健康知識:秋分後の経穴を用いた心肺養護

立秋から秋季に入ったが、初秋は残暑で夏のように暑くて殆ど涼しく過ごせない。秋分は秋の季節を均等に分ける時節であり、秋分を過ぎると秋が急に深まり一気に寒気襲来し、身体が付いていけないことが多い。

秋が深まることにより、人体は上焦の肺と心の二臓が特に弱くなり易いため、大事に養護しなければならない。

1、三経穴を以て肺気養護

五行学説によると、秋の気は燥を特徴とし、人体の肺に繋がる。中医学的には、肺は呼吸を司って全身の気を主り、皮毛腠理(体表)を調節するとされており、「嬌臓」と呼ばれてデリケートなため、風・寒・暑・湿・燥・火熱など多く外邪に侵襲される。秋季では特に自然界の燥気によって病を起こされ易い。下記の三経穴を用いて肺気を強める。

① 迎香穴の按揉

鼻は肺の竅で、肺の門戸である。秋季になると鼻粘膜が敏感になり、風邪燥邪の侵襲で嚏・鼻水などの症状が現れ易い。迎香穴の按揉で鼻竅を通暢させて呼吸系の病邪抵抗能力を高める。

[方法]両手の拇指球部に少しクリームを付け、鼻翼両側の迎香穴から上迎香穴にかけて36回ほど擦る。少し早く行うが圧力を強くしない。1分間ほどで局所が温かく感じる。

鼻閉・鼻痒・嚏などの状況も緩和させるが、また毎日3~5分間を行うことで、感冒予防・鼻炎緩解のほか、脾胃の気を上方へ引き上げる効果も果たす。

② 大椎穴の揉擦

大椎穴は人体において陽の部位に位置し、また諸陽経が集まる場所であるため、陽中の陽とされている。大椎穴の揉擦で全身の陽気を振奮させて生体の防御機能を高める。

[方法]両側の手掌を擦り合わせ、熱くなったら項部の付け根にある大椎穴に当て暖まる。その後は左右の方向へ36回ほど擦る。

ほかに、温灸法を行うことも大変効果的である。

③ 中府穴の点按

中府穴は手太陰肺経の募穴で、主に肺気に繋がって肺臓を調節する。従来肺臓が弱いか、肺臓に持病を持っている方は、中府穴の点按で肺気を調節して防御力と抵抗力を高める。

[方法]一側の手を腰に当て、反対側の示指中指薬指の指腹を用いて鎖骨下縁に沿って外側へ擦り、肩関節の内側に止まる処(鎖骨下窩)から更に下方へ約拇指1本の幅に下がって中府穴に当たり、時計回りと反時計回りの方向へ36回ずつゆっくりと按えながら揉む。

2、三経穴を以て心神養護

秋分を過ぎると、陽気が明らかに収まる。秋風が吹いて花木が枯れてしまい、特に黄昏の夕日を見ると、何となく胸が塞ぎ込んで憂鬱な悲しむ気分が出るのは、どうしても避けられない。秋季の抑鬱を解消させ、神気を納めて神志を安定させることはとりわけ重要である。下記の三穴を用いて心気を整える。

① 膻中穴の按揉

膻中穴は胸部の中央に位置して気の会穴とされ、上焦心肺の気を調節して解鬱効果を果たす。

[方法]拇指指腹または拇指球部を用いて両側の乳頭連接線中点(前正中線上で第4肋間と同じ高さ)にある膻中穴に当て、やや痛怠く感じる程度で力を強く入れ、時計回りと反時計回りの方向へ36回ずつ按えながら揉む。

また按揉後に適量の胸を広げる運動を行うと、寛胸理気の効果を高める。

② 極泉穴の弾撥

極泉穴は手少陰心経の体表起始穴であり、心気を調節して神志を安定させ、憂鬱気分を解消できる。

[方法]一側の中指または拇指の指先を用いて反対側の腋窩頂点にある極泉穴に当て、大きな筋を前方へ弾くと感電感が上腕と手掌の尺側まで響く。

③ 神門穴の点按

神門穴は手少陰心経の原穴であり、心気保養の効果が強い。心気の充足で心神が安定でき、精神状態も落ち着く。

[方法]一側の拇指指尖を用いて反対側の手関節手掌面尺側の豆状骨突起にある神門穴に当て、爪先で豆状骨の橈側際に抓って左右36回ずつ按える。

 

健康知識:百会穴 毎日触ることで健康長寿

百会穴は「陽脈の海」と言われる督脈に属し、頭頂部の中央に位置して人体の最高点となり、天の気に通じる処とされている。天は陽に属しているため、百会穴は人体において陽気が最も盛んになる部位と言える。

また百会穴で交会する督脈と足太陽膀胱経は共に直接脳に通じている。脳は「髄の海」となり、人体の神志機能の根本的な所在であるため、百会穴は神志に最も深く関連すると考えられる。

百会穴の意味

百会穴の名称は手足三陽経脈及び督脈の陽気が交会する意味である。「頭は諸陽の会なり」と言われるように、全ての陽経が頭部に集まっており、百会穴は頭部の中心となり、百脈がここで交会するため、名付けられたのである。

百脈が交会することは、この一点を刺激すると百脈まで影響を及ぼす意味である。従って長期に百会穴を按摩することで、人体の半分以上の経絡及び大部分の経穴を引導し推進することができる。身体虚弱や老年の者に対して陰陽保養の作用をもたらし、《針灸資生経》に「百病皆主」と記載されている通り、百会穴は治療範囲が非常に広い。

百会穴の定位

百会穴は人体の頭頂部にあり、前髪際正中の直上5寸に定位される。具体的に応用する際、前髪際正中と後髪際正中の中点から前方へ1寸の処に取る。便宜の取り方として、左右の耳介を後方から前方へ折り曲げる時に、両側の耳尖を直上に結ぶ線と正中線との交点に取るか、自己取穴では両手の拇指指先で外耳道開口を押さえ、両手の中指指先が合わせている処に取ることができる。

