白木耳など白色食物を肺気補養、南瓜や栗や薩摩芋など黄色食物を脾気補養、黒豆や黒胡麻など黒色食物を腎気補養に用いることも考えられる。なお、調理方式としてお粥やスープのような水を媒質として煮込む方法が消化吸収能力も低下する気虚状態に比較的相応しい。

針灸推拿の場合は、兪原配穴の配穴方法があり、気虚の臓の背部兪穴と原穴の組み合わせでそれぞれの臓気補益に応用する。即ち、心気虚証には心兪と神門、肺気虚証には肺兪と太淵、脾気虚証には脾兪と太白、腎気虚証には腎兪と太溪を取穴として応用できる。また一部の腧穴には生体補養の特異性を持ち、例えば足三里、気海、関元、大椎、命門などがあり、特に按揉法や温灸法を多く行うことで全身の気を温補する効果が期待できる。

気功養生の場合は、体力的な負担による気の消耗を避けるため、静養功など坐勢や臥勢を取った静功法が比較的相応しい。動功法なら、局部の軽い動作を伴う保健功も応用できる。また六字訣や八段錦などの気功法は、五臓のそれぞれに特定的な効果をもたらすため、具体的に機能低下の臓に対して部分的に応用できる。いずれにしても重要なのは練功時に無理な努力をしてはいけず、そして効果が現れるまで長く持続しなければならない。

健康知識:息を深く長くすることで健康養生

人間は、赤ちゃんとして母体から離れて産声を発して息が始まって自ら生命活動を営み始めるが、最期に息を引き取ることで生命活動の終止を示している。呼吸機能は生命活動の基本的な指標である。「人は一息で活きる」と言われるように、人間の生命は気によって営んでおり、生命活動自身は気の運動の一種である。健康の時には元気が充足し、病弱の時には息切れや息苦しいなど呼吸困難が現れてくる。

中医学的には、生体の気は肺に吸入された自然界の清気、及び脾胃に運化された飲食物の穀気から生成されている。脾胃による消化機能は確かに健康維持の基本であるが、肺による呼吸機能も健康増進の重要な素因である。気功養生療法では「調息」(息の調節)が非常に重要な要素とされている。

呼吸運動は姿勢、生活環境、そしてストレスなど様々な素因に影響され、浅くなったり苦しくなったりする。加齢に伴って胸郭が硬くなりがちで、呼吸運動も影響されやすい。清気の吸入が少なくなり、元気が不足する。

古代の養生術には、「呼吸が臍に至れば、寿命は天と等しい」との名言があり、呼吸が臍まで深くできれば、長寿ができる。このように呼吸を深く長くする鍛錬方法は養生に大きな役割を果たしている。呼吸の鍛錬方法は様々あるが、基本的な要領は緩慢、柔和、連続であり、代表的な簡易方法として腹式呼吸が挙げられる。

普段の呼吸方式として、胸郭の拡大と収縮によって肺臓の全体が外から動かされ、空気を肺中に納めて清気の吸収と濁気の排出を行う。呼吸運動の深まりに伴い、胸郭の動きに伴って腹部も起伏するように運動させると腹式呼吸になる。厳密に言うと、腹式呼吸は単純に腹部による呼吸ではなく、胸郭の呼吸運動が強化し深化したものである。

呼吸は吸気と呼気の律動的な動作からなるが、吸気より呼気が重要である。呼気により濁気を排出してはじめて、吸気により清気を吸収することができる。これによって「吐故納新」(腹から古い気を吐き出し、鼻から新しい気を吸い入れる)が求められている。また呼吸の一時的停止は停止前の呼吸に対して強化作用があると考えられるため、呼吸鍛錬の時に、吸息の時間より吐息の時間をやや長く調整し息を吐き尽くしたところで、少しだけ停めることをお勧めする。

腹式呼吸の鍛錬効果は下記にまとめられる。

① 肺気増強:中医学によると、肺は気を主り、呼吸を司るとされ、肺気が充足すると、生体の元気も充足している。また肺気とは呼吸だけではなく、また外邪侵襲の防御機能を意味しているため、生体の抵抗力や免疫力に繋がる。腹式呼吸は胸郭を最大限に広げて清気を多く深く吸い込み、肺臓の機能も増進させて肺気を増強させる。

② 内臓強化:腹部には任脈、腎経、胃経、脾経、肝経、帯脈など、多くの経絡が循行して通過しているため、腹式呼吸による腹部の起伏運動は腹部の内臓に按摩のような効果を持って内臓の蠕動が助長され、これに伴って全身の経絡と臓腑も同調して気血の循行を促進される。特に中焦脾胃の運化機能を直接強化して昇清降濁の機能を健全にさせる。

③ 気血増進:腹式呼吸を行っているうちに、内臓器官に按摩作用を果たして蠕動を促進させ、全身の気血運行を増進する。これによって頭痛眩暈、高血圧症、脳血管障害などの疾患に対して効果的に予防と回復の作用を果たす。中医学からみると、これらの疾患は気血上衝の種類に属し、腹式呼吸で気血を下方の丹田へ引き下ろすことができる。

