健康知識:秋冬における艾草(蓬)の活用

艾草(蓬)は主に山野に生える多年草で、特有の匂いがある。羽状に切れ込みのある葉が互生し、裏面に白い絨毛が密生している。その若葉を摘み、草餅などを作ることで知られているため、餅草とも呼ぶ。中薬では艾葉と言い、純陽の性質に属し、温経止血、散寒祛湿、平喘止咳、安胎などの効能を持ち、また消炎、抗アレルギーの作用もある。蓬の葉を採集して干し、臼で搗いて篩にかけ、陰干しする工程を繰り返して綿状の物を作り、せんねん灸など、お灸を据える際に燃やす材料として用いる。

お灸のほか、日常生活では艾草は非常に簡単な応用法がある。

1、艾葉と焼酎による頸肩腰腿痛の解消

秋から冬に入ると、頚椎症、肩関節周囲炎、腰痛、膝関節症などの持病の発作が多く現れてくる。痛みを解消するために湿布を使用するが殆ど深部まで届かず、鎮痛剤も胃粘膜刺激など副作用が大きく、大変困っている方が少なくない。こんな時には艾葉と焼酎を配合する方法を用いて関節痛を緩解して欲しい。

材料:艾葉(蓬)60g、生姜15g、生葱2~3本、焼酎(30度以上が良い)適量。

方法:艾葉、生姜、生葱を細かく潰してガーゼの袋に入れておき、熱くした焼酎に付けて疼痛部位に塗り付けて擦る。

効果:温経散寒・舒筋止痛の効能を持ち、主に風寒湿邪による関節冷痛に適し、通常1~2回だけで疼痛が解消される。

2、艾葉と竜眼山椒の臍貼付による脾胃虚寒の改善

天気が寒くなるに伴い、本来寒さに弱く、胃腸虚寒で腹痛、下痢、手足が冷える方は症状が増悪し易くなる。少しだけでも生ものや冷たい物を食べると、すぐに吐気、嘔吐、下痢などを起こす。普段は温かい黒糖生姜茶なども役に立つが、艾葉と竜眼山椒の併用により症状を緩和させられる。

材料:艾葉(蓬)1摘み、桂園(干し竜眼)1粒、花山椒6~7粒。

方法:艾葉、桂園、花山椒を一緒に細かくなるまで磨り潰し、寝る前に臍の穴を埋める程度の量を入れ、絆創膏で封する。朝起床時に取り外す。

効果:中焦脾胃を温暖し体内の寒湿邪気を排除し、主に脾胃虚寒による脘腹冷痛、嘔悪泄瀉、手足不温、睡眠不安などに適し、多く2~3回の利用で温かく感じて症状が緩和される。

ほかに、艾草は足浴にも活用することができる。これにより冬季における風寒感冒、咳嗽喀痰、逆上せ(虚火、実火)、眼周の黒クマなどに治療効果があり、当然足の臭いや水虫などの対策としても効果的である。

健康知識:健康的な睡眠生活について

昼と夜の変化は、自然界の陰陽消長運動の一方面である。人間は自然界の一部として、自然界の陰陽転化に従って生命活動を営んでいるため、睡眠と覚醒の生理活動を以てこの律動的な運動に順応している。古来「日出而作(労作)、日暮而息(休息)」と言われるように、人間は一日における陰陽変化の規則性に順応し、陽の昼間は活発に動き、陰の夜間は安静に休むべきである。これにより生体が自然に健康状態を維持しているのである。

生体は睡眠により、覚醒時に発生した精神緊張を解消させて身体疲労を回復させる。充分な睡眠時間及び正確な睡眠規則は生体の健康維持に対して非常に重要である。

先ず睡眠の量に関して、「人生の三分の一は睡眠」と言われるように、一日に7時間から8時間くらいが相応しいと考えている。年齢など個人差があるが、赤ちゃんは一日の半分以上寝ており、年を取ると睡眠時間が短くなる。通常中壮年の場合は少なくとも6時間以上の睡眠時間を保たなければならない。

また睡眠の規則性に関しては、原則として「早寝早起き病知らず」と言う諺の通りである。

就寝時刻について厳密に言えば、22時頃から静かな睡眠態勢になり、23時から睡眠状態に入らなければならない。通常、この時になると人間は自然に眠くなるが、過ぎると逆に眠気が無くなってしまう。一日を十二刻に分けて23時~1時は翌日の子時となり、一日中最も暗黒で万籟静寂で、陰陽が交わって元気が生み始める時期に当たる。この時に最も相応しいことは睡眠で、全力で静かに気持ちよく寝ることである。また人体の体内では胆気が当令(当番)に当たる時刻になり、少陽胆気が生発し始め、これは全身臓腑の気機通順に大きく役立つ。この時刻に、未だ深い睡眠状態に入っていなければ、夜更かしと言い、陰陽の交会及び元気の生成に影響を及ぼし、また気機不暢となり易い。