いずれの方法でも、正中線上の前後に按えて詳しく探り当てると、明らかな陥凹部が確認でき、これが精確な位置である。古人は「百会可納豆」(百会穴には豆を納められる)と描いたように、身体が直立する際に、頭頂部の百会穴に一粒の豆を置くと、歩いても落ちないため、この凹みは小さくなく、探し易いはずである。

百会穴の効能主治

針灸臨床では、百会穴は主に頭部・顔面部疾患及び五官疾患、神志疾患の重要経穴として常用されているほか、また気虚下陥の病証にも多く応用されている。

中医針灸学では、百会穴は疏風散邪・清頭明目・安神鎮静・平肝熄風・醒神開竅・昇陽固脱などの効能を持ち、主に頭痛、頭重、頭脹、頭暈、目眩;不眠、健忘、驚悸(驚恐動悸);中風失語、失神卒倒、癲狂癇証、臓躁(躁鬱)、瘈瘲(痙攣)、後弓反張、小児驚風;脱肛、痔瘡、慢性泄瀉、遺尿、陰挺(子宮脱)、気喘、虚損;耳鳴、耳聾、鼻閉、鼻衄などの治療に応用する。

また現代医学では、高血圧、低血圧、ショック、脳循環不全症;鼻炎、副鼻腔炎、内耳性眩暈(メニエール病)、神経性頭痛、不眠症、鬱病、統合失調症、老人性認知症、脳血管障害による意識障害、片麻痺、言語障害;胃下垂、脱肛、子宮下垂などの内臓下垂;舞踏病、夜尿症、小児高熱痙攣、小児夜泣きなどに適応する。

百会穴の日常応用

日常生活では、百会穴は病症改善・健康増進に広く活用でき、大きな役割を果たしている。

血圧調節

百会穴は血圧に対して二方向の良性調節作用を持っている。ある程度まで、高血圧の者に血圧降下の作用を、低血圧の者に血圧上昇の作用を果たす。また健康動作「金鶏独立」では、低血圧や貧血の者は動作を行う際に意識を百会穴に集中すると効果がより高い。

鎮静安眠・頭痛緩和

百会穴は精神安定の効能を持っている。緊張過度、精神疲労、ストレスなどによる不眠や頭痛で困っている者は百会穴を用いた治療で即時に良好な効果が得られる。

精神振奮・健脳養神

百会穴は脳神に繋がり、脳機能の調節作用を以て、心力不足、煩悶驚恐、健忘、不眠惰眠、慢性頭痛、意欲低下、孤独内向など様々な精神状態の低下症状を調整する。また学生は毎日百会穴を軽く叩くことにより、脳疲労の解消に伴い、健脳作用を得る。

陽気補充

陽気は温煦作用を以て全身を暖めており、陽気不足の者は普段寒がりで、年中手足が冷え、時々下痢が発作する。百会穴は全身の陽経と督脈の経気を振奮させ、これによって陽虚体質を改善させる。

昇陽挙陥

脾気は陽気昇挙の作用を以て気血栄養を身体上部に持ち上げるに伴い、全身の臓器を一定の位置に固定する役割も担っている。中気虚弱(脾気虚)の者は上昇不足で気陥が発生し、泄瀉が長期に渡って治らず、更に胃下垂や子宮下垂など内臓下垂が見られる。百会穴は陽気を上昇させる効能を持ち、これらの症状を改善させる。

百会穴の施術操作

通常、百会穴を用いた健康増進の場合は経穴の按揉法を行う。片手の中指または示指を用いて百会穴に当て、徐々に力を強くして30~50回按え、その後それぞれ時計回りと反時計回りの方向に30~50回揉む。体調が弱い方や内臓下垂に患う方は最初軽くして次第に強く変わり、回数も少しずつ増やすことができる。

また精神振奮や頭痛緩和の場合は、百会穴において叩打法を行うことができる。空心掌を用いて百会穴を10回ほど軽く叩くことで、精神をゆったりさせてストレスを解消し、頭痛が緩和できる。

陽気虚弱や中気下陥の場合は、百会穴において温灸法を行うと更に高い効果が期待できる。艾灸箱を頭頂部に固定して一回で15分間、一週間に2~3回の温灸を行う。忙しくて艾灸できない場合は、片手で百会穴を100回ほど軽く叩くことだけでも陽気を保養に役立つ。

百会穴の応用注意

百会穴による健康増進は青年、中年、老年に適し、年齢が高ければ適応するが、児童の場合は慎重に応用しなければならない。特に嬰児幼児の場合は頭蓋骨が柔らかく、泉門が閉鎖していないため、百会穴の応用はとりわけ小心が必要である。

また、推拿手法において軽刺激は補で通と、強刺激は瀉で滞だとされている。百会穴の按揉を行う際に、強い力で按圧してはいけない。猛烈な力をかけると、経脈に損傷を与えて気血の運行失調を起こす恐れがあり、頭痛や頭暈など不快感が現れ易く、更に「一竅乱而百竅乱」(一穴の乱れにより百竅の乱れを致す)の結果になり、五官五感の失調が発生してしまう。百会穴には陽気を上昇させて下陥気血を挙上させる効能があるが、強刺激を与えると、虚弱の陽気が上昇し過ぎるか、肝陽が上亢し易い。特に本来血圧の高い方には、強い力で按圧することで、気血が急激に変動して頭暈目眩などを起こし易く、更に高血圧症の症状発作を来たす。

