健康知識:息を深く長くすることで健康養生

人間は、赤ちゃんとして母体から離れて産声を発して息が始まって自ら生命活動を営み始めるが、最期に息を引き取ることで生命活動の終止を示している。呼吸機能は生命活動の基本的な指標である。「人は一息で活きる」と言われるように、人間の生命は気によって営んでおり、生命活動自身は気の運動の一種である。健康の時には元気が充足し、病弱の時には息切れや息苦しいなど呼吸困難が現れてくる。

中医学的には、生体の気は肺に吸入された自然界の清気、及び脾胃に運化された飲食物の穀気から生成されている。脾胃による消化機能は確かに健康維持の基本であるが、肺による呼吸機能も健康増進の重要な素因である。気功養生療法では「調息」(息の調節)が非常に重要な要素とされている。

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健康知識:息を深く長くすることで健康養生

人間は、赤ちゃんとして母体から離れて産声を発して息が始まって自ら生命活動を営み始めるが、最期に息を引き取ることで生命活動の終止を示している。呼吸機能は生命活動の基本的な指標である。「人は一息で活きる」と言われるように、人間の生命は気によって営んでおり、生命活動自身は気の運動の一種である。健康の時には元気が充足し、病弱の時には息切れや息苦しいなど呼吸困難が現れてくる。

中医学的には、生体の気は肺に吸入された自然界の清気、及び脾胃に運化された飲食物の穀気から生成されている。脾胃による消化機能は確かに健康維持の基本であるが、肺による呼吸機能も健康増進の重要な素因である。気功養生療法では「調息」(息の調節)が非常に重要な要素とされている。

呼吸運動は姿勢、生活環境、そしてストレスなど様々な素因に影響され、浅くなったり苦しくなったりする。加齢に伴って胸郭が硬くなりがちで、呼吸運動も影響されやすい。清気の吸入が少なくなり、元気が不足する。

古代の養生術には、「呼吸が臍に至れば、寿命は天と等しい」との名言があり、呼吸が臍まで深くできれば、長寿ができる。このように呼吸を深く長くする鍛錬方法は養生に大きな役割を果たしている。呼吸の鍛錬方法は様々あるが、基本的な要領は緩慢、柔和、連続であり、代表的な簡易方法として腹式呼吸が挙げられる。

普段の呼吸方式として、胸郭の拡大と収縮によって肺臓の全体が外から動かされ、空気を肺中に納めて清気の吸収と濁気の排出を行う。呼吸運動の深まりに伴い、胸郭の動きに伴って腹部も起伏するように運動させると腹式呼吸になる。厳密に言うと、腹式呼吸は単純に腹部による呼吸ではなく、胸郭の呼吸運動が強化し深化したものである。

呼吸は吸気と呼気の律動的な動作からなるが、吸気より呼気が重要である。呼気により濁気を排出してはじめて、吸気により清気を吸収することができる。これによって「吐故納新」(腹から古い気を吐き出し、鼻から新しい気を吸い入れる)が求められている。また呼吸の一時的停止は停止前の呼吸に対して強化作用があると考えられるため、呼吸鍛錬の時に、吸息の時間より吐息の時間をやや長く調整し息を吐き尽くしたところで、少しだけ停めることをお勧めする。

腹式呼吸の鍛錬効果は下記にまとめられる。

① 肺気増強:中医学によると、肺は気を主り、呼吸を司るとされ、肺気が充足すると、生体の元気も充足している。また肺気とは呼吸だけではなく、また外邪侵襲の防御機能を意味しているため、生体の抵抗力や免疫力に繋がる。腹式呼吸は胸郭を最大限に広げて清気を多く深く吸い込み、肺臓の機能も増進させて肺気を増強させる。

② 内臓強化:腹部には任脈、腎経、胃経、脾経、肝経、帯脈など、多くの経絡が循行して通過しているため、腹式呼吸による腹部の起伏運動は腹部の内臓に按摩のような効果を持って内臓の蠕動が助長され、これに伴って全身の経絡と臓腑も同調して気血の循行を促進される。特に中焦脾胃の運化機能を直接強化して昇清降濁の機能を健全にさせる。

③ 気血増進:腹式呼吸を行っているうちに、内臓器官に按摩作用を果たして蠕動を促進させ、全身の気血運行を増進する。これによって頭痛眩暈、高血圧症、脳血管障害などの疾患に対して効果的に予防と回復の作用を果たす。中医学からみると、これらの疾患は気血上衝の種類に属し、腹式呼吸で気血を下方の丹田へ引き下ろすことができる。