しかし現代社会では夜更かしが日常的なことになってしまった。社会的な原因では、電気の過剰使用で深夜になっても白昼のように明るい光線が視力から脳を刺激し、中々落ち着いて休めなくなり、仕事の残業や宴会など、活発な夜活動をしている。個人的な原因では、譬え自由時間が取れても、携帯電話やテレビ観劇など、様々な夜生活で睡眠時間を潰している。現代研究によると、夜更かしは最も不健康な生活習慣であり、癌や心脳疾患など死亡率の高い疾病の発病素因の一位となっている。

一方、起床時刻について正確に言うと、朝5時から6時までの間に起きると、自然界の運気規則に一致すると考えている。一日を一年の二十四節季に当てはめると、朝3時は立春、4時は雨水5時は啓蟄(驚蟄)6時は春分に当たり、驚蟄は世の中の万物が春の陽気の変動を感知して冬眠から覚める時期である。春は昇発と動を主るため、朝5時頃醒めて6時までの間に起きて身体を動かせれば、最も自然界の陽気昇発に合わせられる。

しかし現代社会では睡眠不足や夜更かしなどで朝早く起きれず、寝坊をする方が増えている。時間さえ取れれば午後まで寝てしまうことも少なくない。結局、自然界の陽気昇発に従って身体の陽気を昇発させる時機を失うと、寝れば寝るほど疲れが取れなく、いくら長く寝ても起きてから元気が出せない。早起きは体内の陽気を高進させるため非常に重要な一環であり、譬え疲労過度で眠くて起き難いとしても、この時刻に頑張って一度起きて身体を動かすことで体内の陽気を昇発させ、その後は二度寝や昼寝によって不足した睡眠を補給すれば良い。

自然の変化に順応し、陰陽の法則に従って正しく睡眠生活を調整して保持することが、健康の維持と増進に最も重要な事である。

会員通信:NPO法人伝統医学教育会事業活動計画(2020年度)

1、講習会

2020年度の定期講習会は4月後半にスタート予定で、慣例の年間通しで8回(4~7月後半と9~12月前半の日曜日)を計画しています。

理論的な伝統医学教科として中医学基礎理論のほか、臨床における証候に対する中医学的な診察と辨別などの実用的な内容に重点をおきたいと思います。また臨床的な伝統医学教科として、「飲食薬膳療法の基礎と応用」や「整体推拿療法の実技と応用」を実施する計画です。

定期講習のほか、会員限定の特別講座も実施する予定です。

具体的な講習内容については皆様のご要望に合わせて調整し、実際にお仕事や健康に役立つ講習を行っていきますので、ご希望がありましたら事務局へご一報下さい。詳細は決定してから後日別途ご案内します。

2、体験旅行

2020年も「中国伝統医療体験旅行」を計画しています。時期は毎年と異なりますが、いつもの方針と目的で計画し実施する予定です。著名中医専門家による診察処方、中医薬博物館の見学、中医外来における推拿治療など、実際に本場の中国伝統医学に立会って見学と体験の機会を得て、同時に中国伝統医学の背景となる中国伝統文化も触れて頂きたいと思います。

日程などの詳細が決まり次第、ご案内をお送りいたします。皆様のご参加お待ちしております。

会員通信:NPO法人伝統医学教育会事業活動報告(2019年度)

1、講習会

本年度の講習会は、理論講習の「中医診断学における診察技法」、及び実技講習の「耳穴診療法の実技と応用」を4月と5月に開講しました。

中医診断学は中医学基礎を臨床現場に応用するための橋渡を担う目的で、最も基礎的で実用的な臨床技能を育成する学科とされています。これに関して教育会では望診の実際、辨証方法、そして症状の辨別など、3テーマの講習を設けましたが、そのうち診法は望診だけを三回ほど講習したことがあります。今回は「中医診断学における診察技法」のテーマを立て、望診のほかに聞・問・切診を含む中医学の四診全体に触れ、内容を大幅に拡張してテキストを充実した上、また参加者が学校教育や臨床治療の現場で活躍している状況に合わせ、更に講習内容をより専門的に調整し、また臨床技能に重心を置いて講習を実施しました。講習中は中医学診断方法の膨大な内容に対して要領を掴んで臨床応用のために経験を活かして解説しました。授業の内容が以前より随分増えたため、1回追加することになり、来年1月中旬に終了する予定です。