最後に、経穴推拿は治療の補助手段として応用できるが、降圧薬の代わりにはならない。

健康知識:万能の天然消炎抗生剤 魚腥草

魚腥草と言えば、普段余り聞き慣れないかも知れないが、和名ドクダミの名称なら、民間薬として顕著薬効がよく聞き覚えがあると思う。初夏から卵状ハート形の葉が青々と左右対称に生え、頂端の中央には円柱状の花穂が真っ直ぐに立って淡黄緑色の花が密生し、花穂の基部に花弁に見える4枚の白い総苞片が十字状に開いている。一面に生い茂って何となく美しく見せている。

中国ではドクダミの植物名を蕺菜(ジュウサイ)と言い、魚腥草はその生薬名である。日本ではドクダミの生薬名をジュウヤク(十薬・重薬)と言う。魚腥草は多年生の草本植物で、全草(特に葉・茎)にアルデヒド由来の独特な臭気があることから、魚腥草(腥とは生臭い意味)と呼ばれている。湿り気のある半日陰地を好み、住宅周辺の庭園や空地、道端、林の木々の下などによく群生し、繁殖力が強くて千切れた地下茎からでも伸びて蔓延るため、隅々にまでドクダミだらけになってほかの雑草が生えなくなる。

薬用には地上部の全草を乾燥させたものを用いる。夏季の茎と葉が茂って花が満開する開花期(5~8月)から果実期にかけて採取し、残根を取り除き、不純物を洗浄し、段切りにしてから陰乾しするか、天日干しする。日本では、昔からゲンノショウコ「現(験)の証拠」とセンブリ「千度振り出し」と並べて三大民間薬の一つとして数えられ、広く応用されている。内服薬として、胃腸病、食あたり、下痢、便秘、利尿などに応用され、外用薬としても腫れ物、吹き出物、皮膚病などの排膿や毒下しに用いられる。

薬用効果

中医学的には、魚腥草は味辛、性寒涼(微寒)であり、肺・肝・腎・膀胱経に帰経する。下記の効能を持って実熱・熱毒・湿熱による諸病証に適応する。

① 清熱解毒:痰熱壅盛の肺癕(肺膿瘍)・肺癌による咳嗽、腐臭膿血痰、胸痛、癌性胸水、肺炎・肺熱による気喘咳嗽、マラリア;

② 消腫療瘡:湿熱による水腫、帯下、瘡瘍腫毒、禿瘡、疥癬;

③ 利尿通淋:湿熱淋証による排尿痛、排尿困難、尿混濁;

④ 瀉熱止痢:赤痢、痔瘡便血、湿熱泄瀉、脾胃積熱;

⑤ 美肌護膚:面皰、汗疹、湿疹、水虫、皮膚炎。

現代医学の薬理実験によると、魚腥草は明らかな抗菌・抗ウイルス、生体免疫力増加、利尿などの作用がある。臨床では、上気道感染症、インフルエンザ、肺炎、扁桃腺炎、咽頭炎、流行性耳下腺炎、鼻炎、蓄膿症、結膜炎、急性黄疸性肝炎、急性細菌性赤痢、腎炎、膀胱炎、子宮頸部糜爛など様々な炎症の全般に効果的である。

また魚腥草は優れた抗酸化作用があり、皮膚の美白促進と老化遅延に役立ち、同時に皮膚の炎症状態を軽減して発赤発疹の症状を改善させる。

 食用方法

中国西南部の四川省や雲南省や貴州省では「蕺根(折耳根)」と呼ばれ、清熱祛火の作用を以って食事の重要な薬味や具材とされ、主に根や茎を使って米粉や糯米飯などの主食に混ぜたり、臘肉(塩漬けし燻製して干した肉)と炒めたり、唐辛子・辛味噌などで辛い味付けの和え物にしたりして食べるが、四川省ではまた葉を野菜として食用している。ベトナムやラオスでも葉を重要な食材として用いている。日本では料理用の食材として使われないが、葉を山菜として天麩羅などにすることがあり、乾燥した葉をハーブティーとしてドクダミ茶を製造し、麦茶や桑茶のように飲まれることが多い。

新鮮な魚腥草は消炎作用と抗菌抗ウイルス効果が最も高く、ある一部の抗生物質よりも優れている。魚腥草の葉は加熱することで臭気が和らいで薄い野菜味が出るから、通常お湯を通して煮汁を飲む。新鮮な魚腥草500gをお水(飲める量の2倍ほど)に入れて沸いたら少し氷砂糖を加え、長く加熱せず5~10分間煮込んで飲用する。これは1歳~80歳各年齢層に適応して様々な炎症・感染症の治療に用いられる。

また高血圧症や動脈硬化症の予防には必ず花つきの魚腥草を選んで採取するが、天日干しすることにより臭気は無くなる。乾燥した全草5~20gをお水500~600mlで半量になるまで弱火で煎じ、茶代わりに3回に分けて服用する。

注意事項

魚腥草は寒涼の性質を持っているため、虚寒病証や虚弱体質の方は服用しない。

健康知識:車前草による痛風の予防治療

痛風は一種の代謝疾患である。プリン体の代謝障害により血中の尿酸が増加し、高尿酸血症になり、尿酸とナトリウムが尿酸塩結晶を作り、軟部組織に析出すると様々な損傷を来たす。

臨床では、痛風関節炎が最も多く発生する。突然の激痛・発赤・腫脹が痛風発作の第一症状となり、主に拇趾の中足趾節関節に見られるが、それ以外に足背・足関節や膝関節や手関節にも現れ、甚だしい場合は歩行障害や関節変形を起こす。因みに一つの関節で痛風発作が起こるが、色んな関節が一斉に発症することは無い。また尿酸塩結晶が関節以外の部位に析出することもあり、皮下組織や腱などに沈着すると痛風結節、尿路に凝固すると尿路結石、腎臓に蓄積すると痛風腎(腎臓障害を起こして腎機能を低下させ、腎不全に繋がる)なども認められ、更に命に危害を及ぶ恐れもある。痛風は多く糖尿病、高血圧、冠状動脈心疾患などに伴って発生する。中老年に多発するが、近年では青年にも増加している。