④ 肌膚保養:中医学的には「肺は皮毛を主る」とされ、全身の皮膚と体毛は肺気に栄養されて調節されている。肺気が充足すると、肌がきめ細かくて滑らかであり、肺気が不足すると、皮膚・毛髪が疎らで外邪に侵襲されやすい。腹式呼吸で肺気を増強させ、肺気の充足によって美肌・潤膚・祛斑の効果を果たす。

⑤ 精神安定:腹式呼吸は精神に直接影響している。気分が悪く苛立つ時に、数回深呼吸をすると、精神が落ち着くことを経験した方は少なくない。息を深く長くすることにより、気血の運行が促進され、特に中焦脾胃による昇清降濁の機能を増進させ、心神(頭脳)がスッキリして愉悦な気分になる。

腹式呼吸の鍛錬方法は比較的容易で、個人的に調整しやすい。重要なのは呼吸鍛錬の要領を把握し、長期に持続することである。

簡単な鍛錬方法では、姿勢は立式でも臥式でも良いが、両手を臍の前に置く(立式)か、重ねて臍下の丹田に軽く当て(臥式)、心身全体を緩めて窮屈な姿勢を避ける。呼吸を自然な状態から少しずつ丁寧に深く長く調整し、呼吸に従って腹部も起伏する。通常では吸息時に胸腹部も膨らみ、吐息時に胸腹部も引き締める。呼吸鍛錬の長期持続で馴染んでから、吸息時に腹部を引き締め、吐息時に腹部を膨らむように意識的に調整することもでき、これを逆腹式呼吸と言う。いずれも吸息の時間より吐息の時間をやや長くし、吐息後に少しだけ間隔を置くことをお勧めする。

少し専門的な練習方法に拘る方には、下記の呼吸鍛錬方法を紹介する。

両脚を肩幅ほど開いて自然に立ち、両手を緩めて腹前に風船を持つように置く。吸息に伴って両手を微かに身体の内側へ収め、腹部は微かに体内へ収める。同時に両手に抱かれる気と吸い込んだ気は丹田(臍下の下腹内)に合流し、更に丹田から命門(両腎臓の間)へ収縮していくと連想し、これを「闔丹田」と言う。息を吸い切ったら、ゆっくりと吐息する。全身が緩み、全身の気が丹田から四肢百骸まで伸びて行くと連想し、これを「開丹田」と言う。息を吐き切ったら、やや停止する(鍛錬の深化により、停止間隔も徐々に長くする)。その後ゆっくりと吸い込み、前述した要領で吸息に進む。

このように繰り返して呼吸と丹田開闔を30分間ほど練習する。最初の7回は呼吸と丹田開闔の幅度は大きくし、その後は徐々に小さくし、全身のリラックスに伴い、リズムも自然に遅くなり、呼吸は微細で綿々と変わり、最後に有るようでもあり無いようでもある佳境に入る。

上記の腹式呼吸鍛錬には三つの要点がある。

① 吸気時に丹田を緊張させ呼気時に丹田を緩ませる。吸気と呼気に従って腹部が起伏し、吸気時に腹部の丹田から命門へ凹ませ、呼気時に腰部の命門から腹部の丹田へ緩める。呼吸の進行に従って腹部が律動的に起伏し、これによって臓腑への按摩効果が果たせる。

② 呼吸と丹田開闔はいずれも緩慢・柔和・自然に進行させる。練習の積み重ねにつれて呼吸は徐々に遅くなり、動作も細かくなる。無理な努力を避けて緩めて自然に行うことで、体内の気が充足することができるが、無理に力むと、焦りやすくなり、体内の気が乱れやすい。通常成人の呼吸は1分間に16回くらいあるが、腹式呼吸の鍛錬により呼吸は深く、長く、細く、均等になり、長期に持続すると養生長寿の効果が現れてくる。

③ 呼気後になるべく数秒ほど停止する。これによって心身静止の状態に入って休息の状態に入る。これを「息」との言葉で現し、古代に曰く「息なら則ち命が長い」のように、心身全体を呼吸に従って協調すれば充分に休息でき、精気神は滋養を得て充実になり、生命力も旺盛に回復して寿命も延長できる。

健康知識:経穴を用いた美顔方法

近年、日本において美容針灸が非常に流行っている。

厳密に言えば、美容針灸は針灸技法を用いて全身の経穴に適度な刺激を与え、経絡気血の運行を促進させることにより、全身の臓腑機能を調節するうえ、局所の皮膚組織を養護して老衰遅延・健身美顔を目的とする治療方法である。

美容針灸は、広義的な意味で全身美化(全身肥満や腹部肥満などの痩身)と顔貌美化(顔面のシミやシワや弛みなどの美顔)との二つの内容を含む。現在、狭義的な意味で美顔を目的とし、主に先天的な生理欠陥及び後天的な病理疾患を軽減または消除する、或いは疲労や加齢老衰による機能低下を調節することが多く注目されており、この意味で美顔針灸と言うことが多い。