一方、長年に渡って人気のテーマとして何度も開催した「耳穴診療法の実技と応用」の講習を開催しました。従来の少人数徹底指導という伝統医学療法の教育理念に基づき、実技を中心にして講習を行いました。また遠くから受講される参加者を考慮して総時間数を変えず講習回数を減らすように調整しました。講習は実践を中心にし、教育会独自の教育方式により反復して解説した上、皆さんの実技練習を繰り返して行いました。参加者は殆ど中医学の初心者なので、少しでも多く中医学の知識を広げて治療効果を高めるため、中医学の五臓六腑について解説も加えました。また前回の講習から導入した耳介按摩保健体操を毎回講習会の開始時に復習を兼ねて皆で練習し、毎回楽しく賑わっている雰囲気の中で正確に耳穴診療法の基礎及び技能を把握して貰いました。講習会は11月24日(日)に無事に終了しました。

2、体験旅行

今年の中国伝統医療体験旅行は9月17日から21日まで実施されました。2007年主催した上海・北京、及び昨年主催した北京・西安の2都市活動に次いで、今回は北京・承徳の2都市で行いました。

今回も医療体験の主な目的として当会顧問の叢法滋先生の特別外来で、中医学的な診療処方を受けました。叢先生はいつものようにお元気で、熱心に患者さんの病状を聴いて詳細に診察し、それに相応しい中薬処方を工夫して頂きました。また別の日に同じ推拿特別外来にて整体推拿療法を体験して頂きながら、現地の医者と緊密に交流を行っていました。

従来と同じように伝統医療の体験に伴い、伝統文化の体験も重要な一環として行いました。今回も少人数にしており、中国の古都北京において孔廟・国子監を見学し、また明清時代から避暑地として有名な国家歴史文化名城承徳を訪れ、世界遺産の避暑山荘・外八廟、及び自然景観の棒槌山を巡り、滅多に訪れる事の出来ない特別な場所も楽しんで頂くと共に、本場中国での名物料理や家庭料理をご堪能頂けるように手配し、皆さんから大変満足したと感想を頂戴しました。

3、懇親会

12月8日(日)午前中の講習会終了後、当会事務所にて今年の年末懇親会を開催しました。理事4名を含め、当会会員が計16名出席しました。

恒例の通り、事務局で用意した料理及びホットワインや北京白酒のほか、また多くの会員もお料理、お菓子、果物、ワインなど沢山の品物を持ち寄って下さいました。また例年のように「中医学飲食薬膳療法」として、滋養強壮の「老母鶏(雌親鶏)の薬膳スープ」を準備し、これによって会員の皆様に、特に初体験の新会員に理解して頂けたと思います。

理事長から皆様のご理解ご支援ご協力に対して謝辞を表し、そして金原理事からの乾杯の辞を貰いました。その後、それぞれの分野で活躍されている会員の皆様は一つの輪になって食べ飲みながら、鍼灸気功の療法や、飲食薬膳の療法など、様々な健康関連の話題について会話したり懇談したりしました。和やかな雰囲気の中で皆様の交流と情報交換が進み、大変有意義な時間をゆっくりと過ごせたと思っています。

健康知識:立秋後の飲食養生

「一夏無病でも三分の虚」と言われるように、夏季は人体の代謝が激しく、汗も沢山かいて生体は多少虚弱するところがある。ではどうやって体力を回復させるのか?

秋季は最高の保養期間である。しかし立秋になったばかりで、急いで補うと、望ましい効果が得られないのみならず、様々な問題が現れる。これは、酷暑の夏季は夏バテや寒冷を好むなどの原因で脾胃虚弱が起こされているからである。この時に大量の保養品を飲食すると、更に脾胃に負担をかけて消化機能失調を来す。従って、秋季に保養する前に先ずは脾胃を調節しなければならない。目的性を持って飲食すれば、感冒、胃痛、便秘、下痢、面皰などの心配が無用で、健康で軽やかに秋を経て冬に向える。

【脾胃調節】

脾胃機能を強化して体内の湿熱邪気を排出する。下記の三種類の人々は注意を払う。

① 脾虚者――お粥を薦める。

脾虚の者には疲労倦怠、肢体無力、顔面萎黄、食思不振、食少腹脹、泄瀉などの症状が見られる。茯苓、オニバスの実、蓮の実、山芋、粟、玉蜀黍などの食材を用いて健脾和胃の役割を果たす。特にお粥にすると脾胃機能強化に効果的である。