ここでは、痛風の予防と治療に明らかな効果を持ち、且つ簡単に入手し易い車前草と言う薬草を紹介する。

車前草は通称オオバコであり、山野、路肩、川岸などに自生し、その全草が薬用されている。中医薬的に、味は甘淡で、性は寒であり、肝・腎・肺・小腸経に帰経し、清熱利水・祛湿止瀉・清肝明目・涼血解毒・化痰止咳などの効能を持ち、湿熱内蘊による浮腫、尿少、排尿痛、排尿困難、尿濁;暑温挟湿による嘔吐、泄瀉、尿少;肝熱による目赤腫痛、肝腎不足による視力減退、飛蚊症、角膜混濁、迎風流涙;血熱による鼻血、尿血、癰腫瘡毒、熱痢;肺熱による咳嗽、痰多などに幅広く適用する。

従来車前草は主に利尿排石の常用薬草として小便不利、浮腫少尿、多尿頻尿、腎臓尿路結石などに多く応用されている。痛風の直接的な治療薬ではないが、その清熱利尿の作用によって血中尿酸の含量を降下させ、尿酸結晶の生成を減少させて痛風の予防や改善の作用を果たす。

通常、食用では主に車前草の柔らかい新芽を用いる。お湯を通してから和え物の前菜、炒め物、或いはスープなどを作ることができるが、また洗浄した車前草をお湯で浸して茶代わりに飲用することもできる。一度乾燥させてからお水で煎じて服用すると更に薬用効果を高める。

三、四月の車前草は質が新鮮で柔らかく、口当たりが良いため、最も食用に相応しい。五月から種を実のらせるが、これが車前子と言う漢方薬である。車前草も車前子も性味・帰経・効能はほぼ同じく、共に清熱利尿の薬用効果を以って痛風の改善に役立つので、近くでみかけたら少し採って置き、実際に試して欲しい。譬え尿酸値が高くなくても、その利尿作用により尿液の排泄を促進することで排毒にも役立つ。

応用注意として、車前草は寒性のため、湿熱の無い者や妊婦は服用しない。

健康知識:夜更かしによる肝臓損傷への経穴・薬茶対策

夜更かしで最も損傷され易いのは肝臓である。

中医学的には、肝が気血の巡りに関わり、蔵血作用を持って血液循環量を調節している。生体の血液利用は、昼間より夜間少ないため、余った血液を夜肝臓に貯蔵しなければならない。しかし夜更かしすると、血液が肝臓に入らず無駄に消耗されてしまう。また現代医学的に、肝臓は体内で唯一の解毒器官であり、普段食用した食物の毒素部分は全て肝臓で分解解毒を経て体外に排出される。夜間に休まないことで、肝臓に大きく負担を増やしてしまう。

やむを得ず夜更かしした場合、積極的に工夫して肝臓への損傷を最小限に抑えなければならない。また普段から肝臓を強くするように努めることで、偶にする夜更かしに応えるようになる。

下記の経穴や薬茶などの対策を紹介し、日頃の健康増進に役立って欲しい。

1、経穴按揉

① 三陰交

三陰交は足太陰脾経の経穴であるが、肝・脾・腎の三経脈が通過する処なので、補脾養肝益腎・滋陰調和営血の効能を持ち、慢性肝炎や肝機能障害などの肝疾患に用いられる。

取穴:下腿の内側、内果尖の上方3寸で、脛骨内側縁の後方骨際に取る。

操作:胡坐の坐位を取り、一側の拇指指腹を用いて反対側の三陰交を54回ずつ按揉する。その後、10分間温灸を据えると更に効果的である。

② 太衝

太衝は足厥陰肝経の原穴であり、肝を補う効果が強い。疏肝行気・調理気血・鎮静安神の効能を持ち、肝気鬱結による逆上せなどに不可欠の経穴である。

取穴:足背、第1第2中足骨の間に沿って擦上して動脈拍動の陥凹部に取る。

操作:胡坐の坐位を取り、一側の拇指指腹を用いて反対側の太衝を近心方向(足趾から足関節へ)に36回擦るか、54回按揉する。

③ 太溪

太溪は足少陰腎経の原穴であり、滋腎陰・清虚熱・調経血などの効能を持つ。腎に蔵する精と肝に蔵する血は相互に転化しているため、精血同源や肝腎同源と言われるように、腎の陰精を滋養することにより、夜更かしで消耗された肝の陰血を保養することができる。

取穴:足部の内側、内果尖とアキレス腱の間にある陥凹部に取る。

操作:胡坐の坐位を取り、一側の拇指指腹を用いて反対側の太溪を54回ずつ按揉する。

2、薬茶飲用

適量の飲水は新陳代謝を促進して体内の代謝廃棄物や毒素の排出に役立ち、肝臓の保護に繋がるが、これだけでは肝臓の保養にはならない。下記の食物をお湯に浸して薬茶のように普段飲むことで、肝臓の機能を強化して夜更かしによる損傷から守る。

① 紅棗茶

紅棗は補気養血・疏肝解鬱の効能を持っている。果肉豊富な棗を千切ってお湯で浸して茶代わりに飲用すると、肝臓養護と解毒排毒の効果を果たす。夜寝る前にお勧めする。

② 檸檬茶

檸檬は従来養肝排毒・養顔美白の最高の果物だと言われている。檸檬酸は肝臓に胆汁の生成を促進させ、生体の毒素排除のためになり、肝臓の負担を緩和させる。朝起きてからお勧めする。

③ 菊花茶

菊花は味がやや苦く、風熱疏散・肝陽抑制・清肝明目・清熱解毒などの効能を持っている。菊花茶は代表的な肝臓養護の薬茶である。また含有する少量のセレン元素は肝臓修復のための不可欠な栄養物質である。