④ 肌膚保養:中医学的には「肺は皮毛を主る」とされ、全身の皮膚と体毛は肺気に栄養されて調節されている。肺気が充足すると、肌がきめ細かくて滑らかであり、肺気が不足すると、皮膚・毛髪が疎らで外邪に侵襲されやすい。腹式呼吸で肺気を増強させ、肺気の充足によって美肌・潤膚・祛斑の効果を果たす。

⑤ 精神安定:腹式呼吸は精神に直接影響している。気分が悪く苛立つ時に、数回深呼吸をすると、精神が落ち着くことを経験した方は少なくない。息を深く長くすることにより、気血の運行が促進され、特に中焦脾胃による昇清降濁の機能を増進させ、心神(頭脳)がスッキリして愉悦な気分になる。

腹式呼吸の鍛錬方法は比較的容易で、個人的に調整しやすい。重要なのは呼吸鍛錬の要領を把握し、長期に持続することである。

簡単な鍛錬方法では、姿勢は立式でも臥式でも良いが、両手を臍の前に置く(立式)か、重ねて臍下の丹田に軽く当て(臥式)、心身全体を緩めて窮屈な姿勢を避ける。呼吸を自然な状態から少しずつ丁寧に深く長く調整し、呼吸に従って腹部も起伏する。通常では吸息時に胸腹部も膨らみ、吐息時に胸腹部も引き締める。呼吸鍛錬の長期持続で馴染んでから、吸息時に腹部を引き締め、吐息時に腹部を膨らむように意識的に調整することもでき、これを逆腹式呼吸と言う。いずれも吸息の時間より吐息の時間をやや長くし、吐息後に少しだけ間隔を置くことをお勧めする。

少し専門的な練習方法に拘る方には、下記の呼吸鍛錬方法を紹介する。

両脚を肩幅ほど開いて自然に立ち、両手を緩めて腹前に風船を持つように置く。吸息に伴って両手を微かに身体の内側へ収め、腹部は微かに体内へ収める。同時に両手に抱かれる気と吸い込んだ気は丹田(臍下の下腹内)に合流し、更に丹田から命門(両腎臓の間)へ収縮していくと連想し、これを「闔丹田」と言う。息を吸い切ったら、ゆっくりと吐息する。全身が緩み、全身の気が丹田から四肢百骸まで伸びて行くと連想し、これを「開丹田」と言う。息を吐き切ったら、やや停止する(鍛錬の深化により、停止間隔も徐々に長くする)。その後ゆっくりと吸い込み、前述した要領で吸息に進む。

このように繰り返して呼吸と丹田開闔を30分間ほど練習する。最初の7回は呼吸と丹田開闔の幅度は大きくし、その後は徐々に小さくし、全身のリラックスに伴い、リズムも自然に遅くなり、呼吸は微細で綿々と変わり、最後に有るようでもあり無いようでもある佳境に入る。

上記の腹式呼吸鍛錬には三つの要点がある。

① 吸気時に丹田を緊張させ呼気時に丹田を緩ませる。吸気と呼気に従って腹部が起伏し、吸気時に腹部の丹田から命門へ凹ませ、呼気時に腰部の命門から腹部の丹田へ緩める。呼吸の進行に従って腹部が律動的に起伏し、これによって臓腑への按摩効果が果たせる。

② 呼吸と丹田開闔はいずれも緩慢・柔和・自然に進行させる。練習の積み重ねにつれて呼吸は徐々に遅くなり、動作も細かくなる。無理な努力を避けて緩めて自然に行うことで、体内の気が充足することができるが、無理に力むと、焦りやすくなり、体内の気が乱れやすい。通常成人の呼吸は1分間に16回くらいあるが、腹式呼吸の鍛錬により呼吸は深く、長く、細く、均等になり、長期に持続すると養生長寿の効果が現れてくる。

③ 呼気後になるべく数秒ほど停止する。これによって心身静止の状態に入って休息の状態に入る。これを「息」との言葉で現し、古代に曰く「息なら則ち命が長い」のように、心身全体を呼吸に従って協調すれば充分に休息でき、精気神は滋養を得て充実になり、生命力も旺盛に回復して寿命も延長できる。

会員通信:NPO法人伝統医学教育会事業活動計画(2024年度)

2024年度は、昨年に引き続き教育活動である講習会及び普及活動の健康支援を進展していきたいと思います。

講習会は「常用針灸腧穴の基礎と実用」を予定しており、感染防止を徹底して従来の教育方針に従って少数人数で実行する予定です。本講習では、腧穴学の基礎知識を始め、臨床で最も常用される凡そ100経穴を取り挙げ、それぞれ名称の解釈から、その精確な定位と取法及び主要な性能と主治を伝授し、更に具体的な応用実技まで指導します。腧穴の具体的な臨床応用の方法や経験を習得し、健康の維持と増進、  疾病の予防と治療に役に立てると期待しています。講習は4月後半に開講し、計8回で12月前半に終了する予定です。