② 胃火旺盛者――苦い物を薦める。

平素辛い物や脂っこい物を好んでいる方は長くなると熱に化して火を生じて胃腸に蓄積し、胃脘灼熱、食欲旺盛、冷飲を好む、口臭、便秘などの症状が現れる。適量の苦瓜、胡瓜、冬瓜、苦い野菜、苦丁茶などの食材を以って胃腸の火を清瀉する。

③ 老人と小児――山査子を薦める。

消化機能が比較的弱いため、胃腸に時々宿食が停滞し、食欲不振や食後腹脹などの現れがある。適量の山査子、大根などの食材を以って消食健脾和胃の効果をもたらす。

【養生注意】

① 西瓜を少なめに、豆を多めに

西瓜は最も清熱解暑の果物として夏季の食用に最適である。しかし暑熱を経過すると生体の消耗が大きく、特に老人の多くは脾胃虚寒になっているので、立秋後は西瓜のような寒涼性質の果物を少なめにして脾胃への損傷を避ける。

代わりに豆類の多くは健脾利湿の作用を持ち、立秋の季節に相応しい。清熱解暑の緑豆、清熱利湿の赤小豆、健脾補腎の黒豆を用いて三豆湯を煮込んで飲用することで、清熱解毒と共に健脾利湿の効果も得られる。

② 辛い物を少なめに、潤肺食物を多めに

立秋後は唐辛子、生姜などの辛い食物を少なめにし、焼肉も少なめに食用する。所謂「一年の内に秋は生姜を用いらず、一日中に夜は生姜を食さない」と言われるようである。秋になり、気候が徐々に乾燥していき、辛い物を食べ続けると養肺には不利である。

代わりに蓮根、黒慈姑など生食または加熱して食用し、養陰潤燥・生津止渇の作用を果たす。更に百合根と白木耳を配合して解燥潤肺の効能があるほか、咳嗽や慢性気管支炎にも一定の効果がある。百合根と白木耳を組み合わせてお粥や羹を煮込むことができ、蓮実、棗、枸杞の実などと配合して白木耳蓮実の羹、百合大棗の粥、百合白木耳の羹などを作れば、潤燥効果が高められる。

③ 冷風を少なめに、温脾食物を多めに

秋季に入ってから涼しい風や冷房を好んではいけない。皮膚、特に顔面部と後頚部の皮膚に風を直接当てないように、薄いマフラーなどで工夫した方が良い。

また「秋虎」と喩える残暑炎熱を防ぐため、夜寝る前にお酢で脚を浸すことをお薦めする、解暑散熱により睡眠促進のためになる。

立秋後は、盛夏季節に飲用した清熱解暑の緑茶、野菊花茶、夏枯草など寒冷性質の茶類は胃気を損傷して脾胃機能を障害する恐れがある。この時期では性質平和で冷えない青茶類がお勧め、例えば鉄観音、凍頂烏龍茶、大紅袍などがあり、紅茶と緑茶との中間位置にあって冷えなく熱くないため、益肺潤膚・生津潤喉の効能を持ち、暑熱時期から体内に残存した余熱を取り除いて津液を回復させる。

お知らせ:特別健康講座のご案内

長雨が続きやっと暑い夏が来ましたが、猛暑が予想されて体調を崩されている方も少なくないと思います。健康な身体は普段の地道な工夫から作られて行きます。そこで健康作りのために簡単で直ぐに皆様のお役に立つ特別講習を今年も開催することに致しました。

昨年の特別講習では強身防御の陳式太極拳の準備動作を一部抜粋して紹介し、大変好評が得られ、今年も皆様の希望に応えて太極拳の講習を行うことにしました。今回は前回の陳式太極拳の準備動作を簡単に復習し、養生保健の楊式太極拳の基本動作を中心にして抜粋して紹介する予定です。以前と同じように実際に練習することで、身に付けてから日常生活に取り入れ、皆様の健康の維持と増進、疾病の予防と治療に役立てて頂きたいです。

時 間:2019年09月08日(日)午後14:30~16:30

場 所:東京都千代田区外神田6-4-5-401 NPO法人伝統医学教育会事務所

対象者:1、伝統医学教育会の会員

2、当会「医療気功の理論と実践」講習会に参加された一般の方々

定 員:6~8名(定員を超えた場合は当会会員を優先させて頂きます)

参加費:2,000円(当会会員は無料参加となります)

電 話:03‐5816‐5234

締 切:2019年08月31日(土)

ご希望の方は電話にて当会事務局までご連絡下さい。

なお、お申込み頂いてからの取消しはご遠慮願います。

 