④ 金銀花茶

金銀花は味が苦く、清肝降火・清熱解毒・通経活絡・抗菌抗ウイルスの作用を持っている。また酒毒解消・美容減肥の効果があり、口臭や便秘の食事療法に用いられる。

⑤ 枚瑰花茶

枚瑰花は香りが濃厚で、お湯に浸すと味がやや苦いが、美味しい。養肝安神の効能を持ち、ストレス過剰や心神不安による郁鬱や肝火上炎による逆上せに対して相応しい調節する効果がある。

 

健康知識:就寝前の補腎排毒のための二動作

寝る前にパソコンやスマホンなどから手を離さない方は少なくないが、実際就寝前の30分間は健康養生に最も重要な黄金時間である。毎日この時間を大切に利用し、腎気を補充して毒素を排出する下記の二つの小さな動作を行うことで、健康増進・養生長寿のため大いに役立つ。

生体の最大の排毒通路と言えば膀胱経である。膀胱経が通暢であれば、外邪も侵入せず、内毒も排出され、当然身体は百病から離れていく。但し、この膀胱経はただの通路で、それ自身は運行する動力を持たず、主に腎気の支持に頼って初めて邪気防御・毒素排出の役割を果たすのである。そこで、膀胱経を疏通させるために、補腎が前提として必要である。

下記の二動作は補腎と排毒のためである。

① 腎気保養

就寝前に仰向けにし、両手の外労宮(手背)をそれぞれ腰部の両側に密接させ、5~10分間後、熱感が徐々に全身まで伝わっていく。これにより、運行気化で腎臓にある虚寒の気を汗に変えて体外へ追い出すことができる。始めは両手が腰に押さえられて痺れや張った不快感が現れることもあるが、3~5日続けて慣れていたら解消され、両脚も軽く感じる。また飲酒過度の方は按えると額部に汗が出たり、更に腰にも汗が出るが、いずれも腎気が少しずつ充足する良好現象である。

② 膀胱経排毒

上記の動作を完成させて腎気が補充された後、膀胱経絡を通させて毒を排出する動作に入る。仰臥位から上半身を起こして座り、両脚を合わせて真っ直ぐに伸ばし、足先を手前に最大限に戻し、両手でできるだけ足趾を掴み、上半身を少しずつ下へ落ちて背中を伸ばす。これは膀胱経を助けて排毒する方法であり、できれば15~30分間続け、太股の後部筋肉が引っ張られる感じがあると良い。

二つの動作は簡単で効果的で、補腎であり排毒により健康増進効果が得られる。

 

健康知識:春季における養肝昇陽の五種粥

陽春の三か月から人体の陽気が昇発になり、養肝補陽気に工夫する時節である。春には肝気が旺盛になり、脾胃の消化吸収機能に影響を及ぼし易いため、飲食上であっさりした物を主とすべきである。

ここでは春季の養生献立として養肝昇陽の作用を果たすお粥を紹介する。

1、セロリ粥

[作り方]セロリ120g、粳米150g。先ずセロリをお水で煮込んで、汁を取って粳米と一緒にお粥を作り、温かく食用する。

[効用]春季には肝陽が動き易く、肝火が逆上せ易いため、頭痛や目眩などの症状が多く見られる。また罹病期間や中老年には血圧を降下させ、イラつきを軽減させるためにもなる。

2、菊花粥

[作り方]菊花50g、粳米100g、氷砂糖適量。先ず菊花を煎じ、粳米を加えてお粥を作り、出来上がる前に氷砂糖を入れて溶かす。

[効用]春季に多く食することで、風熱頭痛や頭暈耳鳴などを緩解することができ、更に長期間の食用で手足が軽く、耳目が聡明で、生体の老衰を延ばせる。

3、山芋粥

[作り方]新鮮な山芋100~200g、粳米100g。山芋を綺麗に洗ってスライスにし、粳米と一緒に煮込んで粥を作る。

[効用]山芋は性味平和で脾・肺・腎を滋補する食物である。現代の薬理学研究によると、山芋にはアミラーゼ、糖タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミンCなどを含み、滋養効果を持っている。春季で山芋粥を多く食用することで、補益効果が強く、冬季における消耗を補給できる。

4、人参粥

[作り方]人参1~2本(好みにより)、粳米100g、葱と生姜少々、香菜と胡麻油適量。人参を細切りにし、お湯に透してからサラダ油で葱と生姜の微塵切りと炒めて置く。粳米を水で粥に煮込み、出来上がりそうな時に炒めた人参を加えて少し煮込む。香菜と胡麻油で調味して食用する。

[効用]人参にはビタミAが豊富で、食欲不振や消化不良、皮膚乾燥、夜盲症、高血圧などの者に適応する。

5、枚瑰花粥

[作り方]枚瑰花の蕾(脱水処理済み)適量、粳米。粳米を水でお粥を作り、出来上がる際に、枚瑰花の蕾を加え、お粥が徐々にピンク色になってから食用する。

[効用]枚瑰花粥の食用で皮膚の肌理が細かくされて美顔効果があるほか、肝気鬱結による胃痛を緩解させ、また精神不安に対して安神鎮静・抗憂欝の効果がある。

健康知識(特別公開):ウイルス抵抗に最も重要な食物 蛋白質

新型コロナウイルスの感染が蔓延してから、皆、どうすればウイルス感染に抵抗できるかと考えている。実際、その答えは非常に簡単で、病邪侵襲に抵抗する決め手は生体の免疫力である。この免疫力はいわゆる中医学における正気に当たり、生体の正気が充足であれば、病邪から侵襲されない。まさに《黄帝内経》に「正気存内,邪不可干」と記載されている通りである。

人体はウイルスに感染された後、自身の免疫力によってウイルスに打ち勝つことができるが、通常では免疫反応の過程は二週間くらい続く、つまり感染後は二週間くらいを経ってから始めて回復に向かう。現在では新型コロナウイルスに対して最も重要な「特効薬」はやはり免疫力しかない。罹病してからの二週間は多臓器の機能不全に遭遇する恐れがあり、この最も過ごし難い二週間を乗り越えられるかどうかは免疫力次第である。