健康支援の活動は引き続きホームページを通じて健康情報を発信するほか、臨床センターにて会員の皆様に健康養生法の相談や指導なども実施していきたいと思います。状況が可能な範囲で会員限定の無料講座も開催する予定です。

ほかに、会員の交流を深めるため、年末懇親会を企画して開催する予定です。

会員通信:NPO法人伝統医学教育会事業活動報告(2023年度)

1、講習会

2023年度の定期講習会は、4月から翌年1月にかけて「常見病証の針灸治療実技」のⅢ期講習を実施しました。ほかには会員向けの特別健康講座「医療気功八段錦による健康増進」も主催しました。

「常見病証の針灸治療実技」の講習は2021年度及び2022年度に開催していますが、今年はⅢ期として、計4名が参加しました。今回も伝統医学教育の実用性に重点を置きましたが、Ⅰ期とⅡ期とは異なり針灸臨床の常見病証ではなく、日本の針灸現場では余り見られない、針灸治療で特効が得られる病証を6病証新たに取り上げ、それぞれの基本概念、病因病機、そして辨証分型を明確にしたうえ、治療原則と選穴処方を解説し、具体的な刺針実技を指導しながら、技能練習を行いました。更に近年流行っている「美容針灸」及び「新型コロナウイルス感染後遺症」についてテーマを立て、病理認識、辨証分析、そして治療原則などを解説し、実技の練習も行い、個人的な心得と経験を伝授しました。以前参加された針灸師や、新たに参加した針灸学生も大変熱心に取り組んでいました。辨証論治の思想に啓発され、臨床見聞が広がり、臨床実践の技術能力が高まると同時に、針灸治療の特殊技法を身に付けられるようになりました。

また、昨年7月30日当会会員を対象にし、「医療気功八段錦による健康増進」の特別講習を行いました。中国古代から伝わってきた最も完成度の高い導引養生術とされる八段錦は、八つの動作からなり、それぞれの動作は一定の臓腑または病証に対応しており、経絡気血疏通と臓腑機能調節の効果を持っています。八段錦は動作が簡潔で、運動量も適度で、健康効果も高いという特徴があるため、中国ではコロナ禍による外出制限の時期に在宅運動として推奨され、また効果的な免疫増強価値が確認されました。今回は多くの練習方法と特徴的な流派の中から、中国気功学会と北京中医薬大学による医療気功八段錦を紹介しました。実際に練習することで、日常生活に取り入れて健康の維持と増進、疾病の予防と治療に役立てて頂きたいです。

2、教本出版

当会の「針灸臨床実用参考書」シリーズである、新書「経穴の定位と技法」は2年3か月の時間を掛けて出版しました。針灸臨床では、正確かつ精密で迅速に経穴の定位を取ることは臨床技能の第一歩とされ、治療効果に最も深く関係しています。経穴の定位は決まっていますが、取穴方法は様々です。針灸学校の教育で腧穴の定位を学んで国家試験に合格したとは言え、実際臨床に入ると中々上手く取穴できず、取穴するには非常に時間が掛かるのが現状です。これを踏まえ、本書は腧穴の基礎知識を概説し、定位方法と取穴方法を説明し、更に針灸の操作技法を総説したうえ、針灸臨床において常用される212経穴を選び、それぞれの定位、様々な取法、そして針灸方法を詳細に説明しています。更にできるだけ精確に取穴要点を表現して理解しやすいように、自ら拘った図譜の考案と作成に工夫しました。一般の針灸師や針灸学生、按摩マッサージ指圧師などによる医療・健康関連職従事者の臨床治療、並びに伝統医学に関心を持っている方々の健康増進のための参考書にして頂きたく、本書を完成しました。多くの方々に活用して頂きたいと思います。

3、健康支援

教育事業活動と同時に、会員の健康支援活動も引き続き行っています。伝統医学教育会ホームページの会員専用ページにて健康知識を定期的に更新していますので、皆様の健康増進の参考にして頂きたいです。