健康知識:冬病夏治の食事療法

三伏天に入りました。今年も過去4年に続き40日間に渡っています。初伏は7月12日から21日の10日間、中伏は7月22日から8月10日の20日間、末伏は8月11日から20日の10日間となります。中医学の「冬病夏治」という特色的な治療法を施す時期になりました。

冬季の寒冷期間になると、身体の持病が急に再発したり、増悪したりしますが、夏季の暑熱期間になると、これらの病症が徐々に軽減したり、緩和したりします。中には、繰り返して発作する感冒、慢性咳嗽、喘息、慢性咽頭炎やアレルギー性鼻炎、凍瘡、肩凝り、リウマチ性筋骨関節の冷えと痛みなどが挙げられます。

三伏天の期間は人体の陽気が最も旺盛であり、体内に凝集している寒気が解け易い状態になっています。この時期に補虚助陽・温裏散寒の性質の食物薬物を用いることで、自然界の陽気を兼ねて体内の伏している陰寒の邪気を追い払って体内に蓄積している寒邪宿病を取り除くに伴い、虚寒体質の方が虚弱する陽気を補益し調節し、生体の免疫機能を高めて一年間の疾病抵抗能力を増強することができます。

相応しい飲食薬膳を用いた調節補養は半分の労で倍の効果が上げられ、病状の進行を抑えて再発を止めます。先ず特に何かの病症を持っていない方には、乾姜紅茶という飲料をお勧めします。乾燥した生姜の煮込み汁に紅茶を入れて飲用することで、陽気を疏通させて冬季の風寒感冒を予防することができます。

ここでは冬病夏治の飲食処方を紹介しますので、それぞれ身体の状態に応じて利用して下さい。

① 慢性気管支炎――緑茶ゆで卵

緑茶15g、卵2個、お水を500mlほど加えて卵白が固まるまで茹で、殻を剥いてから更に水分が乾くまで茹でて卵を食用する。

肺陰虚型の慢性気管支炎、気管支拡張、気管支喘息に適応する。

② 慢性咳嗽・喘息――鶏卵の生姜炒め

生姜を千切りにし、お鍋のサラダ油が熱くなったら生姜を入れて炒め、その後は溶いた卵を1~2個加えて一緒に炒める。毎朝一回食用する。

脾肺虚寒型の慢性咳嗽・喘息、慢性泄瀉に適応する。

③ 空咳無痰――梨川貝母の羹

梨1個、皮を剥いてスライスに切り、薬局から川貝母12gを購入して粉末に潰し、氷砂糖を加えて一緒に煮込んで飲用する。

肺熱型の老年性気管支炎の空咳、痰が少ない者に適応する。

④ 慢性泄瀉――豚胃袋の二姜スープ

豚の胃袋1式、お酢で生臭みを洗い落とし、千切りにする。薬局から購入した乾姜10g、良姜10g、草果3g、そして葱の千切り、生姜のスライスなどを一緒に土鍋に入れて豚の胃袋が柔らかくなるまで煮込む。3~5gの食塩を入れて空腹時に食用する。

脾胃虚弱型の脘腹冷痛、飲食不化、慢性泄瀉、身体羸痩、倦怠無力などに適応する。

⑤ 月経痛、不妊症――羊背骨の甘栗スープ

甘栗12個、羊の背骨1本(金槌で潰す)、肉従蓉12g、草果3g。全てを瓦罐(または土鍋)に入れて適量の葱と生姜を加えて2時間ほど煮込む。適量の食塩を入れて空腹時に食用する。

腎陽虚衰型の婦人科慢性病症、腰腿痠軟、腰膝冷痛、筋骨無力などに適応する。

⑥ 脘腹冷痛――胡椒鮒

新鮮な鮒1匹(約250g)、腮・鱗・内臓を取り除く。生姜を20gスライスに切り、砂仁、胡椒粉と一緒に魚のお腹に入れ、お水を加えて中火で煮込む。柔らかくなったら食塩で調味して料理として食用する。