また、中医学的には生体の健康を無くして美顔が達成できないと考えている。本来、美容針灸は身体全体の状態を考えたうえ、全身の経穴に行う針灸治療の全般を指している。しかし、最近は一般的に直接顔面だけに刺針治療を行うのが主流になっている。

最近、針灸院やエステサロンだけでなく、接骨院などでも美容針灸を取り入れることが増え始め、様々な所で美容針灸の治療を受けられることが多くなっているが、場所により治療効果は大きく異なっている。美容針灸の治療院を選定することは難しく、色々注意点が喚起されているが、普通の人にとってやはり中々判断し難い。そのため、自身で経穴を用いた美顔方法がお勧めできる。

実際、余程の生理欠陥や病理変化を除き、普通の疲労や老衰による機能低下に対応するためには、刺針の代わりに手指を用いて経穴に適度な刺激を与えることで美顔の効果も充分に得られ、しかも安全かつ簡便である。基本的に美容針灸は針具でなく、経穴への刺激によって美容効果を果たしたのであり、経絡の調節作用は美容針灸の基礎となる。点・按・摩・揉・擦・推・捏・拿など推拿(按摩)手法を用いて相応しく経穴に刺激を与えることにより、臓腑経絡の機能を強化して陰陽気血の平衝を調節し、顔面皮膚が濡養されて潤沢で弾性に富むことができる。これはいわゆる美容推拿の作用機序である。

美容針灸でも美容推拿でも、経絡腧穴が最も重要な決め手である。先ずは体質と体調に従って適切な経絡腧穴を選択して治療処方を決める。次に正確かつ精密に腧穴の定位を取る。最後に経絡腧穴において適宜な手法を行って適度な刺激を与える。

ここでは、美顔に常用される経穴の所属経脈と応用要点を紹介する。具体的な定位と取法は《経穴の定位と技法》、詳細な効能と主治は《経穴の性能と主治》を参照することができる。

① 眼周腧穴

攅竹(足太陽経):眼精疲労、眼周浮腫、眉間の皺を緩和する。

睛明(足太陽経):眉間の皺、眼周浮腫、眼精疲労、眼裂縮小に用いられる。

絲竹空(手少陽経):眼周の浮腫みや弛み、眼瞼痙攣に用いられる。

太陽(経外奇穴):眼精疲労と眼周浮腫を解消する。

承泣(足陽明経):眼下クマ(弛み)を引き締め、眼周浮腫を解消する。

四白(足陽明経):眼下のクマや弛みに用いられる。

② 鼻旁腧穴

迎香(手陽明経):眼周浮腫を解消し、眼周肌膚の弛みを予防するほか、吹き出物、乾燥肌、ほうれい線などに用いられる。

③ 口周腧穴

巨髎(足陽明経):口周の皺、弛み、ほうれい線、表情筋の強硬に用いられる。

地倉(足陽明経):口周の皺、弛み、ほうれい線に用いられる。

承漿(任脈):顔面の浮腫みと弛みを消除する。口の歪み、皺、弛み、面皰、吹き出物に用いられる。

④ 面頬腧穴

下関(足陽明経):顔面の弛み、筋肉による腮張り、顔面の歪みに用いられる。

頬車(足陽明経):面頬浮腫を解消する。顔面の弛みを引上げ、筋肉による腮張りに用いられる。

大迎(足陽明経):顔面輪郭の弛み、浮腫み、歪み、口周の皺に用いられる。

⑤ 頭蓋腧穴

百会(督脈):自律神経の調節により精神を安定させ、飲食過剰や便秘を予防する。

神庭(督脈):顔面全体の浮腫み、弛みに用いられる。

翳風(手少陽経):顔面全体のリンパ循環を改善する。

美容針灸と美容推拿は中医学の整体観念(全体性)と辨証論治(個体性)の考え方に従い、全身調整の特徴を持っている。美顔を目的とした局所治療の経穴のほか、具体的な体質と病状に応じて全体治療も組み合わせると、治療効果が一層高められる。

通常、美顔治療の適応症状として面色不良(萎黄や晄白)、肥満や浮腫、シワ・シミ・弛み、褐色斑などが多く見られ、主に脾気虚弱・気血虚弱と肝気鬱結・気滞血瘀という二方面の病理機序から考えられる。これに対して健脾益気養血と疏肝理気行血の治療方針を立て、治療方法としてそれぞれ陽明経・太陰経の腧穴を主とするか、少陽経・厥陰経の腧穴を主とする。選穴処方の際に整体調節の原則が最も重要であり、全身と局所の腧穴を組み合わせなければならない。全身取穴は臓腑平衡の調節に着眼し、各系統の機能を調節することにより局所のための基礎を築く。一方、局所取穴は経絡疏通で循環を改善し、表皮細胞の新陳代謝を促進して斑点瑕疵を消去するに伴い、肌肉の弾力性を増強する。

なお、美顔推拿の施術には一定の順序がある。一般的には病症の部位に従うか、経脈の循行に従って施術順序を決める。