また、会員の健康支援を目的として前年度に引き続き、伝統医学的な薬茶を二回お送りしました。10月には秋季の寒冷変化と乾燥の特徴及びインフルエンザと新型コロナウイルスの両方の感染が急増する情勢、12月には冬季の寒冷と乾燥の特徴及び上気道感染症やインフルエンザ、そして溶血性連鎖球菌感染(溶連菌感染症)など外感病証が急増する情勢に従って薬茶を考案して処方と見本を送付しました。いつもと同じように、皆様にお送りした薬茶の主要材料は比較的容易に入手できる身近な ものを使って作成しました。作成方法は教育会の会員専用ページに公開しています。

4、懇親会

コロナ禍の影響で3年ほど会員の年末懇親会を控えておりましたので皆様との対面交流も暫く途絶えておりましたが、疫病情勢はようやく少し落ち着いてきましたので、10月1日(日)午後、当会事務所にて会員の懇親会を久しぶりに開催しました。感染を考慮してご参加を控えていた方もいましたが、今回は計8名が出席しました。

事務局で用意した簡単なお飲物や食物のほか、金子会員からお菓子と新鮮な棗、 紙谷会員からチョコレートを頂戴しました。この機会に長年に渡って支援して頂いた会員及び 新しく入会した会員の皆様は一堂に集まり、様々な情報交換や交流懇親をしました。事務局も会員の皆様とお会いして貴重なご意見や近況をお聞きすることができました。また、皆様との交流を通じて今後の伝統医学教育会の活動方針を明確にして事業活動を進んで行きたいと考えています。最後に、中国茶の賞味も少し体験して頂きました。

健康知識:経穴を用いた美顔方法

近年、日本において美容針灸が非常に流行っている。針灸院やエステサロンだけでなく、接骨院などでも美容針灸を取り入れ、様々な所で治療を受けられるようになっているが、場所により治療効果は大きく異なっている。美容針灸の治療院を選定することは普通の人にとって中々難しい。そのため、自身で経穴を用いた美顔方法がお勧めできる。

実際、刺針の代わりに手指を用いて経穴に適度な刺激を与えることで美顔の効果も充分に得られ、しかも安全かつ簡便である。基本的に美容針灸は針具でなく、経穴への刺激によって美容効果を果たしたのであり、経絡の調節作用は美容針灸の基礎となる。推拿(按摩)手法を用いて相応しく経穴に刺激を与えることにより、臓腑経絡の機能を強化して陰陽気血の平衝を調節し、顔面皮膚が濡養されて潤沢で弾性に富むことができる。これはいわゆる美容推拿の作用機序である。

美容針灸でも美容推拿でも、経絡腧穴が最も重要な決め手である。先ずは体質と体調に従って適切な経絡腧穴を選択して治療処方を決める。次に正確かつ精密に腧穴の定位を取る。最後に経絡腧穴において適宜な手法を行って適度な刺激を与える。

ここでは、美顔に常用される経穴の所属経脈と応用要点を紹介する。具体的な定位と取法は《経穴の定位と技法》、詳細な効能と主治は《経穴の性能と主治》を参照することができる。

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健康知識:経穴を用いた美顔方法

近年、日本において美容針灸が非常に流行っている。

厳密に言えば、美容針灸は針灸技法を用いて全身の経穴に適度な刺激を与え、経絡気血の運行を促進させることにより、全身の臓腑機能を調節するうえ、局所の皮膚組織を養護して老衰遅延・健身美顔を目的とする治療方法である。

美容針灸は、広義的な意味で全身美化(全身肥満や腹部肥満などの痩身)と顔貌美化(顔面のシミやシワや弛みなどの美顔)との二つの内容を含む。現在、狭義的な意味で美顔を目的とし、主に先天的な生理欠陥及び後天的な病理疾患を軽減または消除する、或いは疲労や加齢老衰による機能低下を調節することが多く注目されており、この意味で美顔針灸と言うことが多い。

また、中医学的には生体の健康を無くして美顔が達成できないと考えている。本来、美容針灸は身体全体の状態を考えたうえ、全身の経穴に行う針灸治療の全般を指している。しかし、最近は一般的に直接顔面だけに刺針治療を行うのが主流になっている。

最近、針灸院やエステサロンだけでなく、接骨院などでも美容針灸を取り入れることが増え始め、様々な所で美容針灸の治療を受けられることが多くなっているが、場所により治療効果は大きく異なっている。美容針灸の治療院を選定することは難しく、色々注意点が喚起されているが、普通の人にとってやはり中々判断し難い。そのため、自身で経穴を用いた美顔方法がお勧めできる。