脾胃虚弱型と胃寒型の胃痛に適応する。

⑦ アレルギー性鼻炎――白胡椒雄鶏のスープ

雄の鶏を1羽綺麗に洗浄して塊に切り、白胡椒9g、草果3g、良姜3g、葱、生姜などと一緒に煮込み、適量の食塩で調味して空腹時に食用する。

寒がり、羸痩少気、寒さで咳する、繰り返す感冒、アレルギー性鼻炎、冬に増悪する喘息などに適応する。

⑧ 反復感冒――黄耆烏骨鶏のスープ

黄耆30g、烏骨鶏半身、鶏肉が柔らかくなるまで煮込み、調味料を加えて3回に分けて肉を食べてスープを飲む。続けて1ヶ月食用する。

益気養肺、滋腎養血、固表防寒の効能を持ち、感冒の予防に適応する。。

⑨ 寒痛嘔吐――大豆山椒のスープ

大豆30g、花山椒5g、お水500ml、一緒に強火で煮込み、沸騰したら弱火に変えて大豆が柔らかくなるまで煮込み、調味して大豆を食べてスープを飲む。

健脾寛中、和胃止嘔、散寒止痛の効能を持ち、脾胃虚弱型の脘腹冷痛、嘔吐などに適応する。

上記のほか、一部の食物を用いて凍瘡の外用薬として塗ることで、冬病夏治の効果が得られます。

熟成した紫皮の大蒜の一つを選んで、皮を剥いて泥状に潰し、日射しの下で温かく干す。冬場、凍瘡になり易い部位に1日3~5回薄く塗り付け、連続して5~7日間行う。

新鮮な胡麻の葉を凍瘡皮膚の上で20分間擦り、汁液を皮膚表面に残し、1時間後に綺麗に洗う。1日数回、連続して1週間行う。

紅花10g、桂枝15gの煮汁を布に浸し凍瘡部位に貼り付ける。1日1回、連続して5日行う(妊婦には使用しない)。

健康知識:三伏天における冬病夏治

中医学では「冬病夏治」という特色的な治療方法があります。医学古典《黄帝内経》の《素問・四気調神論》にある「春夏養陽」及び《素問・六節臓象論》にある「長夏勝冬」の克制関係から生まれた養生治療の考え方です。冬季に発生し易いか増悪し易い疾病に対し、自然界の陽気が最も旺盛な夏季において目的性のある鍼灸や薬物などの治療を施すことにより、生体の抵抗能力を高め、病症の軽減または治癒の効果を果たします。これを冬病夏治と言います。

冬は陰、夏は陽に属します。冬季になると、外界気候は陰盛陽衰の状態になり、本来の生体の陽気が不足するため正気が邪気を体外へ祛除できなくなっています、或いは重なって陰寒の邪気を感受し易いため、長患いの咳嗽、喘息、泄瀉、関節冷痛、体虚で寒がりなどのような慢性病症は繰り返して発作するか悪化してしまいます。夏季になると、自然界と生体の陽気が盛んになり、これらの疾病は症状が一時的に軽減しますが、根治にならず冬季になるとまた再発します。実は陽熱が最も旺盛な夏季において、積極的に温補陽気・散寒祛邪などの治療手段を行うことにより、生体の抵抗能力を高めると同時に陰寒の病邪を取り除き、冬季病症の予防と治療の目的に達することができます。

夏季でも三伏天の期間は自然界と人体の陽気が最も旺盛であり、体内に凝集している寒気が解け易い状態になり、身体も陽熱に当たって毛穴や経穴などが開いて開泄状態になっています。この時期に補虚助陽・温裏散寒の性質の食物薬物或いは経穴治法などを用いることで、自然界の陽気を兼ねて体内の伏している陰寒の邪気を追い払い易いです。また自然界の勢いに従って体内に蓄積している寒邪宿病を取り除くに伴い、虚寒体質の方に虚弱する陽気を補益し調節することもでき、生体の免疫機能を高めて一年間の疾病抵抗能力を増強することができます。

三伏天における冬病夏治に相応しい慢性病症として、下記の六種類が挙げられます。

① 呼吸系疾患:上呼吸道感染症、咳嗽、喘息、気管支炎、肺気腫、肺結核、アレルギー性鼻炎、咽喉炎など、特に冬に再発し易い慢性咳嗽、慢性気喘、反復感冒など肺腎虚弱性の病症;

② 消化系疾患:消化不良、胃炎、消化性潰瘍、結腸炎など、特に慢性泄瀉、消化機能低下など脾胃虚寒性の病症;

③ 骨関節疾患:頚椎症、腰椎症、五十肩、関節リウマチ、リウマチ様関節炎、強直性脊柱炎など、特に慢性的な頸・肩・腰・腿の関節冷痛、肢体麻木などの風寒湿性病症(痹証);

④ 婦人科疾患:月経痛、子宮内膜症、不妊症など、特に慢性的な小腹冷痛、不正出血など脾腎陽虚性の病症;

⑤ 小児科疾患:小児喘息、百日咳、小児消化不良、栄養障害などの発育不良性の病症;

