中国の古書には「一年の計は春に在り、一日の計は朝に在る」という言葉があり、春は一年の計画、朝は一日の計画を行う時機である。春と朝は陽気が増長する時で、万物は生気溢れ、一年や一日のためにしっかり計画して基礎を築かなければならない。しかし、こんな時期になっても、どうしてもやる気が出ない、何となく気力不足などを感じている方が多い。普段でも動きたがらず、少し動いただけで直ぐに疲れる、話したがらず、話しても声が低い、更にいつも倦怠無力感、物事に無関心で、まるで怠けているように見えて自分でも情けない感じで悩んでいる。実際、このような方の大半は怠け者ではなく、身体が弱いからである。
中医学では、この気力不足の状態を気虚と言う。身体の気が足らないため、疲れて怠け、やる気が出ないわけである。
気は人体を構成して生命活動を維持する最も重要な物質であり、また臓腑経絡の基本機能でもある。気は臓腑の機能活動から生成され、また臓腑の機能活動に基本的な栄養と動力を与えている。先天的の素因もあるが、往々にして長期にわたる不良な生活習慣から生体の気を損耗して気虚を来たし、臓腑の機能活動も低下する。
気虚は発生部位により主に心気虚、肺気虚、脾気虚、腎気虚に分けられる。ここでそれぞれ異なる発病原因と病状特徴を解説し、治療方針と対策方法を紹介する。
1、気虚の原因と特徴
心気虚:平素の生活や仕事からのストレス蓄積、思考過度などにより心を傷めることから起こされる。主に心悸、気短、自汗、無力などの特徴がある。
肺気虚:幼い頃の肺病罹患による消耗のほか、運動不足、寒冷乾燥などにより肺を傷めることから起こされる。主に息切れ、話し声が低くて弱い、自汗、易感冒などの特徴がある。
脾気虚:多くは寒冷飲食や脂っこく甘い食物の過食など飲食失当、或いは長期に持続する体力労働により脾を傷めることから起こされる。主に四肢無力、消化不良、腹痛泄瀉などの特徴がある。
腎気虚:天賦不足のほか、長期に持続する過労、夜更かし、性生活過度などにより腎を傷めることから起こされる。主に腰腿痠軟、全身無力、手足不温などの特徴がある。
上記のほか、一臓の気虚で五臓間の機能協調が失われて全身に影響し、倦怠無力、精神不振、意欲不足など全体的な総合症状も伴ってくる。また、気虚者の6割以上は舌体の胖大・歯痕が認められる。
このように、日常の生活と仕事から蓄積された単なる疲労が長期化すると、病的な気虚に至る。また生体は有機的な生命体であり、五臓間は相互に緊密な関係を持っているため、一臓の気虚が発生すると、必ず他臓まで影響していき、心肺・心脾・肺脾・肺腎・脾腎・肺脾腎など多臓同病の気虚病証も現れる。更に、「気は血の帥なり」とされており、全身の血液や津液は全て気の推動作用によって循環運行されている。気が不足すると、原動力が弱くなり、血脈の運行や津液の代謝も停滞して瘀血や痰湿など様々な続発病証を来たす。
2、気虚の対策
気虚は生体の気が損耗され、臓腑機能が低下する病理状態に属する。これに対して先ずは病状の進行を止めるため、疲労解消と休養が大事である。この上、補気の治療原則を立て、中薬製剤や飲食調節、或いは針灸推拿や気功養生など伝統医学的な助力を用いて虚弱の気を補益し、臓腑機能を強化することが重要な対策である。
心気虚証:心は神志と血脈を主るため、心気虚が発生すると、精神不振、不眠健忘、面色無華、心悸不安、過労により増悪するなどが現れる。心気補益を治療原則にして生脈飲(人参、麦門冬、五味子)、または柏子养心丸(柏子仁、党参、川芎、遠志、五味子)の漢方薬が服用できる。
肺気虚証:肺は気を主り呼吸を司るため、肺気虚が発生すると、咳嗽気喘、痰を吐く、胸悶気短、話し声が低くて弱い、汗が出易い、風邪を引き易いなどが現れる。肺気補益を治療原則にして四君子湯(党参または人参、炒白朮、茯苓、甘草)の漢方薬が服用できる。
脾気虚証:脾は運化(飲食物の消化吸収と水穀精微の運送)を主リ、肌肉を主るため、脾気虚が発生すると、食欲不振、口淡無味、食後倦怠、脘腹不快、大便稀薄、四肢倦怠などが現れる。脾胃補益を治療原則にして補中益気湯(炙黄耆、党参、炙甘草、炒白朮、当帰、昇麻、柴胡、陳皮、生姜、大棗)、または六君子湯(党参、白朮、茯苓、半夏、陳皮、甘草)の漢方薬が服用できる。
腎気虚証:腎は精を蔵し髄(骨髄、脳髄)を生じ、生殖を主り、納気を主るため、腎気虚が発生すると、腰膝痠軟、四肢不温、呼吸困難(呼気が多くて吸気が少ない)、小便頻数、月経少量、遺精陽痿などが現れる。腎気補益を治療原則にして金匱地黄丸(日本では八味地黄丸:熟地黄、山薬、山茱萸、沢瀉、茯苓、牡丹皮、肉桂、附子)、或いは済生地黄丸(日本では牛車腎気丸:八味地黄丸に牛膝、車前子を加える)の漢方薬が服用できる。
飲食調節の場合は、食物の基本的な性能から温性・甘味を持つものは気を補う効能があり、更に食物の帰経性質(特定の臓腑に対して重点的に作用する)に応じて関連臓腑の虚損補益に用いられる。このほか、五行学説に基づき、五臓間の相生関係に応じて「虚なら其の母を補う」と言う治療原則から肺気虚証には脾気を補うことで対応することができるし、五色と五臓の相関性に応じて百合根や銀杏や白木耳など白色食物を肺気補養、南瓜や栗や薩摩芋など黄色食物を脾気補養、黒豆や黒胡麻など黒色食物を腎気補養に用いることも考えられる。なお、調理方式としてお粥やスープのような水を媒質として煮込む方法が消化吸収能力も低下する気虚状態に比較的相応しい。
針灸推拿の場合は、兪原配穴の配穴方法があり、気虚の臓の背部兪穴と原穴の組み合わせでそれぞれの臓気補益に応用する。即ち、心気虚証には心兪と神門、肺気虚証には肺兪と太淵、脾気虚証には脾兪と太白、腎気虚証には腎兪と太溪を取穴として応用できる。また一部の腧穴には生体補養の特異性を持ち、例えば足三里、気海、関元、大椎、命門などがあり、特に按揉法や温灸法を多く行うことで全身の気を温補する効果が期待できる。
気功養生の場合は、体力的な負担による気の消耗を避けるため、静養功など坐勢や臥勢を取った静功法が比較的相応しい。動功法なら、局部の軽い動作を伴う保健功も応用できる。また六字訣や八段錦などの気功法は、五臓のそれぞれに特定的な効果をもたらすため、具体的に機能低下の臓に対して部分的に応用できる。いずれにしても重要なのは練功時に無理な努力をしてはいけず、そして効果が現れるまで長く持続しなければならない。