実際、余程の生理欠陥や病理変化を除き、普通の疲労や老衰による機能低下に対応するためには、刺針の代わりに手指を用いて経穴に適度な刺激を与えることで美顔の効果も充分に得られ、しかも安全かつ簡便である。基本的に美容針灸は針具でなく、経穴への刺激によって美容効果を果たしたのであり、経絡の調節作用は美容針灸の基礎となる。点・按・摩・揉・擦・推・捏・拿など推拿(按摩)手法を用いて相応しく経穴に刺激を与えることにより、臓腑経絡の機能を強化して陰陽気血の平衝を調節し、顔面皮膚が濡養されて潤沢で弾性に富むことができる。これはいわゆる美容推拿の作用機序である。

美容針灸でも美容推拿でも、経絡腧穴が最も重要な決め手である。先ずは体質と体調に従って適切な経絡腧穴を選択して治療処方を決める。次に正確かつ精密に腧穴の定位を取る。最後に経絡腧穴において適宜な手法を行って適度な刺激を与える。

ここでは、美顔に常用される経穴の所属経脈と応用要点を紹介する。具体的な定位と取法は《経穴の定位と技法》、詳細な効能と主治は《経穴の性能と主治》を参照することができる。

① 眼周腧穴

攅竹(足太陽経):眼精疲労、眼周浮腫、眉間の皺を緩和する。

睛明(足太陽経):眉間の皺、眼周浮腫、眼精疲労、眼裂縮小に用いられる。

絲竹空(手少陽経):眼周の浮腫みや弛み、眼瞼痙攣に用いられる。

太陽(経外奇穴):眼精疲労と眼周浮腫を解消する。

承泣(足陽明経):眼下クマ(弛み)を引き締め、眼周浮腫を解消する。

四白(足陽明経):眼下のクマや弛みに用いられる。

② 鼻旁腧穴

迎香(手陽明経):眼周浮腫を解消し、眼周肌膚の弛みを予防するほか、吹き出物、乾燥肌、ほうれい線などに用いられる。

③ 口周腧穴

巨髎(足陽明経):口周の皺、弛み、ほうれい線、表情筋の強硬に用いられる。

地倉(足陽明経):口周の皺、弛み、ほうれい線に用いられる。

承漿(任脈):顔面の浮腫みと弛みを消除する。口の歪み、皺、弛み、面皰、吹き出物に用いられる。

④ 面頬腧穴

下関(足陽明経):顔面の弛み、筋肉による腮張り、顔面の歪みに用いられる。

頬車(足陽明経):面頬浮腫を解消する。顔面の弛みを引上げ、筋肉による腮張りに用いられる。

大迎(足陽明経):顔面輪郭の弛み、浮腫み、歪み、口周の皺に用いられる。

⑤ 頭蓋腧穴

百会(督脈):自律神経の調節により精神を安定させ、飲食過剰や便秘を予防する。

神庭(督脈):顔面全体の浮腫み、弛みに用いられる。

翳風(手少陽経):顔面全体のリンパ循環を改善する。

美容針灸と美容推拿は中医学の整体観念(全体性)と辨証論治(個体性)の考え方に従い、全身調整の特徴を持っている。美顔を目的とした局所治療の経穴のほか、具体的な体質と病状に応じて全体治療も組み合わせると、治療効果が一層高められる。

通常、美顔治療の適応症状として面色不良(萎黄や晄白)、肥満や浮腫、シワ・シミ・弛み、褐色斑などが多く見られ、主に脾気虚弱・気血虚弱と肝気鬱結・気滞血瘀という二方面の病理機序から考えられる。これに対して健脾益気養血と疏肝理気行血の治療方針を立て、治療方法としてそれぞれ陽明経・太陰経の腧穴を主とするか、少陽経・厥陰経の腧穴を主とする。選穴処方の際に整体調節の原則が最も重要であり、全身と局所の腧穴を組み合わせなければならない。全身取穴は臓腑平衡の調節に着眼し、各系統の機能を調節することにより局所のための基礎を築く。一方、局所取穴は経絡疏通で循環を改善し、表皮細胞の新陳代謝を促進して斑点瑕疵を消去するに伴い、肌肉の弾力性を増強する。

なお、美顔推拿の施術には一定の順序がある。一般的には病症の部位に従うか、経脈の循行に従って施術順序を決める。

活動案内:「常用針灸腧穴の基礎と応用」講習会案内

腧穴とは、いわゆる「ツボ」のことで、体内の臓腑経絡の気血が体表の皮肉筋骨に輸送されて注入する部位です。腧穴は経絡に属して体内で臓腑に繋がっているため、体内の病証を体外に反映する診断点であり、また針灸推拿・気功導引など外治療法の治療点でもあり、臨床における疾病の診断治療に重要な存在となっています。実際、刺針の刺激のみならず、指圧や温灸など様々な物理的刺激を腧穴に相応しく与える ことで、生体の臓腑経絡機能を調節し、陰陽気血精神を調整することができ、健康  増進・疾病予防の効果も大きく期待されています。