⑥ 生体機能低下:易疲労、易感冒、食思不振、不眠、身体羸痩、冷え症、慢性背腰冷痛など様々な身体虚弱性の病症。

今年の三伏天も過去4年に続き40日間に渡っていきます。初伏は7月12日から21日の10日間、中伏は7月22日から8月10日の20日間、末伏は8月11日から20日の10日間となります。この時期を上手く利用することで、一年を通じて健康な状態を築いて頂きたいです。

具体的な方法として、先ずは飲食起居から注意して生体の陽気を大事に保養しなければならなりません。飲食面では、夏は脾胃を大事に保って寒気を排除するため、最も肝心なのは寒冷飲食を避けることです。通常は炎熱暑熱の対策としてあっさりした苦涼性質の飲食が気持よく思われますが、虚寒体質の方には温熱性質の食物薬物をお薦めです。例えば羊肉生姜スープのような益気温陽の作用を持つ食事により、体内の陽気を温補すると共に、発汗して体内の寒気を排出することができます。また起居面では、同じく体表の護衛する陽気を保って寒冷環境を避けなければならなりません。温暖化に伴ってどんどん暑熱が厳酷になる日々は冷房に頼る方が多いようですが、陽気虚弱の方には自然通気の温かい環境が重要です。更に陽気を補う様々な手段も工夫できます。例えば、朝方日出の頃、背中を日光に浴びることで、陽気を補い、慢性咳嗽、感冒に罹り易い、寒がりなどの症状を改善させられる。夕方日暮の頃、日に当たって熱くなって石や木のベンチに座ることだけで、慢性泄瀉、多尿頻尿、前立腺炎や膣炎などの前後陰疾病に比較的良い効果が得られます。

温灸法は比較的多く応用されている冬病夏治の方法です。鍼灸治療院の治療を受けるか、専門的な指導を受けて自分で上手に取り入れることで、持病根治・健康増進の大きな収穫が得られます。

健康知識:経穴による心臓の養護及び救急

心臓病は発病が急激で、死亡率が高いことから、従来死亡率の一位か二位として重視されている。近代社会では生活リズムの加速やストレス過剰などに伴い、心身疲労により心臓に負担をかけて心臓の機能障害に繋がっている。

中医針灸学の経穴刺激を用いて自ら日頃の心臓機能を養護ができ、更に心臓疾病が発作する緊急な場合、応急処置として心機能の調節により救急救命の役割を果たす。

1、経穴

① 内関:手厥陰心包経の絡穴であり、また八脈交会穴で陰維脈に通じる。

[効能]寛胸理気、寧心安神、活血止痛。主に胃・心・胸の疾病に用いられ、特に心拍調節に長じる。

[取穴]手掌面で手関節横紋から肘にかけて2寸(示指・中指・環指の遠位関節部の3本幅)、2本筋腱の間に取る。

[施術]四指を経穴の手背面に当てて支え、拇指指腹を用いて経穴を深く揉む。

② 神門:手少陰心経の原穴である。

[効能]益気養心、鎮静安神、活血止痛。心の原気に繋がって心気を補い、また心神不安にも効果的である。

[取穴]手掌面の手関節横紋の小指側端、豆状骨の拇指側の陥凹部に取る。

[施術]四指を経穴の手背面に当てて支え、拇指指先を用いて経穴を強く押える。

③ 極泉:手少陰心経が体表に出て初めての経穴である。

[効能]寧心安神、寛胸理気、活血止痛。主に心臓機能の調節に用いられ、また心神疾病の鬱症状にも効果的である。

[取穴]両側腋窩の頂点で、腋動脈拍動部に取る。

[施術]拇指を肩前面に当てて支え、次指または中指の指先を用いて経穴に当て、筋のような物に触れ、後方から前方へ弾く、ピリピリする通電感が手指まで放散させるように行う。

2、応用

① 心臓養護:平素心臓が弱い、或いは過去に心臓病歴を持つ場合は、日頃上記の諸経穴に刺激を行うことで、心臓の機能を改善させることができる。

② 心臓救急

心部の不快感や疼痛、胸部の苦悶・圧迫感、息苦しい、動悸、大汗などの症状が現れる場合は直ちに内関、極泉の経穴に刺激を行うことで、急遽心臓の機能を調節して救急の時間を稼ぐことができる。

ほかに、手掌の拇指球部は心臓の反射区域に当たる。普段両手を合わせて按えたり揉んだりすることで、強心作用を果たす。緊急の場合は強く揉む、或いは青紫の瘀血脈絡を破ることにより、救心効果を起こす。

健康知識:摩腹揉腹、養生防病

腹部の摩揉法による養生は既に数千年の歴史を持っている。唐代医聖の孫思邈は「食後行百歩,常以手摩腹」(食後に百歩を歩き、常に手を以て腹部を摩する)を自分の養生益寿の道としていた。従来、医療気功の鍛錬においても基本操作の一つとして重視されている。

