日常生活の身体補益のため「血肉有形之品」の肉類は最もお勧めである。普段の食卓において豚・鶏・鴨・魚など様々な食材が多く見られるが、中でも牛肉は天然の補気食材として古くから重要視され、古書にて大いに称賛されている。《名医別録》に「安中益気,養脾胃」と記されているように、気血を補って全身に栄養を与え、脾胃を強めて運化機能を助ける効能があり、《韓氏医通》に「黄牛肉,補気,与綿黄耆同功」とあり、牛肉の補気力は「補気聖薬」の黄耆に匹敵するとされている。また《医林簒要》には「牛肉味甘,専補脾土。」、《本草拾遺》には「消水腫,除湿気,補虚,令人強筋骨,壮健。……補益腰脚。」、《滇南本草》には「水牛肉,能安胎補血。」などとあり、いずれも牛肉の温養脾胃・補益気血・強壮筋骨の性能を解説している。
冬季は生体の陽気が体内に収められて蔵されるため、身体補養の重要な季節であり、合理的に牛肉を食すことにより、最大限にその温養効果を発揮することができる。脾胃を温補して気血の生成を促進し、外界の寒邪を防御するに伴って気血不足や虚弱畏寒などの問題を改善させ、筋骨強壮の作用も果たす。
一、基本性能
中医学的に牛肉は、甘・平の性味で(黄牛は甘・温、水牛は甘・涼)、脾・胃に帰経する。主に補脾胃・益気血・強筋骨の効能を持ち、脾胃虚弱、脘腹冷痛、食少納呆、泄瀉、浮腫、気血不足、少気無力、自汗、大病後の虚労羸痩、腰膝痠軟、消渇吐瀉、痞積臌脹、大腹浮腫、小便渋少、気喘不安、水気病による四肢腫脹沈重などに用いられる。
豚肉、羊肉、鶏肉に比べて牛肉は養生価値が特に優れている。現代研究では、牛肉は良質蛋白質、カルシウムやリンなどを富んでおり、アミノ酸の構成は生体の需要と非常に整合して消化吸収され易く、筋肉減少(萎縮)を防止し、同時に骨格栄養を支持している。また血色素鉄の含量も他の肉類より高く、効果的に鉄欠乏性貧血を改善させる。ほかに、豊富なビタミンB12、亜鉛、セレンなどの微量元素は神経系と免疫系の機能強化に有益であり、高含量のカリウム元素も泌尿系と心・脳血管の機能保護に役立つ。
また牛肉は性質が温でありながら燥にならず、補いながら滞らないため、陽気を温補して体内の燥熱にならないため、冬季の「蔵養」という養生原則に一致しており、脾胃機能が弱い方には特に適している。
ほかに、牛肉は何にも合わせ易い養生食材であり、様々な食材や薬剤と合わせることで養生効果が広げられる。例えば、大根と組み合わせて消食化積・理気化痰の作用を果たし、また山薬と組み合わせて健脾補虚・養護胃腸の効果がある。
二、食用方法
牛肉は部位の異なりにより脂肪の含量が大いに異なっている。一般的にはモモ肉、リブロース肉とランプ肉、そしてヒレ肉などは脂肪含量が比較的少ないため、この赤身の部位をお勧めする。そのうち、リブロース肉とランプ肉は最も柔らかくて様々な調理法に適しているが、モモ肉は比較的線維が粗くて筋も多いため、煮込み方法には適している。
また体質に従って合理的に部位を選択する。脂肪の少ないモモ肉やロース肉は脂肪制限・筋肉強化(脂肪を減らして筋肉を増やす)のもの、鉄欠乏性貧血、そして良質蛋白質補給のものに相応しい。一方、赤身より脂肪が富む肩ロースやバラ肉は長く煮込むことで柔らかくなり易いため、消化機能が弱いものや老年幼児などに相応しい。
通常、牛肉の週摂取量を300~400g調節するのが相応しい。平均して一日に約50gで卵一個の分量に当たり、程好く栄養を得られるし、生体に大きな負担にならない。また調理方法も栄養に大きな影響を与えている。炒る、焼く、そして油で揚げると香ばしくなるが、水分が流失して肉質が硬くなるし、高温により蛋白質が変性を起こして消化吸収に支障を来たす可能性がある。それに対して蒸す、煮る、そして煮込むなど低温調理は牛肉の栄養と風味を保留できるほか、有害物質の産出が避けられるため、健康的である。
ここでは、「寒・燥・虚」という冬季養生の特徴に対し、温補滋養の代表的な養生薬膳料理「黄耆牛肉野菜の煮込み」を紹介する。牛肉を基本とし、補気薬材の黄耆を配合し、更に玉蜀黍や人参などの野菜を加え、健脾養胃・益気養血・温補祛寒の効果に伴って免疫力強化の作用も発揮できる。
適応:特に冬季に身体虚弱、気虚疲労、羸痩、畏寒、手足不温、免疫低下、易感冒などの方には役に立てる。
[材料]牛肉250g、新鮮な玉蜀黍1/2本、人参1/2本、黄耆15~20g、葱5㎝、生姜1かけ、塩と胡椒粉少々。
[方法]① 牛肉を小さく切ってお水に入れ、沸騰したら灰汁を取ってから取り出しておく。② 人参の皮を剥いて小さく切り、玉蜀黍を短冊切りにしておく。③ 土鍋にお水をたっぷり入れ、牛肉、人参、玉蜀黍、黄耆、葱、生姜を加えて強火を掛け、沸騰したら弱火に変えて牛肉が柔らかくなるまで1時間ほど煮込む。④ 適量の塩と胡椒粉で調味して出来上がり。
[補足]脾胃虚弱の場合は煮込み時間を1.5時間ほど長くすることで、肉質を柔らかくして消化への負担を減らす。また口乾、ニキビ、便秘などの場合は補気過剰で逆上せるのを避けるため、黄耆を半分の量(5~10g)に減らす。
三、注意事項
牛肉は冬季に温補養生の良品であるが、全ての人に適応するわけではない。下記の場合は慎重に食しなければならない。
① 痛風の急性発作期の方:牛肉はプリン体の高い食材に属しているため、尿酸増加で症状が増悪する恐れがある。
② 脾胃虚弱者:牛肉は筋繊維が比較的粗くて消化に負担がかかる。胃炎や胃潰瘍の罹患者、消化不良の方、或いは胃腸機能低下の老年は食後に腹脹や呑酸などの不快感が現れ易い。
③ 熱性体質や炎症発作の方: 牛肉は性質が温熱に偏って、虚寒体質のものに向いているとされている。本来熱性体質で逆上せ易い、或いは口内炎や咽喉腫痛や皮膚掻痒症など炎症が発作する期間において牛肉を過食することで熱象が増悪することがある。