本講習は、腧穴学の基礎知識を始め、臨床で最も常用される凡そ100経穴を取り挙げ、それぞれ名称の解釈から、その精確な定位と取法及び主要な性能と主治を伝授し、更に具体的な応用実技まで指導する予定です。腧穴の具体的な臨床応用の方法や経験を習得し、健康の維持と増進、疾病の予防と治療に役に立てると期待しています。

講習終了時、NPO法人伝統医学教育会の修了証書を交付します。

 

講 師:陳 志強  特定非営利活動法人伝統医学教育会理事長、医学博士

日 程:全8回 月1回 午前10時30分~13時00分(計20学時間)

① 04月21日 腧穴の基礎知識、定位・取法・性能・主治の概説;

② 05月19日 督脈腧穴、任脈腧穴;

③ 06月16日 手太陰肺経腧穴、手陽明大腸経腧穴;

④ 07月21日 足陽明胃経腧穴;

⑤ 09月08日 足太陰脾経腧穴、手少陰心経腧穴、手太陽小腸経腧穴;

⑥ 10月06日 足太陽膀胱経腧穴;

⑦ 11月10日 足少陰腎経腧穴、手厥陰心包経腧穴、手少陽三焦経腧穴;

⑧ 12月08日 足少陽胆経腧穴、足厥陰肝経腧穴。

場 所:東京都千代田区外神田6-4-5-401  NPO法人伝統医学教育会事務所

交 通:東京メトロ銀座線 末広町駅4番出口より徒歩4分

東京メトロ千代田線 湯島駅5番出口より徒歩5分

都営地下鉄大江戸線 上野御徒町A4番出口より徒歩8分

JR御徒町駅・秋葉原駅・御茶ノ水駅より 徒歩10分~15分

定 員6名以上で開講 10名まで

費 用:73,000円(当会会員は8,000円の割引額、分割払い可)。

教科書「経穴の定位と技法」別途4,950円(当会会員は割引後3,500円)

教科書「経穴の性能と主治」別途3,300円(当会会員は割引後2,200円)

振込先:特定非営利活動法人伝統医学教育会

郵便貯金総合口座 10100-55927971

申込み:NPO法人伝統医学教育会事務局

FAX 03(5816)5235

締切り:2024年4月6日(土)まで

健康知識:新型コロナウイルス感染後遺症について

1、概説

新型コロナウイルス性肺炎は、中医学において外感病証の「疫病」の範疇に属する。疫病は強烈な伝染性と流行性を持つ疾病の一種であり、通常の外感六淫(風寒湿燥火)とは異なり、「疫癘」(瘟疫、疫毒、癘気、疫気、毒気、異気、雑気、乖戻之気などとも言う)という病邪(致病素因)により起こされる。疫癘の形成は自然界の異常気候、環境の汚染、飲食の不潔、社会制度などと密接に関係している。新型コロナウイルス性肺炎の発生は、急速な蔓延・広範囲の流行・重篤な病状などの特徴から一般的な外感六淫ではなくて「疫癘」によるものである。病状の性質から見ると、主に寒湿の邪気と密接な関係を持って「寒湿疫」と定義している。

中医学における邪気は一つの抽象的な概念で、人体に疾病を致す全ての素因を指し、いわゆる致病素因のことである。致病素因は大まかに外感病因(風寒湿燥火の六淫、疫癘)、内傷病因(喜怒憂悲恐驚の五臓七情)、そして不内外病因(飲食、労逸、外傷、寄生虫、水湿痰飲、瘀血など)の三大類に分けられるが、新型コロナウイルス性肺炎には外感病因の疫癘が致病素因となっている。邪気は主に発病する時に病状の特徴に従って病邪の性質をまとめてきたのであり、現代医学における細菌やウイルスなど具体的なものと全く一致しない。

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健康知識:新型コロナウイルス感染後遺症について

1、概説

新型コロナウイルス性肺炎は、中医学において外感病証の「疫病」の範疇に属する。疫病は強烈な伝染性と流行性を持つ疾病の一種であり、通常の外感六淫(風寒湿燥火)とは異なり、「疫癘(えきれい)」(瘟(おん)疫(えき)、疫毒(えきどく)、癘(れい)気(き)、疫(えき)気(き)、毒気、異気、雑気、乖戻之(かいれいの)気(き)などとも言う)という病邪(致病素因)により起こされる。疫癘の形成は自然界の異常気候、環境の汚染、飲食の不潔、社会制度などと密接に関係している。新型コロナウイルス性肺炎の発生は、急速な蔓延・広範囲の流行・重篤な病状などの特徴から一般的な外感六淫ではなくて「疫癘」によるものである。病状の性質から見ると、主に寒湿の邪気と密接な関係を持って「寒湿疫」と定義している。