現代医学では、体内に入った細菌やウイルスなどの病原体に対して抵抗し攻撃することにより身体を守る力を免疫力と言う。この能力は生体が本来備えている自己防御機能であり、血液中の白血球がそれを担っている。実際、病原体と戦う白血球は様々な役割を分担する細胞の集合体であり、具体的に小食細胞と呼ばれる顆粒球、大食細胞と呼ばれるマクロファージ、特定の抗体を作って病原体を抵抗するB細胞、病原体に冒された感染細胞を攻撃してその繁殖を抑えるT細胞、そして主に癌細胞を見付け出して攻撃するNK細胞など、五つの免疫細胞が常に働いている。

これらの免疫細胞の産生、そしてB細胞による抗体の産生には蛋白質が不可欠である。充足な蛋白質、特に上質な蛋白質の摂取を確保することこそ、自己免疫力を高める鍵である。実際、中国において新型コロナウイルス感染症対策の臨床現場でも実証されており、重症が軽症へ転化するため最も重要な素因は栄養素と蛋白質の確保である。栄養程度が比較的良い患者は重症化が多く認められず、逆に栄養程度が悪い患者は症状の増悪が現れ易いことから、医療チームの治療方針も毎日の食事に卵を増やして患者の蛋白質とアルブミンの水準を高める調整を行っている。病状の進行を抑えるには極めて重要である。譬え万が一、新型コロナウイルスに感染したとしても、充足な体力と免疫力を体の資本として保有すれば、病邪との闘いで困難な状態を乗り越えられる。

蛋白質は人体組織を構成する重要な部分として生命の物質基礎であり、同時に生命の現象は根本的に全て蛋白質の機能の現れである。では、どんな食物が上質な蛋白質の食物に属するのか?ここでは中国栄養学会が推奨する日常の上質な蛋白質の食物ランキング十位までを下記通りに並べる。

① 卵

卵に含まれる栄養素は豊かで、ビタミンCと繊維素を除いた全ての栄養素が揃っているため、完全栄養食物だと言われるほど栄養価値の高い食物とされている。卵の蛋白質含量は13%ぐらいであり、アミノ酸の組成も人体の需要と非常に近いため、通常アミノ酸を評価する参考蛋白質とされている。卵の蛋白質は僅かに母乳に次いで人体の中で利用率が高いことから、食物の中で最も上質な蛋白質とされている。

成人の場合は一日に1~3個の卵(白身と黄身を共に食べる)をお勧めする。因みに消化吸収率から見ると、ゆで卵が良い食べ方である。

② 牛乳

牛乳は液体食物として水分の含量が高いため、蛋白質の含量は僅か3%しかない。しかし牛乳は便宜に飲用できて容易に数百グラムの摂取量に達するほか、同時必須アミノ酸の比例も人体の需要に一致し、上質な蛋白質に属すると言える。

一日に300g或いは300gに相当する乳製品の摂取をお勧めする。乳糖不耐症の方は代わりにヨーグルトを飲むことができる。

③ 魚

魚類は蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルを豊かに含む。蛋白質の含量は約15%~22%であり、人体の必要な各種アミノ酸を含有し、特にロイシンとリジンが豊富であり、上質な蛋白質に属する。

④ 蝦

蝦の栄養価値は非常に高く、蛋白質、ビタミンA・B1・B2とナイアシン(Vit. B5)、カルシュウム、磷、鉄などの成分を含む。蛋白質の含量は約16%~23%である。

成人の一日の水産物(魚・蝦・貝類を含む)摂取量は40~75gをお勧めする。

⑤ 鶏肉

鶏肉の蛋白質含量は20%くらいであり、沢山の筋肉トレーニング者が愛用する蛋白質の源である。鶏肉には人体に消化され易い多種のアミノ酸を含有する。

⑥ 家鴨肉

家鴨肉の栄養価値は鶏肉に似ている。蛋白質の含量は約16%であり、主にミオシノーゲンとミオシンで、他の一部分は細胞間質蛋白である。そのうち、水溶性のコラーゲンとエラスチン、少量のゼラチンを含み、残りは非蛋白質窒素である。

⑦ 牛肉の赤身

牛肉の赤身には蛋白質が20%以上含まれ、アミノ酸の組成も人体の需要に近く比例も均等で人体の吸収利用率が高い。

⑧ 羊肉の赤身

羊肉の赤身の蛋白質の含量は20%くらいである。羊肉に含有する必須アミノ酸と総アミノ酸との比率は40%以上に達し上質な蛋白質の食物に属し、人体の吸収利用率が高い。またリジン、アルギニン、ヒスチジン、スレオニンの含量は他の肉類に比べて高い。

⑨ 豚肉の赤身

豚肉の赤身には約20%の蛋白質が含まれ、必須アミノ酸の組成も人体の需要に近い。

一日の肉類(鶏・家鴨などの鳥類及び牛・羊・豚などの畜類)摂取量は40~75gをお勧めする。

⑩ 大豆

大豆には黄豆、黒豆、そして青豆が含まれる。唯一の植物性の蛋白質の源として、大豆には上質な蛋白質、不飽和脂肪酸、カルシュウム、カリウム、及びビタミンEが豊に含有する。大豆の蛋白質含量は約30%~40%であり、必須アミノ酸の構成比も動物蛋白に類似し、且つ穀物類蛋白に欠けているリジンも豊富であるため、穀物類蛋白質と相互補完的な天然の理想的食品とされている。

一日の大豆とナッツ類の合計摂取量は25~35gをお勧めする。

食事のほか、笑うことで免疫力が上がる事が証明されているため、日頃はウイルス感染からの緊張や恐怖などの気分を持たず、常に精神を緩めて明るく愉快な状態に調整する事も重要である。更に針灸推拿などの方法を用いて大椎・足三里・膈兪・肝兪・脾兪などの経穴を刺激する事も免疫力を上昇させるため確実な一手段である。