摩腹揉腹の方法は簡単に聞こえるが、効果が非常に大きい。少しずつ行うことで、先ず消化を促進して腸道を通調させるほか、また精神状態を整えて睡眠を改善する。更に長期に持続することで、健康の維持や増進、疾病の予防と治療に大いに役立つ。

中医学では、大腹は脾に属し、脾胃は気血生化の源である。腹部は中焦(気機の枢)に当たり、生命の後天根本である脾胃の所在である。同時に内外からの影響を受け易いため「百病の根」にもなる。清代医家の陳飛霞が腹部と長寿との関係について「腹者,水穀之海,水穀盈也,主寿。」(腹者、水穀の海なり、水穀が充満して寿を主る)と論じてある。また臍(任脈の神闕穴)を人間の先天的な供養通路とし、生体を補養する任脈・衝脈・帯脈などが近くに順行している。腹部の摩揉法により、上下を通和させ、陰陽を調和させ、祛旧生新、外感の諸邪を駆除し、内生の雑病を清除することなど、様々な効果が期待される。

1、百病解消:臨床実践によると、腹部において摩法揉法を行うことにより、肺気腫、心疾患、高血圧、糖尿病、腎炎など様々な慢性疾患に良好的な補助治効を果たす。また摩腹揉腹により、胃腸の蠕動が促進されて便秘の解消に役立つ。

現代医学では、臍下部の腹腔及び骨盤腔に主な神経節が分布しており自律神経機能に最も密接に関係している。腹部の摩法揉法により、胃腸の蠕動を促進して消化液の分泌を調整し、飲食物の消化吸収が充分になり、生体は充足な栄養を得られて健康・強壮・長寿に繋がる。また腹筋への刺激により腹部の血液循環及びリンパ循環を調節することもできる。

2、健美減肥:腹部は脾に属し、脾は気血生化の源となる。脾が健運を失って気血が鬱滞させることは肥満の主な発生原因となる。故に肥満治療に当たっては先ず脾の調整から始まるべきである。摩腹揉腹により腹部の運動も促し、健脾助運の効能を果たして腹部の気血積滞を減少させる。

3、成長促進:成長期で脾気虚弱の場合は、多食なのに羸痩、身長が伸びず、頭髪が黄色いなどの症状が見られる。これは飲食物が体内において運化されず、消化吸収されないことである。摩腹揉腹により脾胃の運化機能を高め、水穀が気血に化生させるのを促進することができる。

ここでは日常に行える摩腹揉腹の方法を紹介するが、実際これに拘る必要はない。要領を把握した上、徐々に操作していくに伴い、各自実施し易いような特徴を持てば良い。健康養生のためには、自分が気持ち良く、長期に持続することが大切である。

【操作時機】

一般的にそれぞれ夜就寝前及び朝起床前に行う。時間が足りない場合は寝る前だけでも良い。

【操作方法】

全身をリラックスさせて仰向けの体位を取り、両足は肩と同じ幅に広げ、顔はやや微笑んで舌を上顎に当てる。精神を集中させて自然に呼吸する。

推拿療法の基本手法として、摩法と揉法は共に円を描くように行う。摩法は即ち腹部を摩ることで、手掌で腹壁の上を移動し、比較的に軽い手法に属する。一方、揉法は即ち腹部を揉むことで、手掌を腹壁の上に乗せ腹部を一緒に動かし、比較的に強い手法に属する。力を適度にして速度を均等にし、回数は18回から36回乃至72回まで自由に調整できる。

摩腹の場合は、先ず右側手掌を用いて臍を中心にし、時計回り方向へ円を描くように行い、最初は臍部において小さい円から始まり、徐々に螺旋状に広がり、最後は腹部全体に大きい円まで摩法を行う。右手の操作が終わってから左側手掌に換えて反対方向に沿って同じ回数を行う。

揉腹の場合は、両手を重ねて(男性には左側手掌を下に、女性には右側手掌を下に置く)臍中央に置き、時計回り方向へ円を描くように行ってから反対方向に沿って同じ回数を行う。

【注意事項】

摩腹揉腹は飽食や飢餓の時に行わず、排尿や排便を我慢してはいけない。

また腹腔内における悪性腫瘍、胃腸穿孔、内臓出血、虫垂炎や腹膜炎など急性腹症の場合は禁止する。

摩腹揉腹の操作中に、腸鳴音や排気など、或いは腹内温熱感や飢餓感や便意などが現れる場合は、いずれも正常反応に属する。