中医学における邪気は一つの抽象的な概念で、人体に疾病を致す全ての素因を指し、いわゆる致病素因のことである。致病素因は大まかに外感病因(風寒湿燥火の六淫、疫癘)、内傷病因(喜怒憂悲恐驚の五臓七情)、そして不内外病因(飲食、労逸、外傷、寄生虫、水湿痰飲、瘀血など)の三大類に分けられるが、新型コロナウイルス性肺炎には外感病因の疫癘が致病素因となっている。邪気は主に発病する時に病状の特徴に従って病邪の性質をまとめてきたのであり、現代医学における細菌やウイルスなど具体的なものと全く一致しない。例えば、一種のウイルスが人体に感染して様々な病状を現して来る時に、そのうち寒の特徴が現れる場合は寒邪による外感病証と判断するが、同時に湿の特徴も現れる場合は寒邪と湿邪が合わさって侵襲することによる外感病証と診断する。

また、中医学は単なる病邪から病証を認識するのではなく、生体と病邪を統一して一つの複合体として疾病の解析を行う。病因病機学説によると、正気は発病の決定素因で、邪気が発病の重要条件であるとされている。これは新型コロナウイルス性肺炎の感染発症時期にも感染後遺症時期にも同様である。感染初期では、発熱悪寒、咳嗽咽痛、頭身重痛、倦怠無力などの症状が見られるが、患者の体質などに従って臨床特徴が異なってくる。体質強壮のものは悪寒発熱や頭身緊痛など風寒束表の現れを主としているが、一方、体質虚弱のものは風寒表証のほか、疲労無力など気虚の現れも伴う。また感染後期では、身体困憊など湿邪が強い現れも認められている。

新型コロナウイルス性肺炎が治癒してから、多くの患者には様々な後遺症状が残っている。病状、体質、そして症状によって1~3ヶ月が続くものが多く見られるが、6ヶ月更に1年ほど続くこともある。疫病流行早期の病邪(デルタ種までのウイルス)は比較的強くて直接肺臓を侵襲するため、後遺症状も重篤であり、主に肺線維化(呼吸困難や胸痛など)、心筋損傷(不整脈や心胸重痛など)、嗅覚味覚喪失、疲労無力、睡眠障害、記憶障害ないし脳萎縮、性機能障害などが見られ、これは古代における瘟疫の記載に類似している。現在のオミクロン種ウイルスは感染力が強くなったものの、しばしば上気道を侵襲して症状が激しくなくなり、後遺症状も変化してきて疲労困憊、呼吸急迫、心拍過多、慢性疼痛、筋肉無力、感覚機能異常、不眠、認知障害などを主としている。

2、病機

感染症の初期では、主に正邪闘争の病理反応であり、高熱や煩渇など実熱の徴候が現れる。これによって邪気が追い払われるが、同時に正気も大いに消耗されて弱まっている。感染症の後期では、生体の正気虚損が主な病理となり、陰陽気血虚損の徴候が多く現れ、五臓虚弱の証を呈している。ほかに、病邪が完全に駆除されず体内に残存して痰熱内阻の徴候や、内生の毒が解消されず臓腑機能と気血運行を擾乱して瘀血・痰濁など病理産物による気機阻滞の徴候も伴い、虚実夾雑の証も見られる。

病位:疫癘は口鼻の径路から侵入して先ず肺系(気道)を通して肺臓を侵襲し、主に肺臓及び肺系を損傷する。その後は次第に心・脾胃など他臓腑に影響を及ぼす。

病機:臨床で主な病理機序は陽気損傷、痰湿停滞、そして陰液損耗などがある。

① 陽気損傷:寒は陰邪に属して陽気(主に心陽・脾陽・腎陽)を損傷する;また凝滞・収引の特徴を持ち、臓腑機能と気血運行に障害を来たす。

② 痰湿停滞:湿は土気にあたって脾に通じるため、湿邪が盛んになると、脾胃を損傷する;また重濁・粘着停滞の特徴を持ち、中焦の昇降失調を起こして体内の気機を阻害する。