健康知識:健康増進のための自己推拿法

新型コロナウイルス感染が拡大し、緊急事態宣言の再度発令及び期間延長により不要不急の外出を自粛しているほか、天候も例年より寒さが厳しいため、在宅時間が更に長くなり、日常生活の中で運動不足などの懸念が出てくる。この情勢では、外出も気が気でないため家の中での運動が好ましい。そこで、五禽戯、六字訣、八段錦など余り空間を必要としない中医気功法は大いに役立つ方法とされている。しかし、これまで習得しておらず、今から始めようとすると少し難しいと考える方も多いと思う。そこで、代わりに自分で行う簡単便宜な養生推拿法をお勧めする。

ここでは、個人的に日頃行っている自己推拿法を紹介する。これを参考にして毎日15分~30分ほど続けることで、健康増進の効果が期待できる。

1、梳頭洗臉(頭髪をとかし、顔面を擦る)

坐位または仰臥位を取る。

[操作方法]

両手の十本指指先を用いて、前髪の生え際から頭頂・後頭へ、髪の毛をとかすような動作を36回行う。

両手の手掌を用いて、鼻翼の両側から上方へ額にゆき、そのまま両側へ分け、顳(こめかみ)・頬を経て下方へ、顔を洗うような動作を36回行う。

[追加動作]

百会穴の按揉:両手の中指を重ねて頭頂部の百会穴に当て、36回按えながら揉む。

2、揉眼搓耳(眼球を揉み、耳介を擦る)

坐位または仰臥位を取る。

[操作方法]

両手の手根部を同側の眼球に当て、時計回りと反時計回りの方向へそれぞれ36回揉む。

両手の手掌を用いて同側の耳介を覆い、36回擦る。

[追加動作]

睛明穴・太陽穴・四白穴の点揉:睛明穴に拇指の指先、太陽穴に拇指または示指の指先、四白穴に示指の指先を当て、それぞれ36回按えながら揉む。

耳輪の揉擦:両手の拇指を耳介背面に当てて支え、示指の側面を耳介正面に当てて挟みながら、上方から下方へ耳介を揉み、最後に耳垂を下方へ引っ張る。

3、叩大椎(大椎穴を叩く)

坐位を取る。

[操作方法]

拳を握り、その手掌面を用いて、頸項根部の大椎穴において18回軽く叩く。手が届かない場合は手掌(五本指を合わせて手掌の中に空を作る空心掌)を用いる。

4、擦腰暖腎(腰を擦って腎を暖める)

坐位を取る。

[操作方法]

両手の手掌を腰部の両側に当て、上方から下方へ36回擦る。

5、拍胸(胸部を叩く)

仰臥位または坐位を取る。

[操作方法]

一側の手掌(空心掌)を用いて、反対側の胸郭を上方から下方へ6往復6回ずつ計36回軽く叩く。その後、手を変えて同様に36回行う。

[追加動作]

膻中穴の按揉:手根部を胸骨中央の膻中穴に当て、36回按えながら揉む。

6、摩腹揉腹(腹部を摩り、揉む)

仰臥位または坐位を取る。

[操作方法]

両手の手掌を用いて、腹部において、それぞれ時計回りと反時計回りの方向へ、臍を円心にして円形に36回ずつ摩る。

その後、両手の手掌を重ねて(女性は右手を下、男性は左手を下に置く)上腹部の中脘穴に当て、反時計回りの方向に54回、下腹部の関元穴に当てて時計回りの方向に81回揉む。

[追加動作]

推腹:両手の手掌を腹部の両側(腹直筋上)に当て、上方から下方へ36回推し下ろす。その後、両手の手掌を両側の脇肋部に当て、外上方から内下方へ斜めに36回推し下ろす。

7、擦揉膝蓋(膝関節を擦って揉む)

坐位を取って脚を伸ばす。

[操作方法]

両手の手掌を用いて、同側の膝関節の上を覆い、上方から下方へ36回擦り、その後、円形方向に36回揉む。そのまま手掌を用いて36回軽く叩く。

[追加動作]

抓膝蓋骨:両手の拇指及び示指中指の指腹を用いて、膝蓋骨を両端から掴みながら、膝の上下方向(手の前後方向)に36回動かす。

8、推擦小腿(下腿を推して擦る)

坐位または仰臥位(下腿内側面)を取る。

[操作方法]

両手の手掌(特に手根部)を用いて、同側の下腿外側面において、膝の外下方から外踝付近へ36回推し下ろす。手が届かない場合は、左右を交替して前後に行う。

一側の足裏を用いて、反対側の下腿内側面において、膝の内下方から内踝付近へ36回擦る。その後、足を変えて同様に36回行う。

[追加動作]

足三里穴の按揉:拇指指腹を用いるか、或いは両手の拇指を重ねて、膝の外下方の足三里穴に当て、36回按えながら揉む。

9、揉圧太溪(太溪穴を押さえて揉む)

仰臥位または坐位を取る。

[操作方法]

一側の足踵を反対側の内踝後方の太溪穴に当て、36回押さえながら揉む。

10、擦湧泉(湧泉穴を擦る)

坐位を取って膝を曲げる。

[操作方法]

両手の手掌を用いて、両側の足裏を36回擦る。

上記の自己推拿法の各動作は基本的に頭部(上方)から足部(下方)まで行うが、一定の順序に拘る必要は無い。各自の都合や具体的な体位に従って操作し易いように行えば良い。例えば、寝る前に行う際に、頭部から背腰部を経て下肢までの動作を済ましてから、仰向けになって胸部と腹部の動作を最後に完成し、そのまま寝るのが睡眠改善にも効果的である。また回数も時間によって増減できる。