③ 陰液損耗:疫癘が急激に人体に侵入すると、正気は奮い立って対抗し、これによって生体に高熱を起こし、陰液を損耗する。

上記のほか、外来の毒によって臓腑機能と気血運行の障害を起こし、瘀血・痰濁など内生の毒が生じ、生体の気機不利を起こし、昇降失調の病理を致す。

病状:臨床で多く見られる感染後遺症状は、疲労倦怠無力、胸悶気短、咳嗽気喘、咽痒腫痛、嗅覚味覚障害、動悸不眠、抑鬱焦慮などがある。

肺は気を主り、呼吸を司る。余邪が残存することで肺は宣発粛降機能を失い、肺気が上逆して咳嗽や気喘を起こす。外邪の侵襲により肺が損傷されて肺気は虚弱になると、胸悶や気短が現れる。また肺は鼻に開竅し、喉は肺の戸となるため、肺気が損耗されて不足すると、咽喉腫痛、嗅覚障害が見られる。

脾胃は後天の本であり、運化を主り、気血生化の源となり、また脾は肌肉を主る。外邪の侵襲により脾気が虚弱になると、全身まで気血を輸送できないか、湿邪が体内に停滞することで、身体疲労や倦怠無力が見られる。また湿邪が中焦に停滞して脾胃機能を障害し、悪心納呆や腹脹泄瀉、更に味覚障害が現れる。

心は神志を主る。余熱が完全に追い払わず心神を擾乱すると、動悸不安や虚煩不眠が見られる。心気が虚弱になると、精神疲労、更に抑鬱焦慮などを来たす。また心は舌に開竅するため、心気損傷なら味覚障害が現れる。

3、辨証

臨床では、感染後遺症に痰熱壅肺、陽気不足、気陰両虚、陰虚火旺、昇降不和などの証候が多く見られる。各証候の特徴を把握して辨別する。

① 痰熱壅肺:咳、呼吸急迫、喉中痰鳴、粘稠で黄色い痰を吐く、胸脇脹満、煩躁不安、または胸痛、食欲不振、大便秘結、舌は紅、苔は黄膩、脈は滑数。

② 陽気不足:精神萎靡、面色蒼白または萎黄無華、頭目眩暈、動くと汗かいて気喘、心悸、気短、話したがらない、手足不温、畏寒悪風、また頭痛、頸項痛、全身疼痛または肩背骨節痛が見られる、舌は胖淡、苔は白、脈は沈細無力。

③ 気陰両虚:倦怠無力、咳嗽で長く止まらない、咳音が低くて弱い、胸悶気短、身熱多汗、悪風、心悸、口乾、嘔悪納呆、精神疲労または虚煩不眠、舌は淡紅、苔は少、脈は沈細または虚数;また嗅覚・味覚の減退が見られる。

④ 陰虚火旺:面色潮紅、咽喉腫痛または咽喉乾痛で切られるよう、空咳、口鼻乾燥、口渇で冷飲を好む、五心煩熱、頭暈心悸、不眠多夢、盗汗、舌は紅、苔は少、脈は細数。

⑤ 昇降不和:胸脇苦満、心胸不快、呼吸障害、発熱が持続して冷めない、心拍過多など全身症状が明らかであるが、また呑酸、噯気、悪心、嘈雑、泄瀉、矢気、不眠、抑鬱、焦慮などが見られる、飲酒や過労により症状が増悪する、舌は白、苔は厚膩、脈は弦滑数。

4、対策

新型コロナウイルス感染後遺症に対する全体的な対策は辨証治療と飲食調節の二大方面から考える。

辨証治療は、健脾益気、潤肺滋陰、補腎温陽、養心安神を原則とし、相応する中薬処方や経穴処方を考える。

飲食調節は、補気、健脾、潤肺、安神の順位で薬効食物と食用薬物を組み合わせて考える。

ほかに、様々な養生方法も効果的に応用できる。例えば、就寝前に生姜や艾葉による足浴を行う、或いは太極拳、八段錦、五禽戯、坐禅などを行うことで睡眠補助が期待できる。腹式呼吸で気錬を行うことで老年の咳嗽・喀痰困黯の助力になる。

健康知識:便秘解消の五経穴

便秘は日常生活で多く見られ、年齢増加や運動不足などにより胃腸の機能が減退して現れ易い。特に秋季の乾燥に伴って便秘に悩まされている方が増えている。大便が乾燥して腸管に閉塞することで、腹脹腹痛や食思不振、更に煩躁不安などの病症が起こされることもある。

中医学的には、便秘の病位は大腸にあるが、脾胃・肺・肝・腎など臓腑の機能失調に関係している。

便秘の問題の解決には生活方式の調整するほか、人体における経穴の按揉法を行うことも効果的である。下記の五経穴は腑気通調・潤腸通便の効果を発揮して便秘の解消にお勧めできる。

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