健康知識:冬の数九寒天に養生を語る

中国では、一年中最も暑い時期の三伏天に対し、最も寒い時期を「数九天」としてている。数とは数える事を指し、数九は九を数えることである。冬至から天候が本格的に冷え込むため、冬至から九日間ずつ日々を数えて行き、一つ目の九日間を一九、二つ目の九日間を二九とし、三九と四九が二十四節季の小寒小寒と大寒を含めて最も寒い時期で、その後は気温が徐々に暖かくなっていき、最後に九つ目の九日間まで数えると、「九尽桃花開」(九が尽くしたら桃の花が咲く)で春が来るため、数九天は計八十一日間とされているが、実際は更に九日間を加えて九十日間を数えている。

「数九天」の厳寒天候に人体は最も寒気に損耗され易いため、温補の原則に重点を置いて養生する必要がある。下記の衣・食・住・行などの面で充分注意しなければならない。

1、温暖を保持して消耗を防ぐ

寒気で生体の陽気が消耗され易く、更に冬至から陽気が芽生え始めるため、寒気に傷められないように十分に保温する必要がある。また寒邪は凝滞の性質が持ち、寒冷により生体の気血運行が緩慢になって停滞も起こり易い。平素に血液粘稠度が高い高血脂、高血糖、高コレステロールの患者を含め、特に頸・肩・腰・腿の部位を温めなければならない。

寒は陰邪で陽気を傷め易いため、特に頭と足の防寒を大切にすれば、より良く寒邪の侵襲を防ぐ。寒冷の日、温かい厚着だけを着ても頭から身体の熱が放散してしまう恐れもあるため、出来れば帽子やマフラーなどで頭を覆った方が無難である。一方、足が冷えると内臓まで及ぼして下痢、月経不順、陽痿、腰腿疼痛などの病症を引き起こす。足を暖めるためには、就寝前にお湯で足を浸す方法が効果的であり、冷え症の者には艾葉を加えたり、湿が多い者には花山椒を入れたりし、煎じてから足を浸すと更に効果を高める。

具体的な手段として、合理的に衣服の厚みを調整し、暖房などで室温を調節する。

但し、身体の温暖保持は適度にしなければならず、熱がりや汗かきのない程度を適宜とする。着過ぎたり室温が高過ぎたりすると、熱くて汗をかき、腠理が開いて陽気の封蔵を妨げ、寒邪を感受して罹病する恐れがある。

2、適度な飲食で身体を補う

飲食保養は健康養生において重要な手段であり、特に冬至を過ぎた後は身体を大いに補う最適な時期であり、温熱性質の食物を以って身体を補益すると、半分の労で倍の効果を上げる。

陽気が不足する数九寒天では、羊肉、大根、生姜、長葱など温熱性質の食物を多めに食すことにより、生体の陽気を補う。

但し、冬季では肉類など脂っこい物・甘い物・厚味を多く食し、飲食が消化されず湿痰や蓄熱を生じ易いため、温熱性質の食物に伴い、蓮根、大根、白菜、梨、黒慈姑など津液を補足する清涼性質の食物も必要である。

ほかに、一日一度くらい温かい雑穀粥を食べると、身体を暖めるほか、胃腸を暖めて消化機能を促進して食欲を増進させる。

3、充足な睡眠で陰陽を補う

充分な睡眠時間を確保することは、陽気の潜蔵と陰精の蓄積に有益である。数九寒天において最も直接な養生法として早寝遅起きであり、普段より一時間多めに寝るのをお勧めする。

《黄帝内経》には冬の養生について「早寝遅起き、必ず日光を待つ」と記載している。中医学的には、早寝は陽気を温存するためになり、遅起きは陰気を保養するのを助ける。このように体内の陰陽平衡、臓腑を滋養して生体の健康を増進する。

4、適度な運動で気血を助ける

運動養生は生体の防寒能力を高める効果があるが、自然の規則性に順応しなければならない。基本的に数九厳冬の時節には、「蔵」(陽気と精気の貯蔵)に工夫すべきで、運動を多めにすることをお勧めしない。運動する際には有酸素運動が重要である。

先ず運動の強度からみると、ジョギングや球技試合など激しい運動は身体のエネルギー消耗が大きく、汗かきにより肌膚腠理が開いて陽気や腎精の消耗を招くため不適切である。代わりに早足歩き、八段錦、太極拳などの緩やかな運動がお勧めである。

次に運動の時間からみると、早朝は気温が低くて陽気が消耗され易いため、運動には適宜ではない。特に老人や心脳血管罹患者などの場合は必ず日が出てから、昼前後の陽気が比較的強い時間帯(午前十時前後或いは午後三四時くらい)にお勧めする。

また運動前に充分な準備運動を行って身体を温め、寒冷時気の筋骨強硬による運動損傷の発生リスクを下げる。運動後は直ぐに温かい飲物を補給し、生体の水液消耗による血液粘稠度の変化を起こして心脳血管疾患を予防する。

5、日光浴で陽気を補給しながら情緒を調節する

太陽は自然界陽気の本源であり、生命の陽気も日光から摂取されている。陽気が少ない数九寒天に日を浴びる事は生体の陽気を保養する重要な手段である。

また寒冷時期は気候が乾燥しているし、暖房や焜炉などの使用で更に乾燥して逆上せを起こし、情緒の変化も見られ易い。中医的には「怒則気上」で、気が逆上せると陽気は乱されるため、数九寒天の情緒の調節も重要である。

日を浴びることで陽気を補って寒気を駆除できるし、同時に気分転換で情緒を調節して抑鬱を減少させる。具体的な方法としは、両側の手掌を開いて日に向け、散歩や深呼吸などを伴う。三十分から一時間ほどお勧めする。

今は数九寒天の三九の最中である。最も寒い時期のなか、正しい養生方法を以って健康な身体を作り、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの病邪から身を守りましょう。